表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厳格な陰陽師の家系を継いだ俺、最強の式神を召喚したら「金髪ギャル」が出てきた上に、俺よりSNSのフォロワーが多い  作者: NN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/18

第9話 生徒会長は「オカルトなど存在しない」と言い張りながら、スタンガンを構えて震えている。

 放課後。

 木造の床がギシギシと鳴る旧校舎を、俺たちは進んでいた。


「いいですか。今夜こそ、あなた達の欺瞞ぎまんを暴きます」


 先頭を歩くのは、生徒会長の西園寺さいおんじ麗華だ。

 左腕を三角巾で吊ったまま、右手には業務用スタンガン、腰には騒音測定器と電磁波測定器を装備している。


「……会長、ゴーストバスターズですか?」

「不審者対策および環境調査です。幽霊など非科学的な存在はいませんが、低周波振動による幻覚の可能性はありますから」


 彼女は先日の一件を「集団催眠」と結論づけ、今日は「旧校舎の幽霊騒ぎを科学的に解明する」と言って、俺たちを強制連行したのだ。

 骨折してもなお揺るがないそのメンタル、もはや恐怖すら感じる。


「ねー、ここホコリっぽいんやけど。鼻水出るわ」


 最後尾のタマモは、マスクをして不機嫌そうについてきている。

 その手には、なぜか100均で買ったパーティー用のピコピコハンマーが握られていた。


「なんでピコハンなんだよ」

「え? 幽霊とか殴れば治るやろ」

「物理が効く相手ならいいけどな……」


 俺は周囲の気配を探った。

 ……嫌な感じだ。

 ただの浮遊霊じゃない。もっと粘着質で、歪んだ気配が漂っている。


 一行は、もっとも幽霊が出ると噂される「音楽室」の前で立ち止まった。

 中から、ジャーン……ジャーン……と、不協和音が聞こえてくる。


「ピアノの音です! 数値反応あり!」


 麗華が測定器を見て叫ぶ。

 彼女は躊躇なくドアを蹴り開けた。

 バンッ!


 月明かりが差し込む音楽室。

 そこには――誰もいなかった。

 だが、グランドピアノの鍵盤が勝手に沈み込み、デタラメな旋律を奏でている。


「自動演奏機能の誤作動ですね」

「このピアノ、昭和初期の木製ですけど!?」

「では、ネズミが集団で鍵盤の上を走り回っています」

「無理があるだろ!!」


 その時だ。


 キィィィィィィィン……!!


 不快なモスキート音が、脳内に直接響いてきた。


「うっ……!? 耳が……!」

「きゃあああっ!?」


 俺と麗華が耳を押さえる。

 だが、一番ダメージを受けたのはタマモだった。


「いっ、たぁぁぁぁッ!!??」


 タマモが悲鳴を上げ、その場にうずくまる。

 彼女の頭上に、隠していたはずの「狐耳」が飛び出した。

 獣の聴覚を持つ彼女にとって、この高周波は人間以上に突き刺さるのだ。


「タマモ!」


 俺が駆け寄ろうとした瞬間、ピアノの上空に黒い霧が集まり、巨大な「口」の形を成した。


『聴ケ……! 演奏ヲ……聴ケェェェェ!!』


 口から放たれたのは、物理的な衝撃波を伴う「音の塊」だった。

 ガラス窓が一斉に割れ、譜面台が吹き飛ぶ。


「お、音圧!? いや、これは共振現象による衝撃波……!」


 麗華が震えながらもスタンガンを構えるが、相手は実体のない「音」だ。電流は通じない。

 タマモがピコハンを振るおうとするが、激痛で立ち上がれない。


「あかん……耳、聞こえへん……平衡感覚が……!」


 タマモがふらつく。

 まずい。このままじゃジリ貧だ。

 この悪霊は、かつて演奏会で失敗した生徒の無念か?

 いや、今は分析している場合じゃない。


(タマモは聴覚が弱点だ。なら、俺がやるべきことは一つ!)


