【挿絵モナ】お祝いと厄介ごと
「昨夜はお楽しみでしたね」
開口一番、セラお嬢。
玄関を開けた瞬間からこれだ。相変わらず元気そうだな、いや元気すぎる。
「ポエムを繰り広げながら、三人でイチャイチャと……ふふ、目撃者がいなくてよかったね?」
こいつやっぱり妖怪だろ。
とりあえず苦笑いで応えておくと、すかさず視線がレンへ向かう。
「おお、これはまた予想外。黒髪がなんだか増えたというか、見え方がだいぶ違うね。角度によっては艶が変わって見える……うん、いい」
レンが、少しだけ首をかしげてセラを見る。
「今回はね、モナの魔力も借りたからさ。定着の仕方も前回とは違った。……なんというか、“意志”が入った気がするんだ」
「なるほどなるほど。つまり、仕上がりに“愛情”が込められてるわけだ?」
ぐいっと顔を寄せてきたセラの目が、なぜかやたらと光っている。
否定もできない。実際、レンやモナに対しての愛情は――自覚している。
「で、二人ともお嫁さんにするのかい?」
「……そうなるのかもな」
「なんだい、この後に及んで歯切れが悪いね。最強と伝説になんの不満があるんだい」
そこで俺が口を閉じたのを見て、セラは自信満々に頷いた。
「そうか――私だね」
レンとモナが、ほぼ同時に首をかしげた。
「ちょっと待て、どういう理屈だよ」
「うん、順当な流れだろう? 最強、伝説、そして美貌と財力と人脈と――」
「欲張りすぎだ」
レンとモナが、同時にきょとんとした顔を見せた。
そのままモナがぽつりと呟く。
「……セラとも、結婚するのか?」
「おっと、良い質問だね。そこは本人の誠意次第かな?」
セラは即答し、にやりと笑う。
その顔はどう見ても冗談のつもりじゃない。
「お前、簡単に結婚する身分じゃないだろ……家の格を考えろ」
俺がため息混じりに突っ込むと、セラは首を傾げて言った。
「否定しないところが嬉しいね」
レンがまた首をかしげて、モナは「あー……」と耳が赤くなっていた。
「モナ、大丈夫だ。……いつものことだ」
俺が小さく呟くと、モナは何とも言えない顔でうなずいた。
「で、どうせ厄介ごとがあるんだろ?」
「さすがセト君、話が早くて助かるよ。でもその前に、モナに結婚祝いだ」
ルナが重そうな荷物を持ってくる。
「なんだそれは」
「ほら、あの子いま毛皮もないし、身体つきも変わったでしょ。ちょっと見てたら、あまりにも無防備だったからね。よかったら使ってくれ」
モナが着替えるのをルナが手伝ってくれる。
レンも加わってなんだか奥で楽しそうだ。
着替え終わったモナはなんだか照れている。
あと胸元から下着見えてないか?
セラは腕を組み、目を細めながらモナと鎧姿を見つめた。
「うん、いいね。想定よりもずっと似合う」
モナはやや落ち着かない様子で、胸元に手を当てた。
「でも……ここ、ちょっと空いてない? 守られてないっていうか……」
「心配無用。そこは最後に装着するプレートがあるのさ」
セラは笑いながら、小さな銀の装甲を手渡した。
「あるじゃないか」
「こだわりを見せたくてね」
「……まぁ、そういうの嫌いじゃないけど」
「軽さと防御力、それに動きやすさを最優先にしたんだ。通気性も悪くないでしょ?」
「うん……思ったより、軽いし動きやすい。けど――これ、本当に私になの?」
セラはふっと微笑み、視線をセトに向けた。
「実はね、――ちょっとお願いがあるんだ」
セトが眉をひそめる。
「やっぱりそう来るか。……で、どういう話?」
「説得に時間がかかっててさ。例の件、教会の連中が“白虎に面会させろ”ってうるさいんだよ」
「教会が? そりゃまた穏やかじゃないな」
「そう。さすがに国王の次に偉いような連中には、完全には断れなくてね。だから……」
「しばらく家を留守にしてほしいってわけか」
「察しがいいと助かるよ。短くて2日、長くて5日くらい」
「その間に、装備のテストでもしておけと?」
「うん。ダンジョンでもどこでも、腕試しってことで。それと」
セラは軽くウインクした。
「あとで武器も選んできてくれ。請求は私で構わない」
モナはきょとんとした後、ゆっくりと頷いた。
そのとき、レンがそっと俺の顔を覗く。
金色の瞳が、少しだけ不安そうにこちらを見ている。
「大丈夫。レンを置いていかないよ」
レンは嬉しそうに服を着替えにいく。
まだすぐにはいかないよ?