第2話 領域
あれから生い茂る木々の中をひたすら歩いた。
歩き出したときは物騒な雰囲気を感じていたが、今歩いている場所はむしろ心が安らぐほどに気持ちが良い。
やはり自然は素晴らしい――やはり、か……以前の僕も自然が好きだったのかもしれない。
「着いたぞ」
シェーンの足が止まった。
目の前には大きく立派な樹があった。凄まじい力を感じる。
僕はその不思議な力と存在感に圧倒されていた。
「おい……おい! ルーク!」
何度も呼びかけられていたのに気付かなかったようだ。
シェーンに名前を叫ばれて初めて意識が戻った。
「わあ! ごめんなさい……あまりにも大樹が凄くて圧倒されていました」
ゼロ距離の位置にシェーンがいた。
ほんとなんでこんな至近距離にいたのに気付かなかったのか。
「ふふん、そうだろう! コイツと俺は一心同体だからな」
自慢げにドヤ顔をキメている。
シェーンの短いしっぽがふりふりしているのを僕は見逃さなかった。
ああ……尊い。思わず顔を綻ばせてしまった。
「あのそれで、ここは一体……」
大樹と少量の倒木、様々な種類の草花が美しくも儚い。
うさぎや小鳥、リスたちなどの小動物もちらほら現れ始めた。
皆、シェーンの周りに集まってきている。
「あ、そうだった。ごほんっ……ここは森の主であるこの俺、ケルヌンノスの領域である。ルーク、お前にはここで暮らしてもらうことにした」
さっきまでの可愛さが消え、急に威厳が現れた。
後ろの大樹と相まって、その姿はまるで神が降臨したようだった。
シェーンの背に後光が差し込んでいるようにすら感じた。
「良いのですか……?」
この領域内で過ごせることすら奇跡だ。そのうえ、その主であるシェーンに守ってもらうなどど……こんな状況あっても良いのだろうか。
「別に……仕方なくだ! アンナ様に頼まれたからな。ここは俺の結界で守られている安全な場所だ。お前を危険から守ることだってできる」
ああそうか、アンナ様にも守られているのか。
僕は守られてばかりなんだな……情けない。
早く一人前になりたい。自立しなければ。
「ありがとうございます。 しばらくの間、よろしくお願い致します」
僕の気が沈んでいたのを感じたのか、シェーンは不思議そうにしていた。
どこか気まずそうにしている。普段はオラオラしているけど根は優しいんだろうな。
「お、おう」
一旦、切り替えよう。先に進まなければ。
まず最初に生活基盤を整えよう。
「まずは住むところですよね――領域の外にある木々であれば伐採して利用してもよろしいでしょうか」
シェーンは森の主だ。むやみやたらに木を切ってしまっては怒りを買ってしまうだろう。
それに僕自身もどうやら自然破壊に対してはかなりの嫌悪感を抱いてるようだ。
「むやみに倒さなければ構わない。それと敬語もいらん。楽に話せ」
少しは心を開いてくれたのだろうか。
なんだか恥ずかしいが嬉しさの方が勝っている。
「ふふ、ありがとう。うーん、しかしどうやって倒そうか」
何か倒す方法は無いかな。シェーンの力に頼りきるのは良くないし。
どうしようかとしばらく黙り込んで悩んでいると
「ルーク、何かスキルとか持ってないのか」
その様子を見かねたシェーンが助言をしてくれた。
最初は敵意むき出しだったのに心配してくれたみたいだ。
「スキルってなに……?」
聞いたことはある気がする。
だけど意味は全くわからない。
「はあ……まじか。一度、『ステータスオープン』と唱えてみろ」
なんかすごく呆れられた気がする。
まあとりあえず言うことを聞こう。
「……? わかった。ステータスオープン!」
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【名前】ルーク
【年齢】10歳
【種族】人族
【称号】森の寵児
【HP】49990 / 50000 【MP】30000 / 30000
【スキル】体術 S
剣術 C
緑魔法 S
土魔法 C
鑑定 C
テイマー A
アイテムボックス 7 / 20
【加護】森の精霊女王の加護
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色々あるな……すごい。
ちょっと脳の処理が追い付かない。
「あれアイテムボックスになんか色々入ってる」
7個のアイテムがあるんだな。
何が入ってるんだろう。お、なんか道具がいっぱいだ。
あ、コレ……ステータス表示を触ると新しい表示が出てきた。
>>>斧を使用しますか?
>>>Yes or No
―Yes
「おお出てきた。これでとりあえず木は倒せそう」
操作を終えると、まばゆい光とともに斧が手元に現れた。
重さはあるが、かなり丈夫で使いやすそうだ。
「せーの!」
僕は領域外に出て1本の木の前に来ていた。
そして斧を構えて思い切り振り切った。
(スパッ! バタン……)
木に斧が通ると一発で綺麗に真っ二つになった。
切った木は轟音とともに倒れた。
その衝撃が地面と風を通してこちらに伝わってくる。
「え……ええ、一発ですか……」
結構すんなり切れてしまった。切るときは重さもあまり感じなかったし……。
自分の力の現実に驚き呆けているとシェーンが近づいてきた。
「ルーク……お前、ほんと何者なんだ」
さすがのシェーンも驚いたようだ。
もはや疑念よりも驚きの方が強いようである。
「僕もびっくりです。一体何が……?」
もう一度、今度はシェーンとともにステータスを確認した。
改めて見ると、かなり恵まれている。
「これは……おいルーク、お前に稽古をつけてやる。このまま力を振るうのはあまりにも危険すぎる」
シェーンの顔つきが変わった。
僕は彼の真剣な眼差しを見てすぐに了承した。
「だけどその前に……家を造りたい、です」
修練するのは当然必要なことだが、休憩をする場だって必要になってくる。
今は力をつけることよりも生活基盤を整える方が大切だ、と思う。
「そうだったな。ルークは人族だったか。住まう場所が必要だな。良いだろう、時間をやる」
そう言うと大樹の方へ向かって行った。
そして体を丸めて休み出した。
「ありがとう。シェーン」
僕は改めて倒した木の方に向かった。
そういえば鑑定スキルを持っていたな。いっちょ使ってみるか。
「鑑定」
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【ヒノギの木】
高さ30mになる常緑樹。
腐りにくく耐久性、耐水性に優れている。
触り心地が良く、木目も美しい。消臭効果やリラックス効果が期待できる。
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ヒノギって……ヒノキのことかな。ん……? いや、ヒノギはヒノギだろ。
うん……まあとりあえず、家を建てるのに丁度良いな。
「よっしゃ!まずは」
僕は材料を揃えるために木を追加で倒していった。
さらに加えてもう1本新しい木を見つけた。
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【スキの木】
大きいもので50m以上にもなる。樹齢は2000年~3000年ほどと言われている。
気温に対する適応範囲が広い。比較的成長が早いのも特徴である。
スキの木材は、軽くて柔らかく、曲げやすく加工しやすい。
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よし! この2種類の木を使って家と家具を造ろう!
不思議と家の造り方は頭に浮かんでいる。
道具もアイテムボックスに入ってるようだし……やばいワクワクしすぎて、よだれが出てきた……ぐへへへ。
お読み頂きありがとうございます。