あゆみの差
目を覚ますとすでに3人は準備を終えていた。
今回は時間潰しが目的で、ゴーレムは腕試しであったが、当面の目標を失ってしまった。
3人はすでに下に進む気でいるようだ。
7階層、ゴーレムに阻まれここに辿り着くには実力者がいなければ無理だ。
とはいえ100年でここもあらかた鉱石は取り尽くされている。代わりにゾンビとスケルトンが多くいる。
レンのように意思疎通ができるものがいないか、チェックしてみたが、いそうにない。
100年という年月以外にも何か理由があるのだろうか。
これまでの階層と比べ強さは変わらないが、数が多い。
モナ、ルナ、レンと三角形で俺を守りながら先に進む。
少しだけルナが押されている回数が増えた気がする。
モナは一撃が重く、スタミナもあり。
レンはショートソードで的確にゾンビを沈めていく。
ルナは連続攻撃で危なげなく倒すが、その回数が増えているように思える。
岩陰があるので少し休憩を取ることにする。入り口になりそうな部分はレンが足止めをしてくれる。
「少し息を整えよう」
何もしていない俺が言うのもおかしいが、ルナは言わなければ休まないだろう。
「足をひっぱってすみません」
「何言ってんだ。俺なんてしがみついてるくらい邪魔だぞ」
冗談で和ませようとしたが不発だったようだ。ルナは顔をあげない。
冒険者の中でも上位に位置するだろうルナが見劣りするわけじゃない。
あの二人が別格なだけだ。
だが昨日のモナと同じように、それを受け入れるのは難しいのだろう。
自分が得意としてきた分野では特に。
「違いはなんだろうな」
言った瞬間、ルナの肩がぴくりと揺れた。
しまった失言だった。本人が自覚していることを、俺が口にするべきじゃなかった。
「才能……って言えば、楽なんです」
ぽつりと、ルナが口を開いた。
「レンさんは何十年も積み重ねてきた結果ですし……モナさんだって、獣人としての特性はあっても、それを活かす努力をしてきた」
「わかってるんです。どれも、言い訳にならないって」
静かな声だったが、その中に確かな悔しさが混じっていた。
「追いつきたくて、頑張ってきたつもりでした。でも、どこかで――自分はやれるって、思ってたんでしょうね。だから、今……すごく、悔しい」
「昨日のおじいちゃんは、積み重ねてきたものを出し切って、レンさんに上を行かれたのに……笑ってました」
少し俯いたまま、ルナは続ける。
「悔しくないわけじゃないと思うんです。きっと、すごく……悔しかった。でも、あの人には“出し切った”っていう納得があったんですよね。私には、それが……まだ、ないから」
ルナは拳をぎゅっと握る。
「出し切れてない。出せるものが、あるのに。まだ、足りてない。だから……苦しいんです」
「それなのに偉そうにモナにあと100回とか……。その100回で、もう私は――置いて行かれた」
言った瞬間、ルナの声がかすれた。
「……なんで、私じゃダメなんだろうって、思っちゃったんです」
その言葉が終わる頃、6階層の階段がぼんやりと明るくなった。気配がある。何者かが、6階層から降りてきた。
空気が変わった。
ルナの言葉は、途中で止まったまま。全員が、岩陰から階段の方へと目を向ける。