5 合宿所のお化け(3)
「この、何かを削っているような物理的な音は何かしら。カマちゃん、音の出ている方にズームインしてちょうだい。」
すると部屋の後ろの方から男が出てきた。そしてバケモノたちと話し始めたのだ。バケモノたちは既にマスクを外している。やや荒くれ者といった感じの普通の人間だ。
「ふうー疲れたぜ。小休止だ。穴掘りは本当に大変だぜ。」
「どのくらい掘れたんだ?」
「4分の3てとこかな。今日は火曜日で、実行するのは日曜日だから、もう少しピッチを上げないとボスに叱られちまうぜ。」
「KK銀行はかなり顧客が多いらしいからがっぽりいただきだぜ。そしたら一生遊んで暮らせるぜ。」
ここまで動画を見たところでプリンセスにはことの次第が大体つかめたのだ。
「そうか、女生徒たちを怖がらせてこの部屋に近寄らせないようにして、ここからKK銀行まで地下通路を掘って行員のいない日曜日に金庫からお金を盗み出すってことね。とんでもないわ。よし、それじゃあ。」
プリンセスはカマくんが録画した画像をUSBにコピーすると、それを持って近くの警察署に行ってことの次第を説明した。最初はお化けなんてそんな馬鹿な、と言って乗り気でなかった署員たちも、動画を見せると
「これは単なるバケモノ騒動ではない。銀行を狙った大掛かりな犯罪だ。」
ということになり、警察官を15名も動員してバケモノ役、そして穴掘り役の男たち7人を逮捕した。だがこの犯罪を企画・指揮したボスと言われる男は行方不明だった。
事件の主犯格は不明のままではあるが、事件が無事解決し、管弦楽部の練習が始まり、プリンセスはファーストヴァイオリンパートの一員として毎日楽しく練習をしていた。
学校の先生も生徒たちもバケモノ騒動は銀行を狙った犯罪で、犯人たちが無事に逮捕されたことは警察から聞かされていたが、その事件の解決にプリンセスが一役買ったことは知らされていなかった。
プリンセスは警察の捜査に協力したが、条件として決して自分のことは言わないように、秘密にしておくようにお願いしておいたからだ。本当なら学校側に知らされて皆んなに感謝され、新聞やTVにも出るような、場合によっては表彰されるようなお手柄だったが、プリンセスは公になることを嫌い、秘密にしておきたかったのだ。
警察も、これほど大きな犯罪の防止に貢献してくれた本人自身が是非にも秘密裡にと言うので、本人の意向どうりにした。けれどもそれをいいことに、いつも自分の出世のことばかり考えている、ずる賢い警察署長の樫野は、警察が最初から独自に極秘の捜査をして犯人を挙げたのであって、しかもその統括をしたのは自分だと発表し、世間から称賛をされていた。
KK銀行の頭取からも大いに感謝され、極秘に100万円を受け取っていた。
けれどもプリンセスはそんなことにはお構いなしだった。彼女は目立たないごく普通の女子高生として楽しく学校生活を送り、部活動ができればそれで十分だったのだから。
それに自分が他の惑星からやって来た魔法使いであることやシャトーのことは決して知られてはいけなかったのだ。その秘密を知られたらここにはいられなくなってしまうから。