不満と魅惑のトライアングル【ルナ挿絵】
嫁が強い。
比喩でなく強い。
尻に敷かれてます。
比喩でなく。
魔人認定が4人。元聖騎士1名。トップクラスの剣士で道場経営娘と引退した達人おじいちゃん。
さらに客人として他国の勇者が2名とその精鋭部隊30名。
筋肉信者と道場の若手合わせて100名程度。
外交と内政をやってるセラ。
「無理だろ」
「無理よ」
ついにセラが弱音を吐いた。
なんせ頭脳労働組が少ない。
流石のやり手セラでも間に合わないようだ。
「フィーナとアッシュは手伝えるんじゃないか?」
「フィーナは説法とかは得意だけど、良くも悪くも真っ直ぐすぎ」
確かに、真っ直ぐすぎて外交は難しいだろうし。苦労を分かりすぎて内政も難しそうだ。
「アッシュは?」
「交渉ごとは苦手ではないけど、事務仕事は無理」
駆け引きは得意というか戦いの延長なんだろうな。
ヴェルは突進あるのみだから最初から無理。
「なので人員を募集してきます」
「セラ部隊だな」
「ルナがしてくれるのは私の補助だからね」
セラのお付きのルナは、セラの身の回りの世話と仕事の補佐はする。
だが、独自に動くことはないようだ。
それに最近は道場主でもあるからな。
「ルナの代わりを探します」 セラが淡々と告げた、その瞬間――
カランッ!
後ろで何かが落ちた。お盆だ。 振り返ると、ルナが固まっていた。
「ルナ、そういう意味じゃないから!」
珍しく、セラが慌てた。挙動不審だ。
二人は俺の嫁だが――その間には、俺の入れない別の信頼がある。
セラがここまで気にする相手はルナくらいじゃなかろうか。
普段はそんなそぶりを見せないので、逆に安心する。
「誰もルナの代わりが務まらないのはわかったよ。だが、その上で人材が必要だな」
良いこと言った風にしてるのに、 ……が、二人はそれどころじゃないらしい。
日を改めよう。
と思ったのだが、夜部屋に戻るとルナがいた。
嫁達は一人で来たり、数人だったり気ままにくるのだが、ルナの場合はセラかモナが一緒のことが多かった。
一人でくるのは珍しいし。他の嫁も何かを察して順番を譲ったのだろう。
うむ。不機嫌な顔をしてるルナだ。
以前はこれが普通だった。
セラのお付きで護衛任務をしていた時は、ムッとした表情で横に立っていた。
レンやモナ、特にモナ。剣術の腕で負けた嫉妬もあったりしたが、ルナが文字を教える間柄。
先生だったりライバルだったり友人だったり。その時間がルナに新しい感情や楽しみを教えた。
の、はずだったが、今日は随分とムッとしてるな。
「お嬢もセトさんもわかってません」
おっと、セラに腹を立ててると思ったら、俺にもだった。
ムッとしてるが……可愛く見えて仕方がない。
なぜなら、スツールに座るルナはYシャツ一枚なのだ。いや、見えてないだけで履いている……のか?
何を?
パンツをだ!
Yシャツの裾が絶妙に太ももへとかかる。
その魅惑のトライアングル――確認不可能。くっ。
「私以外でいいなら勝手にすればいいんです」
Yシャツのボタンがもう一つ外れてたら、そりゃもうブラボーだ。
いや、高望みはしない。今の時点で眼福だ。んで……これ、履いてるのかね?
「聞いてますか!」
「すみません。それどころじゃなかったです」
「あなたはあなたでいつもやらしい目でみて」
「あのルナ?」
視線を逸らし、ほんの一瞬、唇を噛む。
「……そのくせ、私には興味がないくせについでのように娶って」
「ルナ」
俺の声で、やっと俺を見る。
「あなたは優しいから。セラお嬢がいなくなったら私の居場所がなくなるから」
ルナは真面目だ。
そして自分を責める癖がある。
「モナが好きな人、セラお嬢が好きな人。みんなが好きな人」
その声は、怒っているときよりずっと小さい。
「私はセラお嬢が好き。セラお嬢が好きなあなたが好き」
「それでいいよ」
「モナだって。俺とレンの関係が好きでその輪に入りたくて一緒になったんだ」
俺は慎重に言葉を選ぶ。
泣いてる女性は何よりも怖いことを知っている。
正解を選べるか、地雷を踏み抜くかわからないけどな。
だが、選ぶ。選んだ結果は受け止める。
「そして誰一人、適当に嫁にしたわけじゃない」
ルナの目に少し光が戻るのを感じる。
「セラのついでなんかじゃないし、セラと一緒にいるルナも好きだ」
冷たい手を握りしめていたルナの手を俺は掴む。
「セラも俺もルナが好きで、モナやレンも同じだ」
そっと抱きしめるとルナもそれを拒まなかった。
「そういうことにしておきます」
「でもセラお嬢の補佐は私ですよ」
俺の胸に顔を埋めながらも主張するルナが可愛かった。
「ところで」
俺の問いかけにルナが顔を上げる。
「ここで二人だとセラが拗ねるから呼びに行かない?」
その言葉にルナが笑う。
「そうですね。でも扉の向こうにもういると思いますよ」
開けてみると、バツが悪そうにしてるセラがいた。
目が合うと、わずかに視線を逸らし――それでも、口元は緩んでいた。
この嫁たちは3人のバランスが重要なのだ。少し歪なトライアングル。
……まあ、いろいろあったけど。
風呂入って、寝た!
……あ、そうそう。履いてました。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「それ当事者じゃない奴が言うセリフな」