11話 ディザイアの楽園
黒部が使っている銃は極めて強力、しかし、デメリットとしてショップで弾を購入しなければ使用することは出来ない。購入できるのは1度に6発まで、フィールド上には常に弾丸が6発以上存在できないようになっている。初めの威嚇射撃、白野を助ける時に使った銃弾で初期装填状態の6発は使い切ったが、その後単独行動をしていたカペルがショップに入り、弾を6発購入して黒部に渡していた。
そして、銃のダメージはと言うと1発につき1~2割のダメージを受ける。つまり当たりどころが悪ければ5発でアウト。さらに、3発しか当たらなかったとしても、カペルが残りの体力を削れば相手をダウンすることが出来る。
以上、補足説明でした。
『さっき、ショップを見つけたの! 私は別のものを買っちゃったけど、アイカならレベルアッパーも買えるわよね!』
『うん! いこいこ!』
ホリィは先程のジェットコースターの列にアイカと並ぶ。
『え? これなんの列?』
『何って、ジェットコースターよ?』
それを聞いた瞬間、アイカの膝はガクブルと震えだす。
『だっ、大丈夫よ! さっきわたしも乗ったけどあっという間に終わるから! 楽しいわよ!?』
『いやぁ、怖いのいやぁ・・・・・・っ!』
『ちょ、ちょっと! アイカったら!』
嫌がるアイカを無理やり乗せるわけにはいかないし、仕方ないけど諦めるしかない。ホリィはショップを諦めて逃げるアイカを追いかけた。
私とハルハルは前のバトルで頼りない命綱1本を体に結んでビルから飛び降りたっていうのに。
アイカを追いかけて走っていた時、突然の銃声が鳴った。
『まっ、またぁっ!?』
足を止めたアイカを抱いて、そのまま近くのドッキリハウスに駆け込んだ。
『ふぅ、ここまでくれば安心かしらねぇ』
『今の音、鉄砲?』
『全く、心臓がバクバクしてるわよ。触ってみる?』
『ほんとに? ・・・・・・あんまり感じないかも』
『あらそう』
そんなくだらない会話をしながら、ドッキリハウスを進んでいく。
『ここなら大丈夫かも・・・・・・』
『ドッキリとは言っても、たいしたことないわよ、きっと』
ゆっくり歩いていると、鏡だらけの部屋にたどり着いた。
『わー、私がいっぱいいるー』
『鏡よ、古臭いけど、それがいいのよね』
平成ノスタルジーを感じながら、壁伝いにゆっくりと進んでいく。その時だった。
『あっ!? カペルさん!?』
『たっ、戦うわよぉっ!』
突然カペルが目の前に現れた!
『あはは、弱ったなぁ。どれが敵なのか・・・・・・』
鏡のせいでどれが本当の相手の姿なのかが判別しにくい、それでも、剣を引き抜く。
『でも大丈夫だよ、僕が君を守るからね』
『誰に向けて話してるのよ!?』
お互い混乱する状況だが、ホリィは早速斧を取り出し、壁を破壊し始めた。
『こっ! 壊したら怒られるよぉ!?』
『大丈夫っ! 怒られたりなんてしないから!』
バリバリメリメリと壁を破壊し、ようやく外にたどり着いた。
『2対1なら勝てるに決まってるわ!』
『そうだね! 私がホリィちゃんを回復するから! きっと勝てるよ!』
『ふふ、可愛らしいね。子猫が2匹になったところで、ライオンには勝てないんだよ』
そう言うと、カペルは堂々と宣言した。
『現時点での僕のレベルは3! どうだい、勝てそうかな?』
『レベル差なんて、ひらめきと2人の力が合わされば乗り越えられるわ!』
『というか、言い忘れてたんだけどね、これは2対2だよ? 僕には心強いスナイパーが味方してくれてる』
そう言って、カペルは北側を指差す。
メリーゴーランドやコーヒーカップがある方だ、その中でも目を引く巨大な遊具、観覧車。あそこにいるに違いない。
『やだわぁ、もしかしてピンチ?』
『もしかしなくても大ピンチだよぉーっ!』
