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厳格な陰陽師の家系を継いだ俺、最強の式神を召喚したら「金髪ギャル」が出てきた上に、俺よりSNSのフォロワーが多い  作者: NN


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第8話 生徒会長は「鉄の女」すぎて、悪霊さえも論破する。(後編)

「オ前ヲ……排除スル……! 規定違反、即刻、排除……!!」


 人体模型の怪物が、歪んだ関節を奇妙に回転させながら迫ってくる。

 その全身から噴き出す赤黒い瘴気は、部屋の空気を鉛のように重くしていた。


「あーもう、しつこい! こいつの話、全然通じひん!」


 タマモが回し蹴りで模型の腕を吹き飛ばすが、切断面から即座に新しいプラスチックの腕が生えてくる。

 物理攻撃が効かないわけではない。再生速度が異常なのだ。

 この部屋を支配する「秩序ルール」が、怪物の修復を強制している。


「会長! ぼーっとしてないで、今の命令を撤回してください!」


 俺は麗華の肩を掴んで揺さぶった。

 彼女は顔面蒼白で、ガタガタと震えている。


「あ、ありえません……備品が……再生……? 質量保存の法則が……」

「物理法則は忘れてください! 今この現象を支配しているのは、アンタの『言葉』なんです!」


 俺は彼女の目を覗き込み、一喝した。


「アンタは無自覚な『言霊使い』だ! アンタが『校則は絶対』だと強く念じるから、この怪物は不死身になってるんだよ!」


「私が……? そんな、非科学的な……」

「目の前の現実を見ろ! アンタの作ったルールが、今アンタを殺そうとしてるんだ!」


 その時、怪物の再生した腕が、鞭のようにしなった。

 狙いは麗華の首。

 タマモは別の触手を抑えていて手が回らない。


「くっ!」


 俺は咄嗟に懐から呪符を抜き放った。


「急々如律令――『金剛障壁こんごうしょうへき』ッ!」


 ガギィィィン!!


 俺と麗華の前に展開された光の盾が、怪物の腕を受け止める。

 衝撃で腕が痺れる。重い。ただのポルターガイストじゃない、質量のある殺意だ。


「つ、土御門くん……?」

 麗華が呆然と、自分を守る俺の背中を見上げている。


「勘違いしないでくださいよ。俺は退学になりたくないだけです」


 俺は脂汗を流しながら、結界を維持する。

 だが、障壁にミシミシと亀裂が入っていく。長くは持たない。


「タマモ! 相手のコアは見えたか!?」

「あかん、全身に分散しとる! この部屋全体が『怪物の胃袋』みたいなもんや!」


 タマモが苛立ちまじりに叫ぶ。

 やはりか。

 この生徒会室という空間そのものが、麗華の言霊によって強固な結界と化している。外部からの干渉を拒絶し、内部のルールのみを適用する閉鎖空間。


 これを打破するには、力押しじゃ足りない。

 「ルール」そのものを書き換える必要がある。


「会長。アンタの持ってる『生徒手帳』を出してくれ」

「え……?」

「早く!」


 俺の剣幕に押され、麗華は震える手で胸ポケットから生徒手帳を取り出した。

 この学園のすべてのルールが記された、権威の象徴。

 俺はそれをひったくると、机の上に叩きつけた。


「今から俺が術式を組む。アンタは、この手帳に『新しいルール』を書き込むんだ」

「な、何を……」

「この怪物は『古いルール(排除)』に従って動いてる。なら、今の生徒会長権限で『新しいルール(救済)』を上書きすれば、矛盾が生じて怪物は崩壊する!」


 俺は指を噛み切り、血を滲ませた。

 その血で、生徒手帳の表紙に五芒星を描く。


「筆記具を! 早く!」

「は、はい!」


 麗華がペンを握る。だが、手が震えて書けない。

 目の前で障壁が砕けそうになっている恐怖と、自分の信念が否定される葛藤。


「書けません……! 校則を私情で書き換えるなんて、生徒会長として……」

「バカ野郎!!」


 俺は叫んだ。


「ルールは何のためにある!? 人を縛るためか!? 切り捨てるためか!?」


 障壁がパリーンと割れた。

 怪物の爪が、俺の肩を掠める。鮮血が飛ぶ。


「土御門くん!?」


「違うだろ……! ルールってのはな、そこにいる人間を守るためにあるんだろ!!」


 俺の言葉に、麗華がハッとしたように目を見開いた。

 彼女の脳裏に、何かが過ぎったのだろうか。

 震えが止まる。

 彼女の瞳に、迷いではない、強い光が戻る。


「……そうです」


 麗華がペンを強く握りしめた。


「ルールは、秩序を守るためのもの。そして秩序とは――生徒の安全を守るためのいしずえ!」


 彼女は生徒手帳を開き、震える手で、しかし力強く、最初の一行目にペンを走らせた。


 ――『校則第0条:本校の規則は、生徒の命と未来を守るために存在する』


 書き込んだ瞬間。

 生徒会室の空気が、劇的に変わった。


 オォォォォォン……!


