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厳格な陰陽師の家系を継いだ俺、最強の式神を召喚したら「金髪ギャル」が出てきた上に、俺よりSNSのフォロワーが多い  作者: NN


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3/18

第3話 転校生(自称)はギャルすぎて、いつの間にか妹とマブダチになっていた。

 翌朝。

 離れの六畳間。

 俺は布団から這い出し、重い頭を抱えていた。睡眠時間は実質3時間。

 昨夜のコンビニ遠征と、その後の騒動が響いている。


「おはよー晴人! 朝ご飯まだ?」


 タマモが既に起床し、鏡の前でメイクをキメていた。元気すぎる。


「……おはよう。お前、よく眠れたな」

「爆睡したわー。てか、今日から学校やろ? ウチも行くで」


 タマモが当たり前のように言う。

 俺は思考停止した。


「……は?」

「だーかーら、学校。ウチら5メートル離れたら死ぬんやろ? 晴人が学校行くなら、ウチもついていくしかないやん」


 正論だ。ぐうの音も出ない。

 だが、問題は山積みだ。制服はどうする? 正体はどう誤魔化す?


「制服ならあるで。ほら」


 タマモが指差した先には、ハンガーに吊るされた我が校の女子制服があった。

 サイズもぴったりに見える。


「え、なんで制服があるんだ? 昨日は持ってなかっただろ」

「あー、それな。昨日の夜中、トイレ行ったついでに母屋探検してたら、妹ちゃん……美月やっけ? 会ってさー」


 俺は血の気が引いた。


「お前、美月に会ったのか!? 正体バレたらどうするんだ!」

「バレてへんって。適当に『晴人の遠い親戚で、今日から居候するタマモっす』って挨拶したら、なんか意気投合して制服貸してくれたわ」


 意気投合? あの真面目な美月と、このギャル妖怪が?

 嘘だろ。


 コンコン。

 噂をすれば、ドアがノックされた。


「タマモさーん? 朝ご飯、母屋で一緒にどうですか?」


 美月の声だ。しかも、声色がやけに明るい。

 俺が恐る恐るドアを開けると、そこにはエプロン姿の美月が立っていた。


「あ、お兄ちゃん。おはよう」

「お、おはよう美月。その……タマモのことなんだが……」

「聞いたよ。お父さんの遠縁の隠し子なんでしょ? 色々苦労してるみたいだし、私が面倒見てあげることにしたから」


 美月がキリッとした顔で言う。

 ……隠し子? 苦労してる?

 タマモ、一体どんな吹き込み方をしたんだ。


「おはよー美月っち! ご飯マジ? 食べるー!」


 タマモが俺を押しのけて飛び出してくる。

 美月は少し頬を染めて、「もう、美月っちって呼ばないでくださいよー」と言いつつも満更でもなさそうだ。


「……」


 俺は理解した。

 この大妖怪、人心掌握術(コミュ力)がカンストしている。

 千年の時を生きた古狐にとって、女子高生一人たらしこむなど造作もないことなのだ。


   ***


 数十分後。

 俺、土御門晴人は、玄関で頭を抱えていた。


「……おい、なんだその格好は」


「あ? 制服やけど。盛れてるっしょ?」


 美月から借りた制服は、見る影もなく改造されていた。

 スカート丈は限界まで短くされ、リボンは緩く、上着のボタンは弾け飛びそうだ。

 美月がこれを見たら卒倒するんじゃないか?


「美月には『清楚に着こなします』って言ってたじゃないか!」

「TPOやん。学校は戦場やで? 武装メイクせな死ぬわ」


 タマモは聞く耳を持たない。

 俺は深いため息をつき、登校鞄に忍ばせておいた術具を確認した。


「いいか、学校に着いたら俺が術を使う。お前は余計なことを喋るなよ」

「へいへい」


 登校中の通学路は、予想通り地獄だった。

 謎の美女タマモと、冴えない陰陽師(俺)のカップル。

 突き刺さる視線に胃を痛めながら、俺たちは職員室へ突入した。


   ***


「……転入生、だと?」


 担任の教師(ハゲかけの真面目な中年)が、訝しげに俺たちを見ていた。


「はい。急な話で申し訳ありません。彼女は土御門タマモ。家庭の事情で、我が家で預かることになりました」

「しかし聞いていないぞ。書類も手続きも……」


 担任が受話器に手を伸ばそうとする。

 今だ。

 俺は背中で印を結び、担任の目を見据えた。


「先生。書類なら、そこにありますよ」


 俺はカバンから適当なプリントの束を取り出し、霊力を込めてデスクに置いた。

 陰陽術・『認識改変』。

 ただの紙切れを、相手が望む「公的な書類」に見せる催眠術の一種だ。


「急々如律令――」


 俺が小声で唱えると、担任の目の色がふっと濁った。


「おや……? 確かに、ここにあるな。転入届に、理事長の印鑑まで……」

「ええ。手続きは全て完了しています。ですよね?」


 俺が念押しすると、担任はコクコクと頷いた。


「うむ。そうだったな。私の勘違いだ。……よし、タマモさん。教室へ行こう」


 成功だ。

 俺は心の中でガッツポーズをした。

 タマモが小声で俺に耳打ちする。


「やるやん晴人。詐欺師の才能あるで」

「人聞きの悪いことを言うな。緊急避難措置だ」


   ***


 教室に入った瞬間、空気が凍りついた。

 ざわついていたクラスメイトたちが一斉に静まり返り、俺と――その横でガムを噛んでいる金髪少女に注目する。


 タマモが黒板の前に立ち、チョークを手に取る。


『タマモ』


 殴り書き。そして振り返り、ニカッと笑った。


「ってことで、今日からよろしくー! 授業とかダルいんで寝てるけど、起こしたら呪うから。夜露死苦ヨロシク~!」


 教室内がシーンとなる。

 あまりの型破りな挨拶に、全員がドン引きしている。

 まずい。このままではクラスで浮く。孤立すれば、いらぬトラブルを招く。


(タマモのやつ、コミュ力はあるが、TPOがわかってない……! ここは俺がフォローを――)


