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厳格な陰陽師の家系を継いだ俺、最強の式神を召喚したら「金髪ギャル」が出てきた上に、俺よりSNSのフォロワーが多い  作者: NN


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13/18

第13話 屋敷が半壊したので、クラファンで「お布施」を募ることにした。

 翌朝。

 俺が目を覚ますと、視界いっぱいに突き抜けるような青空が広がっていた。

 小鳥がさえずり、爽やかな風が頬を撫でる。

 なんて清々しい朝だろう。


「……って、天井どこいった!?」


 俺はガバッと跳ね起き、激痛に顔をしかめた。

 そうだ。昨夜の死闘だ。

 「屋敷ごとぶっ壊せ」という俺のロックすぎる命令を、タマモが忠実に実行した結果、由緒ある土御門つちみかど家本邸の屋根は吹き飛び、庭は更地になり、重要文化財寸前の家屋は「あばら家」へとクラスチェンジしていた。


「おっはー晴人。生きてる?」


 瓦礫の山の上で、タマモがカップ麺をすすっていた。

 ジャージ姿にサンダル。手には割り箸。背景は廃墟。

 世紀末の覇者のような風格だ。


「……おはよう。お前、元気だな」

「まあな。ウチ、燃費悪いけど回復も早いし。それより見てやこれ」


 タマモが指差した先。

 半壊した壁に、一枚の紙が貼られていた。

 そこに書かれていたのは、昨夜逃亡したキョウヤからのメッセージではなく――工務店からの「概算見積書」だった。


『修繕費用:3000万円(※地盤改良工事含む)』


「……」

「……」


 俺はそっと目を閉じ、二度寝しようと布団を被った。


「現実逃避すんなや! 起きろ!」

「無理だ! 50億のM&Aを断った翌日に3000万の借金とか、情緒が追いつかない!」

「男ならドーンと構えとけや。金なんて天下の回りものっしょ」

「回ってくる前に俺が死ぬわ!」


 その時だ。

 ガラガラガラ……。

 玄関(だった場所)の引き戸が、枠ごと外れて倒れた。


「……失礼します。監視業務に来まし――って、何ですかこの有様は!?」


 生徒会長、西園寺さいおんじ麗華だった。

 彼女は制服姿で立ち尽くし、口をあんぐりと開けている。


「ど、土御門くん!? まさか昨夜、またガス爆発が!?」

「あー、うん。大規模なガス漏れで……」

「この規模だと、もはや爆撃では?」


 麗華は瓦礫の山を乗り越え、俺の元へ歩み寄ってきた。

 その表情は呆れを通り越して、少し青ざめている。


「……怪我は? 肋骨、まだ痛むのでしょう?」

「ああ、まあなんとか。タマモの治癒術……いや、湿布のおかげで」

「嘘をつきなさい、嘘を」


 麗華はため息をつきつつ、持っていた鞄から高級そうな弁当箱を取り出した。


「……差し入れです。栄養を取らないと、治るものも治りませんから」

「えっ、会長の手作り?」

「ち、違います! 家のシェフが作りすぎた余り物です! 勘違いしないでください!」


 典型的なツンデレムーブ。

 ありがたく受け取ろうとした瞬間、横からタマモの手が伸びてきて、卵焼きをひょいと奪った。


「うま! シェフやるやん! 甘めの味付け最高~」

「あ! ちょっとタマモさん! それは土御門くんの……!」

「ええやん、減るもんじゃないし。――でさ、生徒会長サマ。相談なんやけど」


 タマモは卵焼きを咀嚼しながら、スマホを取り出した。


「この家、直すのに3000万いるんよ。生徒会費から出せへん?」

「出せるわけありません! 公金横領です!」

「ちぇっ、使えねー。……じゃあ晴人、プランBや」


 タマモはニヤリと笑い、スマホの画面を俺に見せた。

 そこに表示されていたのは、クラウドファンディングのサイト作成画面だった。


『緊急企画! 伝説の陰陽師ハウスが爆発したので助けて! ~JK式神の恩返し~』


「……なんだこのふざけたタイトルは」

「クラファンや。現代の『お布施』システム。これなら世界中の信者フォロワーから浄財を集められるで!」

「物乞いじゃないか!」

「人聞きの悪い。これは『エンタメ』や。リターン(返礼品)を用意すれば立派なビジネスやで」


 タマモは慣れた手つきでプロジェクトページを編集していく。


『目標金額:3000万円』

『リターン内容:

 ・¥1,000:タマモからのお礼メール(自撮り付き)

 ・¥10,000:晴人の手書き「開運・魔除けの呪符」(効果には個人差があります)

 ・¥50,000:タマモとオンライン飲み会(タピオカ可)

 ・¥1,000,000:一日家主体験(掃除つき)』


「待て待て待て! 俺の呪符が安売りされてるし、100万のやつ誰が買うんだよ!」

「アンタの呪符、意外と需要あるで? 受験生とかに」


 麗華が画面を覗き込み、眉をひそめた。


「……不純です。未成年がこのような集金行為を……」

「でも会長、このままだと晴人、野宿やで? 冬越せへんで?」

「うっ……」


 麗華が俺の包帯姿を見て、言葉を詰まらせる。

 彼女は葛藤するように眼鏡の位置を直すと、小さな声で言った。


「……法に触れない範囲なら、黙認します。ただし!」

「ただし?」

「文章が稚拙すぎます! 私が校正しますから、スマホを貸しなさい!」


「えっ、手伝ってくれるんですか?」

「監視です! 変なことを書かないように検閲するだけです!」


 麗華はタマモからスマホを奪い取ると、凄まじい勢いでフリック入力を始めた。


『……昨今の不安定な情勢(ガス爆発等)により、歴史的建造物である当家屋が甚大な被害を受けました。文化財保護の観点からも、皆様の温かいご支援を……』


「ガチすぎる! 文章が役所の申請書みたいになってる!」

「信頼性が大事なんです! さあ、写真を撮りますよ。土御門くん、もっと悲壮感のある顔で!」

「これ以上ないくらい悲壮だよ!」


 カシャッ。

 瓦礫の前で項垂れる俺と、横でピースするタマモ。そして背景には、なぜか腕組みをしてドヤ顔の生徒会長(映り込み)。

 カオスな写真と共に、プロジェクトは公開された。


 タマモが自分のSNSアカウント(フォロワー85万人)で拡散する。

 

『【拡散希望】家なき子になったんで助けてw マジでw #ホームレスJK #陰陽師 #拡散してくれたら好き』


 投稿から数分。

 スマホが震え出した。


『ピロン♪ 支援が届きました:¥5,000』

『ピロン♪ 支援が届きました:¥10,000』


「うおっ、すげえ! もう5万超えた!」

「ちょろいなー人間。あ、コメント来てる。『タマモちゃん家ないの草』『頑張れ』『後ろのメガネ誰?』……よしよし、順調や」


 数字がどんどん伸びていく。

 現代のネットワークと、タマモのインフルエンサー力。そして麗華の堅実な文章力。

 これらが奇跡の化学反応を起こしていた。


 だが、3000万には程遠い。

 このペースだと数ヶ月かかる。

 その時。


『ピロン♪ 支援が届きました:¥3,000,000』


「ぶふっ!?」

 俺はむせ返った。

 い、一撃300万!? 誰だ!?


 支援者名:『鉄の女(匿名)』

 コメント:『文化財の損失は国家の損失です。早急に修繕しなさい。あと、風邪を引かないように』


「……」

「……」


 俺とタマモは、ゆっくりと麗華のほうを向いた。

 麗華はスマホをしまいながら、そっぽを向いて口笛を吹こうとしている(吹けていない)。


「……会長?」

「な、何ですか。私は何も知りませんよ。世の中には奇特な資産家がいるものですね」


 耳が真っ赤だ。

 震える指先が、決済完了画面を隠そうとしている。


「会長……あんた、ええ奴やな……!」

「タマモ、抱きつくな! 離れなさい!」


 タマモが麗華に抱きつき、麗華がバタバタと暴れる。

 その光景を見ながら、俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 家は壊れた。体はボロボロだ。

 敵はまだ潜んでいるし、借金も残っている。

 でも。


「……なんとかなるか」


 俺は青空を見上げた。

 天井のない家も、案外悪くないかもしれない。

 

 こうして、土御門家復興プロジェクト「チーム・あばら家」が結成された。

 だが俺たちはまだ知らない。

 このクラファンがネットニュースで話題になり、それを見た「ある人物」――海外留学中だったはずの、俺の母親が帰国してくるという、さらなる災害フラグが立ったことを。

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