2人揃って逃げることはおそらく出来ない。なら、二手に分かれて片方は助かる作戦はどうだろうか。ベストだとは言い難いが共倒れするよりはマシである。
『いい? アイカちゃん、私はだめもとで戦ってみる。もし勝てそうになかったら合図するわ、そしたら私のことは置いて急いで逃げて!』
『分かった!』
『ああ、あら・・・・・・。意外と物わかりいいのね、もう少し反対してくれると嬉しいんだけど』
『緊急事態だから!』
非情なのか合理的なのか、よくわからないアイカの返事を聞いてホリィはカペルに斧を構える。
『よし、じゃあ行くわよ。ほんとにレベル3なのかも怪しいしね』
『安心して、僕は嘘はつかない主義なんだ』
斧を振り回して、そのままカペルに突進する。
カペルはそれをひらりと躱し、背中に一太刀入れる。
『いったぁっ!?』
ごっそりと体力を削られる。さらに、銃弾が一発右足にヒットする。
『だっ、だめだわぁっ! アイカちゃん逃げて!!』
『わ、分かった!』
『なるほど、自分を囮に逃がす作戦か、感動したよ。じゃあお望み通りアイカちゃんは見逃してあげるよ』
『まるでハンデをあげているような物言いだけど、結局は堅実に1人ずつ倒していこうって考えてるだけでしょう・・・・・・?』
『あはは、ばれちゃったか。でもね、物事には順番が必要なんだよ。あちらこちらに手を出して、結局収拾がつかなくなるのはスマートじゃないからね』
『胸に刻むわ・・・・・・。私は優先順位をつけるのが苦手なものでね』
そう言うと、ホリィは胸の谷間に手を入れ、何かを取り出した。
『えっ、煙幕か!?』
『もう遅いわっ!』
煙弾を叩きつけ、急いでその場から離れる。
『私憧れてたのよぉ! 女スパイみたいにこうやって華麗にスマートに逃げ出すの!』
『窮鼠猫を噛んだか・・・・・・。まぁ、そういうこともあるよ、落ち着いていこう』
煙弾やまきびしなど、ショップにはいくつか消耗品アイテムが並ぶことがある。ホリィはショップにたどり着いたあと、少し粘ってスパチャを集め、煙弾を買ったのである。レベルアッパーも買えたのにも関わらず気分が変わって煙弾を買ってしまったのがここで活きてきた。
『ショップと言えばレベルアッパーを買うところってイメージよね? だけど、他のアイテムだってレベルアッパー以上に役に立つのよぉ!! ありがとう私の気まぐれー!』
煙の中をなんとかくぐり抜け、無事に遠くまで逃げてこれた。
『ふぅ、よかったわぁ』
『おぉ、煙が上がったから来てみたら、ホリィ姉みゅ』
『ハルハル! 合流できて良かったわ・・・・・・はぁ』
『レベルアッパーはあつまったみゅん?』
『そのぉ、0なんだけど。許してくれるわよね?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。
『許さんみゅん。何をサボってたみゅん』
『仕方ないじゃない! 挟んであげるから許してよぉ!』
『何をだみゅーっ!!』
『そういうハルハルはどうなのよ!』
『とりあえず3つは入手した』
『仕事早っ!? それさえあればカペルにも勝てるわ!』
『やっぱりホリィ姉は頼りないみゅ。とりあえず着いてくるみゅ、スパチャが溜まってるのなら買い足せるみゅ』
『そうね! イくわよー!』
ショップの場所は観覧車の中、お土産屋の中、そして入場受付だった。スパチャの関係で2つしか買えなかったが、この5つのレベルアッパーを誰に使うかで相談になる。
観覧車には黒部がいなかった、すでに移動したのか、それともカペルのデタラメだったのか。
『やっぱりここはしっかりものの妹が使うべきみゅ』
『私だってレベルアップしてみたいわよ!』
『じゃあ2人で分けるみゅ?』
『確かにそれも良いかもしれないけど』
『じゃんけんにするみゅ』
『そうねぇ、よし、じゃんけーん』
ぽんっ!
