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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

烏賊

作者: 山本啓一

近頃、寝付きがよくない。そして最近の特徴と言えば、変な夢ばかりみることだ。いやあ、恐ろしい。おそろしい。金属バットで父親の頭蓋をかち割る夢やら、逆にその父親からピストルで私が射殺される夢やら、とにかくしつこく私の父親は夢に出てくる。いつも冷や汗をかいて飛び起きるわけだが、その度に私は安堵する。あああ、よかった。おれ、親父から逃げたんだっけな。3年前、私は家出したのである。それで今、父親の住む場所から60km離れた茨城県のT市に住んでいる訳だ。ここは空気の旨い、しずかな田舎町である。コンビニがぽつり、ぽつり、と建っているだけ。だが、まあ、良いじゃないか。栄養失調したみたいな貧相な町並みは、味わい深いものだ。空虚が、心地よいのさ。

さて、今夜も父親は夢に出てくるのかしら。2カ月くらいすると、私はだんだん、寝るのが楽しみになってきた。今度は殺すほうなのか、殺されるほうなのか。なんだか、考えただけでうきうきしてくるのだ。枕元に、夢を書き写すためのノートとボールペンを置いて、私は布団に入った。そしてこんな夢をみた。


なんだか真っ白い世界だった。まるで、私がひとり遊びをしたあとに飛び散る、あの色のようだった。前方で、片方だけ乳房を出したおんなが、手招きしている。おんなは、口の端から血を流していた。「おかえんなさい」。おんなは、呟いた。おんなの顔をよく見ると、私が幼い頃に死んだ母の顔をしていたのだ。懐かしくなって、私はおんなへ近づく。地面はなぜだか、沢山のイカの死骸でびっしりだった。私とおんなの距離は僅かだが、私が歩くたんびに、イカの死骸のせいで滑りそうになる。なかなか近づけない。ああ、かあさん!私がそう言ったとき、後ろから銃声がした。ああっ!

私は、脳髄をぶち抜かれて倒れた。地面びっしりのイカの死骸たちが私の血のせいで赤く染まってゆく。私を撃ったのは、父親だった。



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