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第一話

銃声が響く。

昼間の公園、一人の女性が倒れる音。

「そんな、つもりは、っ!」

そう言い残して、彼女は息絶えた。


血の海に近づく、一人の警察官。


紫の長髪に、青い目。

胸には紋章が輝いていた。

彼女は言う。

「ようやく、死んだ」

その声は幼さと残忍さを組み合わせたようだった。


肩にかけられた無線から、落ち着いた女性の声が聞こえる。

「局長、二番街に出たそうです」

「わかった、すぐ向かう」

彼女は答える。

無線の声は続く。

「大丈夫ですか、ココア局長。最近働きすぎでは…」

「大丈夫、心配ありがとう」

遮るように、答える。

「全ては、彼のためだから」


そう言って、彼女は無線を切った。

「あなたのため、だからね」

呟くように言った後、ココアは、パトカーに乗り込んだ。


パトカーの中は、無線の音が響いていた。

「二番街、特徴は短髪、長身…」

ココアは無線を切り、エンジンをかける。

はぁ、と大きなため息。


発信する直前、助手席に滑り込んでくる女性。

「局長、お疲れ様ですぅ」

「お疲れ」

ココアは返事をする。

「ラテ、次の現場終わったら、お昼にしましょう」

「わかりましたぁ」

彼女の部下、ラテは明るい声で答える。

銀髪の髪が揺れ、白い瞳がココアを見る。


「最近見つけた、良さそうなお店があるんですぅ」

「そう」

「イタリアンなんですけどぉ、どうです?」

「いいわね」

言いながら、パトカーのサイレンをつける。

「ラジオつけてもいいですかぁ?」

ラテが独り言のように聞いてくる。

「だめよ」

ココアは即答。

「仕事中は、集中しなさい」

「はぁい」

気の抜けた返事。

ココアは目を細めながら、エンジンを少しだけ、強く踏んだ。

現場は、もうすぐだった。


現場に着くと、すでに数人の野次馬がいた。

「通りまーす、すみませーん」

ココアはわざとらしく声を上げて、間を縫うように通る。

ラテが後ろに続く。


商店街の入り口に、その女はいた。

「あいつね」

ココアは呟く。

その女は、ココアを見つけた瞬間、叫ぶ。

「彼は渡さない!お前には相応しくない!」

ふっ、と鼻で笑う。

何を言ってるんだか、と思った。

彼に相応しいのは、わたし以外にいるわけがない。

ココアにとって、それは事実でしかなかった。


「どうしますぅ?」

ラテが、自分の髪をいじりながら聞いてくる。

「いつも通りよ」

ココアは答える。

「まず、彼への想いを聞くわ。まぁ、たいした事ないんでしょうけど。いっときの感情の揺れとか、言葉にできない感覚とか、そんなものでしょ」

嘲りと優越感の混じった口調。

「次に、わたしと彼の関係、そしてわたしの想いを話す」

少しだけ、頬を染めて、にやける。

「最後に、殺す」

一瞬、空気が冷たくなる。


「行くよ、ラテ」

そう言って、ココアは歩き始めた。


その女は、いかにも失恋した直後のような雰囲気を纏っていた。

ココアは失笑を抑えていた。


少しずつ近づきながら、話しかける。

「はじめまして、わたしはココア、こちらはラテ」

ココアが軽く手を動かして、ラテの前へ。

ラテは軽く会釈する。


「あなたの気持ちを、聞かせて欲しいの」

ココアは語りかける。

「うるさい!話すことなんてない!」

「そんなことないですよね?」

ココアはあくまでも、優しい口調を保つ。

心の中を見せないように。

「彼のことは、残念でしたね。でも、気持ちだけでも吐き出せたら、少しは楽になると思うんです」


女はそれを聞いて、口を開いた。

「運命、だと思ったんです。ほんとにそれだけ」

やっぱり、とココアは思った。

見飽きたこのパターン。

外側だけしか見てない人特有のそれ。


