龍神様と雨宿り
ある雨の日。
祠の庇の下へ少女が駆けこんだ。
七つ位で、片目に眼帯をしている。
顔を上げた少女は先客に気づいて驚いた。
普通は見えないが、この子には見えているようだ。
着流しの青年姿の龍神が。
「あ、ご、ごめんなさい、勝手に入って……」
「構わぬ」
退屈していた龍神は、怯える少女に色々なことを尋ねた。
少女の名はさち。
親はなく、右目もない。
それゆえ長者の息子にいじめられ、今も逃げてきたのだそうだ。
やがて陽が差すと、さちは雨宿りの礼を言い帰っていった。
■
それからさちは、たびたび祠を訪れるようになった。
供え物をし、辺りの掃除をする。
神社に引き取られたというので、巫女まがいの仕事を押しつけられたのだろう。
さちはいつも会うなり畏まって頭を下げ、いつも挨拶に一言加えた。
「隣の猫が子を産みました」とか。
「今朝は虹が出てました」とか。
龍神はいつしか、さちの訪れが楽しみになっていた。
■
長者の息子が、さちを嫁に貰うらしい。
さちが十八の美しい娘になっていることに、龍神は初めて気がついた。
それからしばらく日照りが続いた。
村人たちは巫女を奪われた龍神の祟りだと勝手に恐れ、こんなことを言いだした。
「さちを龍神の生贄にして川に沈めたらどうか」
龍神は怒った。
巨大な龍の姿になって空をうねり飛び、大嵐を呼び雷を轟かせた。
すると、さちが荒天の中を駆けてきた。
「龍神様、祠をお守りします!」
ずぶ濡れで風呂敷から釘と金槌と木板を出す。
龍神は面食らった。
思わず人の姿に戻り、さちの前に立つ。
「待て待て。私はおまえのために怒っているのだぞ」
「なぜですか?」
「生贄にされかけているのだろう」
「生贄にされたら龍神様が助けてくださいますよね?」
「いや助けるが……おまえは長者の息子の嫁になるはずだったのでは?」
「なりませんよ!? いじめられた恨みは一生忘れないですからね?」
「…………」
「私はずっと龍神様のおそばにいたいです……駄目ですか?」
片目を潤ませ見上げる。
可愛い、と龍神は思った。
「駄目ではないが、おまえはいつも私を見もしないだろう」
「それは龍神様のお顔が良すぎて直視できなかっただけです!」
「顔……?」
「はい! それに私の話をいつも優しく聞いてくださるし、さっきの龍のお姿も本当に神々しくて……大好きなんです!」
「……………………では、私の妻になるか?」
さちは満面の笑みで返事をした。
「はい!」
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それからふたりは天に昇り、楽しく暮らしたそうな。
龍神様命のさちと、ちょっと思ってたのと違うけど、さちといられて幸せな龍神様です。