 空間が共鳴する。

 麗華の強力な言霊が、文字という器を得て確定したのだ。


「グ、グァァァァ……!?」


 怪物の動きが止まる。

 その身体から噴き出していた瘴気が、「守る」という新たな概念と衝突し、ショートを起こしている。


「矛盾……矛盾……排除……不可……守護……優先……?」


 怪物が混乱し、自身の身体を掻きむしり始めた。

 今だ。

 ルールの書き換え(アップデート)は完了した。あとは、古いシステムを消去デリートするだけだ。


「タマモ! 今なら通る!」

「待ってましたァ!」


 タマモがニヤリと笑う。

 彼女の全身から黄金の妖気が溢れ出し、右足に収束していく。


「校則違反で処分されるんは、テメェのほうや!」


 タマモが跳躍する。

 天井を蹴り、落下の勢いを乗せた踵落とし。

 その軌跡が金色の弧を描く。


「必殺! 『退学処分キック(物理)』!!」


 ドゴォォォォォォォォン!!!


 凄まじい衝撃音が響き渡る。

 タマモの一撃は、再生能力を失った怪物の脳天を直撃し、そのまま床まで叩き潰した。


「ギ、ギャアアアア……ルゥゥゥルゥゥ……!!」


 怪物は断末魔と共に霧散し、ただのボロボロになった人体模型へと戻った。

 部屋を覆っていた重苦しい空気も、嘘のように消え去っていた。


   ***


 静寂が戻った生徒会室。

 俺はへたり込み、肩の傷を押さえた。浅い傷だが、ヒリヒリと痛む。


「……終わったか」


 タマモが髪を払いながら、模型の残骸をつま先でつつく。

 麗華は、書き換えた生徒手帳を握りしめたまま、呆然と立ち尽くしていた。


「……私は、間違っていたのでしょうか」


 彼女がぽつりと呟く。


「校則を守ることこそが正義だと信じていました。でも、それが怪物を生み出し、貴方たちを危険に晒した……」


 いつもの鉄の女の面影はない。

 ただの、責任感の強すぎる少女の顔だった。


「間違いじゃないですよ」


 俺は立ち上がり、ホコリを払った。


「アンタの言霊が強すぎただけだ。それだけ、学校のことを真剣に考えてたってことだろ」

「土御門くん……」

「ま、ちょっと頭が固すぎて、妖怪生み出しちゃうのはドン引きやけどな」


 タマモがケラケラと笑いながら、麗華の背中をバシッと叩いた。

 麗華が「痛っ!」と前のめりになる。


「でも、最後の書き換え、かっこよかったで。アレで呪いが解けたんや」


 タマモの言葉に、麗華が顔を赤くして俯く。

 彼女は咳払いを一つすると、メガネの位置を直し、いつもの冷徹な表情を取り繕った。

 だが、その耳は赤い。


「……今回は、貴方たちの不正規な協力に感謝します。よって、今回の校則違反は見逃しましょう」


「お、退学撤回!?」


「ですが!」


 麗華がビシッと俺を指さす。


「貴方たちが『オカルト的な何か』に関わっていることは理解しました。生徒会長として、危険分子を放置するわけにはいきません。今後は私が貴方たちを監視します!」


「……は?」


「監視です! つまり、生徒会室への出入りを許可します。放課後は必ず報告に来なさい。いいですね!?」


 麗華は早口で捲し立てると、プイッと顔を背けた。

 

「……あと、その怪我。保健室で手当してあげますから、ついてきなさい」


 小声で付け足された言葉に、俺とタマモは顔を見合わせた。


「晴人、これって……」

「ああ……面倒なことになったな」


 ツンデレ生徒会長による監視生活。

 俺の平穏な日常(すでに崩壊済みだが)は、さらに遠のいたようだった。


 廊下を歩く麗華の背中は、最初よりも少しだけ丸く、そして柔らかく見えた。

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