ココアは呆れながらも、それを隠して、話を続ける。

「では、彼とわたしとの関係を説明します」

ここからが本番、そうココアは思っていた。


ココアは胸の内ポケットを探り始めた。

「そのままで、待っててくださいね」

わざとらしく、口に出す。


しばらくそのまま。

「何してるんですかぁ?」

ラテが囁くように聞いてくる。

「見当たらないのよ、書類」

「反対側じゃないですかぁ?」

「…あぁ、あったわ」

ココアは、白い、くしゃくしゃになったじゃばら折りの紙を出した。


「お待たせしました」

ココアが顔を上げると、女は怪訝そうにこちらを見ていた。

「この書類にある通り、わたしと彼は特別な関係にあります」

女が書類を強引に奪う。

その紙には、本命契約証明書、という文字が大きく書かれていた。

そしてそのすぐ下には、ココアと彼の名前、それぞれの印鑑、証明した日付があった。


「なに、これ…」

女はその場に崩れ落ちた。

ココアは、笑いを堪えるのに必死だった。


女は受け入れられない様子だった。

「こんなの、信じないわ!」

「わかります。でも、あなたには権利がないんです」

ココアは諭すように言う。

女の顔はぐしゃぐしゃで、今にも叫び出しそうだった。

「それに」

ココアはにやけそうになりながらも、口を開く。

いよいよ、彼への想いを話す。

ココアにとって、この瞬間は優越感の頂点にあった。

「わたしは彼のことをあなた以上に想っています」

それから、ココアは自分の気持ちを、長々と説明し始めた。

どこで出会い、どんなふうに接して、どういった生活をしてるのか。

もちろん、普通なら話すことを憚られるようなことも。


ラテはいつも、よく話すな、と思いながら、横で髪をいじっている。


しばらくして、ココアはようやく口を閉じた。

目は見開かれ、呼吸は荒くなっていた。

深くため息をついてから、ココアは言った。

「では、最後に、あなたを殺します」


徐々に、女の目が見開かれる。

「うそ、本当に?」

女は足を震えさせながらも逃げようと、ココアから離れ始めた。

歩く速さを速める。

「逃がさない」

ココアはそう呟くと、腰から銃を抜く。

黒く、光の反射で光沢を帯びていた。

「止まりなさい!」

叫ぶ。

しかし、女は止まらず、走り出す。

その瞬間に、二発の銃声が響く。

木に止まっていた鳥が飛び立ち、野次馬の方から小さく悲鳴が聞こえた。


鈍い音のあと、地面は赤く染まり始める。

ココアは近づき、うつ伏せに倒れてる女の体を仰向けにし、瞼を強引に開く。

そして、胸ポケットからペンライトを取り出して、瞳を照らす。

かわいらしいシールが貼られた、銀色のペンライト。


しばらくして、ココアは呟く。

「死んでる…ね」

ペンライトを胸ポケットにしまいながら、彼女はランチのことを考えていた。


ココアが目の前の光景を眺めていると、ラテが近づいて、話しかけてきた。

「終わりましたぁ?」

「えぇ」

「じゃ、ランチにしましょうかぁ」

「そうね」

そう言って二人はパトカーへと向かう。


「で、どんなお店なの」

パトカーの中、ココアの声は、期待に満ちていた。

「なんか、最近できたばかりらしくてぇ」

ラテが答える。

「そう、並ばないわよね?」

「大丈夫だと思いますぅ、隠れ家的な感じのお店みたいですしぃ」

「ならいいわ、もうお腹ぺこぺこ」

言いながら、エンジンをかける。

「ラジオ、いいですかぁ?」

ラテがさっきと同じ質問をする。

その目には、大丈夫だろうという余裕が感じられた。

「どうぞ」

「ありがとうございますぅ」

ラジオをつけると、音楽番組が流れていた。

「今の気分にピッタリね」

ココアはそう言って、アクセルを強く踏んだ。


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