表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強スケルトンに恋をした ~嫁達が強すぎて魔王認定されました~  作者: HK技研
最強スケルトン出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/277

絆を結ぶもの

階段を降りるたびに、空気が変わっていく。

地下墓地は乾いていて冷たく、まるで空気自体が死んでいるようだった。



フィーナの案内で、俺たちは奥の隅にある一室へと向かう。


レンとモナが無言でついてくる。アッシュとヴェルはすでに中にいた。

ゾンビ娘は拘束されていない。ただ、ヴェルが手を繋いでいる。


そして、……なんだ、あの筋肉の塊は。

皮膚が裂けそうなほどの筋繊維。


俺が思わず立ち止まると、フィーナが横で小さく会釈した。


「ご紹介します。聖撃の長。ヤマ=ド=マグナス様です」


……聞いてた話と違う。

「おじさんでお姉さん」って聞いてたんだけど──どう見ても、おじさんだ。

そしてでかい。



“おっさん of おっさん”。


「……お姉さん要素は?」


「気持ちは女性らしいそうです」

それ説明になってないだろ、フィーナ。


「いちごちゃんの話は、また後でな」


おっさん──いや、聖撃の長が、何でもないような顔で言った。


俺はそっと言った。


「いえ、後でも結構です。できれば、封印でお願いします」


マグナスは「そうか、残念だ」とだけ微笑んだ。

──助かった。


そう返しながら、視線は自然と彼の背後へと向いていた。

……そこに、メイド服が、丁寧に畳まれて置かれていた。


んん。これはいけない。




レンが前に出て、ゾンビと向かい合う。

間に合わせの人工スキン。その奥の濁った目。それでも、ゾンビは微かにこちらを見ていた。


レンはゆっくりポーチから紙と鉛筆を取り出す。

ひとこと、そしてまたひとこと──迷いなく書いていく。


【まだ、心があります】

【でも、“見た目”に引っ張られてる】


俺が目を通すと、レンはそのまま紙を次にめくった。


【自分が、何なのか分からなくなってる】

【だから、暴れる。違うって言いたいのに、言えない】


俺は無言で紙を受け取り、そっとみんなに見えるように置く。


【わたしも、ずっとそうでした】


レンが筆談を終え、ゾンビの方を見つめたまま黙って立っていると、マグナスが一歩前に出た。


その声は、意外なほど穏やかだった。

「君は……ダンジョンの“最強スケルトン”らしいな」


その一言に、フィーナがわずかに目を見開く。

「……最強……?」


ああ、そういえば。フィーナには話してなかったんだった。


でも、マグナスは知っていた。ということは──聖撃の、いやマグナスの情報網、恐るべしってやつだ。


「……まさか……最強の……でも、レンさんは普通に……会話……」


言いながら、途中で言葉を詰まらせた。


「いや、筆談ですが、あれ……」


混乱しながらも状況を理解しようとするその声に、レンが静かに紙を差し出した。


【言い出せなくて、ごめんね】


その一枚を受け取ったフィーナは、しばらく無言で読み──そして、そっと微笑んだ。


「わかりました。私の混乱は、ひとまず置いておきます」

フィーナが姿勢を正し、レンに向き直る。


「『見た目に引っ張られる』

とは……どういう意味ですか?」


レンは少しだけ考え込んでから、紙に書いた。


【私がスケルトンの時は、人の心が薄かった】

【でも、セトが手を、顔をくれた時から──人の心が、増えた気がします】


そして、筆を止めると、少し首を傾げる。


【ごめんなさい、説明が下手です】


そのときだった。

「いや、わかるぞ」


マグナスが唐突に、深い声で割り込んできた。

「見た目が、その人間の心を増幅させる。そういうことだろう?」


そう言って彼は、無言で背後から──巨大なメイド服を取り出した。


「これを着た時、俺は“いちごちゃん”になる」

堂々と断言した。


「……そういうことだろ」


……誰も返せなかった。


一瞬の沈黙。誰もが理解した。いや、理解してしまった。


──わかる。


……でも、全部台無しだよ。



その時、アッシュが動いた。

トン、と軽く足音を鳴らしてマグナスに近づくと、静かに囁いた。


「マグナス、少し外の空気を吸いに行きましょうか」

「え、でも……今、いい例えを──」


「今すぐ、です」


わずか数秒。筋肉の塊は、音もなく連れていかれた。


あれ? ここで一番偉い人なんだよな?

いやアッシュの方が上なのか。

扉の外で説教でもされるのかな。



マグナスが連れ出されて空気が落ち着いたころ、俺はもう一度、ゾンビに目を向けた。


連れ出す時に最低限の人工スキンはした。レンは「心が残っている」と言った。

そして確かに、さっきからずっとこちらを見ている。


「外見に引っ張られる──それは、なんとなくわかった」

自分でも気づかないうちに、どこかで決めつけていたんだろう。


「なら……ダメ元でも、レンと同じ道を辿ろう」

言いながら、また無自覚に足を踏み入れた。


俺の言葉に、誰も笑わなかった。


レンはじっとゾンビを見つめ、モナは少し不安そうに俺の袖を引っ張ったが、離しはしなかった。

フィーナは、何かを呑み込むように、黙って頷いた。


そのとき、マグナスが戻ってきていた。……さっきとは別人のように静かだった。

「必要な人工スキンはこちらで用意しよう」

唐突に、そう言った。


「その子を、人として”修復する」

俺は目を瞬いた。

「……それって」


「君がそうしたいのだろう?なら、その任を君に託す。何より私もそれを見たいのだよ」


マグナスが静かに言った。


「死んでから戻ってくる聖職者を、“聖人”と呼ぶのだとしたら……」

視線は、セトとレン、ゾンビへと巡る。


「君達は──なんと呼ばれるのだろうな」


少しの間を置いて、セトが肩をすくめる。

「さあ……この二人はわからないが、俺は“最強のヒモ”らしいですよ」


セトが苦笑い交じりに言うと、モナが小さくつねってきた。

レンは【私はただの嫁】とだけ書いた。

その様子を見たヴェルとアッシュが、どこか安心したように微笑んでいた。


その様子を見ていたマグナスが、感慨深げに呟く。


「……“繋ぎ止めるヒモ”、か。絆を結ぶ……うむ。実に象徴的だ」


勝手に解釈が深まってる。


いやそれ、靴紐とかの意味じゃないんだけど。


セトは少し肩をすくめて言った。


「うん、まあ……そうしておこう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