救いの手か、戦いの拳か
「ところであなた方でゴーレムを倒したのですか?」
自己紹介が済んで満足したのか、フィーナから質問がくる。
「いや、俺たちがみた時はすでに倒されてた」
「なるほど」
フィーナが顎に手を当て考え込んでいる。
「倒して先に進んだのではなく、倒して出ていった」
自分の考えをまとめるような独り言を言っている。
「出て行ったって何が?」
「たとえば最強スケルトンでしょうか?あれならゴーレムも倒すと思います」
その言葉にどきりとするが、それはない。
チラリとレンを見るが、頭ふりふりしてる。お尻まで揺れるのはなんだろう。
「冒険者の最強スケルトンが消えたって噂話もありますし」
「噂になってるんだ」
「何か心当たりでも」
「いやない」
嘘をつくのは気が引けるが、まずは様子見だ。
「もし最強スケルトンを見つけたらどうするの?」
「ダンジョン内なら問題視しません。冒険者たちに任せます。地上なら対処します」
おっと嘘ついて正解だったか。
「私の拳で。ふんさ……浄化します」
「粉砕って言おうとしたか」
「はははっ聖撃は戦闘特化なので」
「まぁ教会に戦闘特化がいても、そこまで不思議じゃないがちょっと極端には思う」
「聖撃はまだ設立が若く、信者も冒険者が多いですから」
「設立者は?」
「筋肉ムキムキのイチゴおねーさんです」
ツッコミを入れる前にフィーナが続ける
「昼はおじさんです」
「2人いるの?」
「いえ1人ですよ」
ふむ、会話が噛み合わないが、なんとなく想像がついた。
「おじさんの時はいちごおじさん?」
「いえ、冒険者では割と有梅いなヤマ=ド=マグナスことヤマちゃんです」
「マグナスさんが、その集団の設立者なのですか!?」
とたんルナが割ってはいる。
「有名なの?」
道具屋家業では冒険者はお得意様しかわからない。
「ソロ活動が多く。そこまで功績も上げてはいなかったのですが、剣士の中では有名でした」
「でしたってことは、今は活動してないのか」
「剣を置いたとは聞いていたのですが、教会にいましたか」
「そうなのです。信心に目覚めたイチゴお姉様は、教会を経て分派。聖撃を名乗ったのです」
うん。理解できるようで、やはりできん。
「信心に目覚めたイチゴお姉様は、教会を経て分派。聖撃を名乗ったのです」
「……」うん。理解できるようで、やはりできん。
ルナが目を伏せている。あの鋭い眼差しが、今日は少し揺れて見えた。
フィーナはそんなルナに、まっすぐな目で語りかけた。
「あなた、強くなりたいと思ったことはありませんか?」
「……っ、それは……」
「悩める子羊に力を。迷える剣に、聖なる拳を──聖撃教会は、力を望むすべての人に、答えを用意しています」
「ちょっと、勧誘始めたぞ」
「いえいえ、導きです。光への道です。信じる拳が、道を開きます」
「いやそれ、物理的に開けてたよねゾンビの頭とか」
「一度見学だけでもきてください。稽古場なら、いつでも見れますので」
「そのイチゴさんにも会えるのか?」
「昼は孤児院と教会で忙しいので、夜ならいることが多いです。説法も聞けますよ」
なるほど、活動としては普通っぽい。普通が麻痺してきた気がする。
ルナは迷っている感じだな。剣と拳では違うものな。
ただ、筋肉という割には細身のフィーナがあそこまで強いのは、確かに気にかかる。
「それでは私はもう一つ下を調査してきますね。ご安全に」
そうして、周りのゾンビを一掃しながらフィーナが消えた。
「最初の一撃は、祈りとともに。癒しの左」
「貧困に救済を。戦いには拳を!」
「汝隣人の筋肉を超えよ!」
稽古場にあれがいっぱいいるとなると遠慮はしたい。
隣で筋肉鍛えってたらムキムキ増えるわな。
いつの間にかモナは寝ていた。フィーナのおかげで、周りのゾンビもいないし。
しばらく、休ませておこう。