 俺は懐から呪符を三枚取り出し、タマモと麗華の前に投げた。


「急々如律令――『静寂結界サイレント・フィールド』ッ!!」


 ブォン。

 空間が歪み、俺たちの周囲に透明なドームが展開された。

 その瞬間、あの不快な高周波と轟音が、プツリと遮断される。


「え……? 音が、消えた?」


 麗華が目を見開く。

 俺は冷や汗を流しながら叫んだ(結界内なら声は届く)。


「音を遮断する結界です! でも長くは持たない! こいつの本体は『音』そのものです。音が響かない真空状態に近いこの結界内なら、奴は実体化せざるを得ない!」


 俺の読み通り、音を封じられた黒い霧が、苦し紛れに凝縮し始めた。

 人の形――醜悪なピアニストの姿へと変わる。


「今だタマモ! 音がなければお前の独壇場だ!」


 耳の痛みが引いたタマモが、バッと顔を上げた。

 その瞳に、怒りの炎が宿る。


「あいつか……ウチの自慢のイヤーをいじめやがって……!」


 タマモが地面を蹴る。

 速い。

 音のない世界を、金色の稲妻が走る。

 実体化した悪霊が慌てて衝撃波を撃とうとするが、結界の中では音が出ない。


「音痴な演奏は終わりや! これでリズム刻み直せオラァッ!!」


 タマモはピコピコハンマーに莫大な妖力を込めた。

 おもちゃのハンマーが、黄金に輝くウォーハンマーに見える。


 パコォォォォォォォン!!!!!


 間抜けな音が、結界内だけに響き渡った。

 だが威力は絶大だ。

 ハンマーの一撃を受けた悪霊は、ボールのようにひしゃげ、音楽室の壁を突き破り、夜空の彼方へとホームランされた。


 キラーンと星になって消える。


「……ふぅ。スッキリした」


 タマモがピコハンを回してホルスター(スカートのベルト)に収める。

 俺は結界を解いた。

 静寂が戻った音楽室には、破壊された壁と、へたり込む生徒会長だけが残された。


「……解決、ですね」


 俺が息を切らして言うと、麗華は震える手でメガネを直した。


「……ガス爆発です」

「はい?」

「校舎裏のガス管が老朽化し、特定周波数のガス漏れ音が発生。その爆発音で壁が吹き飛びました。極めて科学的です」

「会長、もう無理ですって」


 麗華は涙目で俺を睨んだ。

 

「ガス爆発です!! いいですね!! お化けなんていません!!」


 彼女の強靭な現実逃避能力には、ある種の畏敬の念すら覚える。

 俺たちは顔を見合わせ、苦笑した。


   ***


 帰り道。

 俺はふと、ある違和感に気づいて足を止めた。


「……あれ?」


 前を歩くタマモとの距離。

 10メートル以上離れている。

 いつもなら、激痛でのたうち回っている距離だ。


「おいタマモ。痛くないのか?」

「ん? あー……そういえば」


 タマモが自身の肩を見る。

 そこにあった契約印の「鎖」の文様が、薄く肌に馴染んでいた。


「さっきの戦闘でさ、晴人の結界とウチの妖力が混ざったやん? なんかその時、ガチッて噛み合った感じしたんよな」

「……魂の波長が同調シンクロした、ってことか」


 俺は自分の右腕を見た。

 これまで「強制的な鎖」だった契約が、俺たちの連携によって「信頼のパス」へと進化した証拠だ。


「へへっ、これでトイレもコンビニも自由やん! やったー!」

「お前、それが一番嬉しいのかよ……」


 タマモは無邪気に笑ってスキップしている。

 俺も、少しだけ軽くなった右腕を撫でた。

 主従というより、相棒。

 少しずつだが、俺たちは前に進んでいる。


 ――そう思っていた。


   ***


 その夜。

 俺のスマホの画面が、突然ノイズと共に暗転した。


『警告:システム侵入を検知』


 赤い文字が画面を埋め尽くす。

 故障か? いや、これは――術式によるハッキングだ。


 画面が切り替わり、一枚の写真が表示された。

 それは、今この瞬間、破壊された土御門本邸の結界の写真。


『土御門晴人。および個体名タマモ』


 無機質なテキストが流れる。


『遊びは終わりだ。ボクが直々に回収に行く』


 送信者は不明。

 だが、その文面から漂う冷徹な殺気は、これまでの妖怪や悪霊とは次元が違った。


(……本物の「術者」が、来た)


 学園の騒がしい日常は、唐突に終わりを告げようとしていた。


(第10話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