福利厚生と防災
「プールを作ろう」
開口一番、セラがわけの分からないことを言い出した。
「……は?」
「福利厚生というやつだよ」
セラが胸を張って言う。が、俺は思わず首を傾げた。
「何それ?」
俺が無知なのか?と一瞬焦ったが、横を見ると――モナも、ヴェルも、レンも、同じように首を傾げている。
よし、俺だけじゃなかった。
この三人は、俺の正妻とも言える立場だ。
彼女たちが分かってないなら、俺の知識レベルは標準ということでいいだろう。
「福利厚生とはですね……」
そこへ、ルナが割って入ってくる。さすが、教育係嫁。説明役にぴったりだ。
「働く者たちの心身の健康や生活の安定、向上を目的とした、賃金以外の待遇全般のことを指します」
「わー……難しそうなこと言い出した……」
俺が思わず顔をしかめると、ルナがほんのり睨んできた。
……ごめん。でも実際、モナやレンに読み書きを教えてくれたのもルナなんだ。信用してるし、助かってるし、感謝もしてるんだけどさ……。
「要するに、“従業員が快適に働けるようにご褒美を用意する”ってことだね」
セラが補足するように言う。
「それが、プール?」
「うん。魔王城にプール。素敵でしょ?」
この人、やっぱり発想が金持ち。
あと他にやることあるのでは?
「まぁ実際は、家族用と村人用で分けるけどね。それで試しに家族用を作ってみてから、村人用を作ろうかと」
「小さく試してからか。堅実なんじゃないかな」
さっきの説明は半分しか分からなかったが、こっちはわかる。本番前に試しに作るのはものづくりの基本だ。
「なので、税金からその費用は賄います」
あらやだ悪どい。
「とはいえ、一部だよ。ただこれも税金の使い方だよ」
「なんか税金の闇を見させられた」
「まぁ最初は私の財布から持ち出しが多かったから、少しだけ返してもらうってことだね。もちろん実験的な意味もあるから」
「まぁそうだな。試しは必要だ」
後日、手先が器用なメンバーと、体力自慢のチームを集めて、プール建設の説明を行った。
思いのほか、理解はすんなり得られた。特に食いついてきたのが――
フィーナ率いる筋肉信者組と、ルナの道場勢だ。
「水中での負荷が筋肉に……!」「呼吸の制限も鍛錬になる……!」
なぜか感動して盛り上がっている。
俺としては「癒し目的のプール」だったんだが、いつの間にか「新しい修練場」のノリになってきている。
しかも聞いた話によると、すでに何人か、今掘ってる“ただの堀”で泳ごうとしていたらしい。
……まぁ、止めはしないけど。泥水だぞ、あれ。
村人用のプールは大きく作る予定だったが、「魔王城用は小さくていい」――俺は確かにそう言った。
……のに。出来上がったのは、えらく立派な“施設”だった。
夜間使用に備えて、松明置き場と光る水晶まで設置されている。あの水晶、お高いんじゃないのか?
とはいえ、一番コストがかかったのは人件費……のはずだったが、嬉々として動く住民たちのおかげで、工期は大幅に短縮された。ほぼ総出で取りかかってたからな。こっちの完成と同時に、すぐ村人用に着手していた。
どんな体力してんだよ……。
せめて作業代とは別に、食事の差し入れくらいはしておこう。
セラが用意した書類にも目を通した。そこには、こう書かれていた。
「防災用貯水施設(予備)」
……うん。よくわからない。
だが、わからないからこそ突っ込まない。だいたい、わかったところで止まらないのがセラだ。
ちなみに村人用の名称は――
「災害時用水確保地域資源」
……うん。もう一回言うけど、わからん。
「もしものための水資源は重要だからね。飲み水にはちょっと抵抗あるけど、それ以外にも使い道は多いし」
セラは真顔でそう語る。
……なんとなく、セラの考えがわかった気がする。少なくとも、ただの遊び半分で作ったわけじゃない。一応は、“災害対策”という名目の施設なのだ。たぶん。
うん、真面目な話だ。たまには真面目なセラも、悪くない――
……ってところで、ふと思った。
それはそうと、水着姿はまだかね?