グー、チョキ、パー。
『あいこだみゅ』
『あいこで・・・・・・』
・・・・・・。
繰り出された3つの手。それが意味することは。
『ぐへへぇ・・・・・・』
『ワールが混じってるみゅっ!?』
『これって、なんのじゃんけんですかぁ? 負けたら、おしおきとかですかぁ・・・・・・?』
あ、そうそう、と思い出したように白野は腕についた手錠をハルハルにもはめる。
『ハルハルがハメられちゃったわ!?』
『ぐぐ、油断したみゅ・・・・・・』
『ぐふ、ぐふふ・・・・・・。私を殴って燻して嬲ってくれても嬉しいですけど・・・・・・この手錠を外せるのは私だけ、もしダウンさせたらハルハルは身動きが取れなくなりますよぉ』
『だったら手錠を斧でぶった切るわ!』
『無理です、この手錠はコスチュームの一部ですから・・・・・・。VTuberの基本衣装は脱ぐことは出来ても絶対に破れないし壊れないので。それより! 私を痛めつけてくださいぃ・・・・・・。蔑むような目で見られながら、痛いことされるの・・・・・・あぁ、ぞくぞくしちゃいます~!』
『と、とりあえずレベルアッパーは渡すみゅ!』
繋がれている方とは逆の手でレベルアッパーを取り出し、ホリィに渡す。
『今回の鍵はホリィみゅ! 絶対に勝て!!』
『わ、分かったわ!!』
早速レベルアッパーを全て使用し、ホリィのレベルは6になる。
『レベル6、とてつもなく強いじゃない・・・・・・。ただ、体力が半分くらいしか残ってないのよね。銃弾を3発食らったらアウト、撃たれる前にアイカと合流できたらいいんだけれど、その前にっ・・・・・・』
ハルハルをその場に残し、ホリィは他のVTuberを探して走り出した。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『さてと、そろそろワールも敵を捕まえたところかな・・・・・・』
双眼鏡で探していると、白野に繋がれているハルハルを見つけた。
『離すみゅー!!』
ぽかぽかぽか
『ありがとうございますぅっ! もっと、もっと叩いてっ!!』
すぐさま銃弾を込める。ホリィに撃った1発を引いた残り5発で確実に仕留められる。
バキュン!!
『痛ぁっ!! 撃たれたみゅーー!!』
バキュン! バキュン! バキュン!
『身動き取れないみゅ、蜂の巣にされるみゅんー!!』
『これでラスト!!』
バキュン!
最後の弾丸もハルハルを射抜いた。
ハルハル ダウン。
『うう。ハルハルがいじめてくれないですぅ・・・・・・』
ダウンしたハルハルを見て、手錠を外す白野。
もっといじめられたいっ! 痛いことをされたい! 白野はさらなる痛みを求めてハルハルを置いて歩き出した。
『や、やられたみゅ。油断しすぎたみゅう・・・・・・』
地面に這いつくばるハルハルとは対象的に、高所から見下ろしている黒部は勝利のガッツポーズを決めていた。
『やった! ワールが手錠さえかけてくれれば、絶対に勝てるんですよーっ! なのにワールは気まぐれだし協力してくれない・・・・・・。ほんと困ったものですよーっ!』
もし、ワールを倒した場合は手錠で繋がれた相手が動けなくなり、戦力にならない足手まといになる。
ワールを倒さなかった場合も同様、戦力にはならないし、なんなら拘束されてる状態でわたしに撃たれたら避けることは出来ない! さらに、ワールは手錠を外して他の獲物を拘束しに行ける!
厄介なエースを確実に仕留める最強の方法! そう、スペ3返しみたいに、最弱のカードで最強を倒せるの! 今回は前回大活躍のハルハルを倒せたんだから、勝利はもらったも同然だよね!
