表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/105

あれはあれですよ

朝。ノックの音がして、玄関の鍵がまわる。

 ――予想通りだ。というか、やっぱりか。


 椅子のバリケードも目張りも昨日のうちに撤去したが、

 さも当然に入ってくるあたり、実にセラらしい。


 開いたドアから、紅茶でも手にしてそうな余裕の顔。

 だが今日の彼女は、少し違った。


 セラの視線が、テーブルの上に吸い寄せられる。


 ――昨夜切ったばかりの、銀髪の束。


 セラは足を止め、目を丸くした。


「……あら。それは」


「勝手に入ってくるなよ」


「昨夜は締め出されたからねぇ。今日は特別対応だよ、ノックもしたし」


「ノックして鍵を開けないのが“普通”なんだよ?」


 人の言葉をさらりと流して、セラは銀髪を手に取る。

 指先で撫でるように触れ、その質感を確かめるように息をついた。


「……この毛並み。まさか――倒したのか?」


「……結果的には、な」


 セラの目が細くなる。


「なら、もっと髪が……いや、それより。亡骸は? どこに?」


「殺してはいない」


「……は?」


「だから、生きてる。しかもこの家にいる。今も寝てる」


「…………」


 セラは固まった。


 セトは布袋を開き、破けたブラウスと裂けたコルセットを取り出す。

 静かにテーブルに置いた。


「あと……悪いけど、別の服を用意してくれ。昨日の戦いで、完全にダメになった」


 現実が飲み込めていないのか、しばらく黙っていたセラは、

 やがて衣服に視線を落とし、ひとつひとつ確かめるように指を這わせる。


 破れ、汚れ。戦闘の痕跡。


「……なるほど。これはまた……荒っぽい遊びでもしたかのような」


「してない! 戦闘だ!」


 セラは小さく笑った。


「冗談だよ。にしても、剥製にはしてないってわけか」


「してないって言ってるだろ!」


 そんなやり取りの後も、セラはまだ銀髪を見ていた。

 まるで、美術品でも見ているように――あるいは、何かを思い出すように。


「白虎には会えるかい?」


「もう少し落ち着いてからの方がいいと思うが……」


 そのとき、奥の部屋のドアがそっと開く。

 レンが、そっとモナを連れてきた。


「おや、また可愛らしい来客が増えたね」


 セラは言いかけて――その視線が、モナの頭のケモ耳に吸い寄せられた。


「セト君。まさかとは思うが、あれは……あれかね」


「あれはあれですよ、セラお嬢」


「あれれ……」


 セラが落ち着くまで、ゆっくりと説明してやった。

 “もっちゃん”呼びはまたしても却下された。


 気がつけば、いつの間にかルナが紅茶を淹れてくれていた。

 ――美味しかった。


順番間違えて再投稿です。失礼しました。

先に読んでいたかた申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