 俺が立ち上がろうとした時だ。

 タマモが、クラスのカースト上位に君臨する女子グループのリーダー、エリカの席にスタスタと歩み寄った。


「あー、あんた」

「は、はい……?」


 エリカがビクリとする。不良に絡まれたと思ったのだろう。

 だが、タマモはエリカの顔をジロジロと見て、言った。


「そのリップ、色合ってなくね? あんたイエベ(イエローベース)やろ? 青みピンクは浮くで」

「えっ」

「こっちのオレンジ系のほうが絶対盛れる。ほら、貸したるわ」


 タマモはポケットから高級そうなリップを取り出し、エリカに手渡した。

 エリカはおずおずとそれを塗り――手鏡を見た瞬間、表情を輝かせた。


「えっ、すご! めっちゃ顔色よく見える!」

「せやろ? あと前髪も、ここ少し巻いたほうが小顔に見えるで」


 タマモが指先でエリカの髪をいじる。

 一瞬で、エリカの雰囲気が垢抜けた。


「す、すごい……! タマモちゃん、プロのメイクさんみたい!」

「まあな。千ね……いや、長年研究してきたからな」


 タマモが得意げに笑う。

 その瞬間、クラスの空気が一変した。


「え、私も見てほしい!」

「そのネイルどこでやったの?」

「タマモちゃん、LINEやってる?」


 女子たちが一斉に群がった。

 ボスであるエリカを陥落させたことで、タマモは一瞬にしてクラスのヒエラルキーの頂点に君臨したのだ。


(……すげえ。俺の術なんて必要なかった)


 俺は自分の席(窓際の一番後ろ)で、ただ呆然とその光景を眺めていた。


   ***


 平和な時間は、4限目まで続いた。

 タマモは完全にクラスに馴染み、俺は相変わらず空気のような存在だ。


 だが、授業中。異変が起きた。


 ゾワリ。

 教室の前方から、粘着質な気配を感じた。


(……なんだ? けがれだ)


 視線の先。

 黒板に向かって授業をしている現代文の教師の背中に、「それ」はいた。

 赤黒いもやのような塊が、教師の肩にのしかかり、耳元で何かを囁いている。

 『死ね』『疲れた』『全員嫌い』――負の感情の凝縮体だ。


(マズい。最近、生徒指導でストレスが溜まっているとは聞いていたが……憑かれやがった)


 教師がチョークを握る手に力が入り、ギリギリと嫌な音が響く。

 このままでは授業中に発狂するか、生徒に危害を加えるかもしれない。

 俺が祓うか? いや、授業中に呪文を唱えれば、俺の社会的な死が確定する。


(どうする……隠れて印を結ぶか?)


 俺が迷っていると、隣の席で爆睡していたタマモが、むくりと顔を上げた。


「……くっさ」

「おいタマモ、起きろ。先生が憑かれてる」


 俺が小声で伝えると、タマモは気だるげに目をこすった。


「あー、あの背中のやつ? 陰気臭い臭いしてんなー」

「祓えるか? 目立たずに」

「んー、やってみるわ」


 タマモは立ち上がった。

 そして、堂々と教卓の前まで歩いていく。


「先生ー、トイレ行っていいっすか?」


 授業を遮られた教師が、充血した目で振り返る。背中の悪霊がニタニタと笑い、教師の精神を侵食していく。


「貴様……授業中に……! 座れ……!」

「えー、でも先生、顔色悪いっすよ? ちゃんと寝てます?」


 タマモは教師に近づき、その肩にポンと手を置いた。

 その一瞬。

 タマモの爪先から、極小の狐火が打ち込まれた。


「――『浄化デトックス』」


 ボッ。

 霊的な炎が、教師の背中の悪霊だけを一瞬で焼き尽くした。

 人間には見えない、神速の早業。


 悪霊は悲鳴を上げる暇もなく消滅し、教師の顔からスッと険しい色が消えた。


「あ……あれ? 肩が、軽い……?」

「働きすぎイクナイで。これ、あげるからリラックスしてな」


 タマモはポケットから出したミントタブレットを教師の手に握らせると、ヒラヒラと手を振って教室を出ていった。


「トイレ行ってきまーす」


 クラスメイトたちは「タマモちゃん自由すぎw」「先生手なずけたw」と笑っている。

 誰も気づいていない。

 今、彼女が高度な除霊を、挨拶代わりに行ったことに。


(……やるな。あいつ、意外と繊細な霊力操作ができるのか)


 俺は感心して見送っていたが――ふと、ある致命的な事実に気づいて顔面蒼白になった。


(ま、待て。あいつがトイレに行くということは……俺との距離が……)


 5メートル。

 タマモが廊下に出た瞬間、教室の扉が閉まる。


 バチィィィィン!!!!


「ぐあっ!!??」


 俺の全身に電流のような激痛が走り、椅子ごと後ろにひっくり返った。

 ガシャーン!!

 教室中が再び静まり返り、全員が俺を見る。


「つ、土御門? どうした?」


 俺は痙攣しながら、床を這いつくばって叫んだ。


「す、すいません……俺も……トイレ……!」


 クラス女子のヒソヒソ声が聞こえる。

 「え、トイレまで一緒に行くの?」「キモ……」「付き合ってるとしても重すぎじゃね?」


 こうして、俺の高校生活における尊厳は、入学以来最速で崩壊したのだった。

 やはり、タマモと関わるとロクなことがない。

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