マントの中の彼女
朝起きると、マントにくるまったレンがいた。
まだ眠っているのか、その寝顔は実に安らかだ。
ぱっと見は、普通の少女に見える。
けれど、マントの裾から覗く足は――骨だった。
そっとマントをめくる。顔と、片方の手の平以外はすべて骨だ。
とてつもなく、シュールである。
どういう理屈か、レンに限らずスケルトンは骨同士がバラバラにならない。
一度外れても、自然にくっつく。
実際、以前戦闘中に腕を拾って自分で直すスケルトンを目撃したことがある。
「……わからないことだらけだ」
気づかれないよう、台所へ向かおうとしたそのとき。
マントがもぞりと動いた。レンの目が開く。
宝玉のような瞳。いや、実際に宝玉だ。
「……ごめん、起こしたな」
レンは首を横に振る。フルフルと、ゆっくり。
まだ言葉を発せない。顔の表面だけの処理で口の中には舌もない。
そもそもどうすれば声が出せるようになるのかわからない。
マントを羽織って座り直したレン。
その隙間から、鎖骨が覗く。
言葉だけ聞けば、いやっほーな絵面だ。
だが、スケルトンだ。鎖骨どころか、その奥の空洞までしっかり見える。
顔の可愛さと、その後に続くシュールのせいで、脳が混乱しそうになる。
俺は黙って、水を飲みに行った。
頭を整理しながら考える。朝の様子を見る限り、直射日光でなければ、バラバラになることはないようだ。
月明かりでも平気だった。曇りの日はどうだかわからない、検証が必要だな。
差し当たりマントで覆えば歩けるかどうかだが、それ以前に服が足りないな。
そう考えてると、ドアの鍵が外から解除される音がする。
お嬢である。
「何しれっと開けてんだ」
「おはよう」
謝罪などない。
「なんだいお寝坊さんだね。おやレンもおはよう。今日もシュールだね」
満面の笑みである。怒る気も失せる。
「そのシュールを少しでも解決するために、服を持ってきたよ」
お嬢――セラは大きな布袋をテーブルの上に置いた。
中には、布地のしっかりしたロングスカート、白いブラウス、そして厚手のマント。
あとは見慣れない、レースのついた手袋まで。
「旅人風にまとめてみた。ほら、隠すって意味では重ね着が正解だろ?」
レンはおそるおそる袋の中を覗きこみ、そっとスカートの裾をつまんで持ち上げる。
金色の瞳が、わずかに輝いて見えた。
「服を選ぶってのは、ただの趣味じゃない。第一印象は、大事だよ。話す前から、相手に何かを伝えるんだからね」
セラが椅子に腰を下ろし、ごく自然に服を整える。
その仕草はいつものように優雅で、セラが裕福層である余裕を感じる。
黙っていれば美人なのだ。
「さて、着替えてもらおうか。ちょうどルナがサイズ調整に来てる」
「勝手に呼ぶな」
「いやいや、ルナの方から来るって言ったんだよ。“あの子、寒くないか心配です”ってね」
「それに長丁場になる、お茶もルナに用意させよう」
案の定、ドアが再びノックされた。レンがそっと振り返る。
セトはため息をつきながら立ち上がった。
「骨を服で隠すだけで、こんな騒ぎとはな…」
レンは静かに笑った――ように見えた。
ふと気がつくセラ
「さて、と。今回も楽しんでもらえたかな?」
「評価や感想があると、私もセト君も助かるよ」
「ま、気が向いたらでいいさ。気軽に頼むよ」