家主不在で建築計画
「セトたち、今日帰ってくるかな」
モナは何度も玄関を開けて、外の様子をうかがっている。
「どうだろうね。とはいえ、誰かしら連絡くらいはくるんじゃないかな?」
セラは図面を広げたまま、顔を上げずに答えた。
「モナ、落ち着いて。甘いのあるから、食べて待ってれば?」
ルナが焼き菓子とお茶を用意してくれる。
──ドーナツだ。
少しカリカリしている。
「カリカリ付きだ。ありがとう、ルナ」
「モナは甘いものいっぱい食べても太らないね」
「獣姿で遠くまで走ってるからかな」
「ほどほどにしないと、また捕獲依頼が来そうだよ?」
「今度は負けないよ」
「いや……勝ち負けじゃないからね」
セラが苦笑する。
「わかってる。気をつけるよ」
モナはすぐに、セラの心配をちゃんと受け取っていた。
「図面難しですか?」
ルナが覗き込む。
「難しいというかね。圧倒的に場所が足りない」
「セトさん含めて8名は、お屋敷になっちゃいますね」
「そう、立て直した方が早い」
「ここが無くなるのはやだな」
モナは寂しがる。
「増築はするが、さてどうしたものか」
「ベッドが大きすぎるのでは?」
「どうせなら、大きい方がと思うが、セト君の部屋だけにしておくか」
セラは頬杖つきながらドーナツを頬張る。
「大部屋は無理ですよ。稽古場みたいな広さになりますよ」
「最初の頃の図面は、ちょっとはしゃぎすぎた。反省はしてる」
「とはいえ、各部屋が狭いのもなぁ」
「セラお嬢の感覚では狭いでしょうね」
「そうなのかなぁ」
「私は部屋いらないよ」
モナは何気なしにいうが、ルナが制止する。
「モナ」
ルナがきっぱりと制止する。
「もし、子供ができたらどうするの?」
「あー……」
セラも手を止めた。
「これはダメだ。そこまで考えたら──」
セラは真剣な顔で言った。
「やはり引っ越すか。家を分けて、セト君に通ってもらおう」
セラは図面を書く手を止めて、お茶に手を伸ばした。
「……みんな揃ってから、また考えましょう」
「話しやすい土台で図面は描いてたけど、その方が良さそうね」
セラは軽く頭をひねってから、ポツリとつぶやいた。
「ハーレムの先輩の意見でも聞きに行こうかしら」
その言葉に、モナは首をかしげ、ルナはあからさまにうんざりした顔をしていた。
「……会う予定ありましたっけ?」
「結婚の報告をね。身内だけの食事会の予定だけど」
「その人数で“身内だけ”は通用しませんよ……」
「いやいや、今回は絞るよ。予定はこれから詰めるかな。まだ、もうちょっと先だけどね」