ふふ、あのホリィって人も馬鹿だなぁ。あの場合はワールを倒しとくのが一番なのに! だって、拘束された味方は動けなくなるけど、ワールをダウンさせれば少なくとも相打ちにはできる! 今回の方法だと倒され損だよね! ワールはまだダウンしてないんだし!
考案者は双子の姉の私! 黒部ラン! 全ては褒めてもらうため! 視聴者、カペルさん! ワールにも、社長にも・・・・・・っ!
ズシャァッ!
舞い上がっていた黒部だが、突然背中に痛みが走る。
『え・・・・・・』
『おつかれさまね! 黒部ランちゃんっ!』
そこにいたのは、まさかのホリィだった。
『う、嘘、なんでここが・・・・・・』
『ふふ、スナイパーって言うと、ビルの屋上とか、すごく高いところから撃ってくるものよね。そんな先入観に騙されてたのよ』
そう、さっきから黒部がいたのは、メリーゴーランドの屋根の上。対して高くない場所だった。
『まず褒めたいのはカペルね、彼女、本当に嘘をついてなかったんだから』
彼女が指さしたのは観覧車ではなく、メリーゴーランド。おそらく、あれはミスリードだったんだ。先入観で私を騙そうとしてた。
『さっき、観覧車に行った時、私ちゃんと確認したのよ。でもね、どこにもあなたはいなかった。それで考え直したの。別の場所なんだって』
そして、ホリィはもう一撃黒部に叩き込む
『くっ・・・・・・』
黒部ラン ダウン
『あのドMちゃんと出会ったフリーフォールでね、ドMちゃんが首をしめられてたところを助けたのが見えてたの。フリーフォールは遊園地の中心にあるんだけど、座ってた位置の関係上、遊園地の北側にあなたがいることが分かった。だって、フリーフォールは柱の周りに席が連なってるから、正面側の位置にいる場合でしかドMちゃんを助けることは出来なかったでしょ? それ以外だと柱が邪魔するから。北側と言うと、そう、観覧車がある方ね』
『でも観覧車に私はいなかった。それで、メリーゴーランドとティーカップ、どちらかにいることを予想したわけなんですね・・・・・・』
『そもそも、不思議に思ってたのよ、スナイパーのくせに全然撃って来ないなぁって。映画知識でしかないけど、スナイパーだったらこの遊園地中全てが射程圏内だもの。それは、低いところにいていろんなものが障害になるからだったのよね』
黒部は顔を歪ませる。
『だから、ハルハルを餌に、あなたの気を逸らしたのよ。2択だったけど、運よく1つ目であなたを見つけたわ。この尻尾のおかげで登るのには苦労しなかったし』
『油断しましたぁ・・・・・・。私としたことがぁっ!! これじゃあ褒めてもらえないですよぉ!!』
『ちなみに、高い場所にいかなかった理由について考察してみたわ。観覧車にはショップがあったから、銃弾の補給のために低い場所にいたとは考えられない。それに、狙撃の腕に関してはドMちゃんのリードを切るくらいなんだから、技術的な問題でもない。だったら高い場所に行かない理由ってなんなのかしらね?』
『そ、それ以上は・・・・・・っ!!』
『あなたは、高所恐怖症だったのよ!!』
その一言とともに、ホリィはトドメの一撃を食らわした。
黒部はその場に倒れ込む。
『そ、そのとおり、私はスナイパーのくせに高所恐怖症なんですよぉ・・・・・・』
『あら、結構適当に言ったつもりだけど、当たってたのね』
『適当・・・・・・がくっ』
意気消沈する黒部を背に、ホリィは髪をなびかせて歩きだす。
あとは攻撃してこない白野と、レベルの低いカペルを倒せれば勝利だ!
『ハルハルちゃんは犠牲になっちゃったけど、あなたを倒せさえすれば勝利は目前ね、頑張るわよ~!!』




