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死にたければ、死ね!

私は幸せだ!私は幸福なのだ!


試しにそう叫んでみるが、それはおかしなことに気がついた。


私がいるのは社会ではないか、あんなに忌み嫌っていた渦のど真ん中ではないのか。


私は人が嫌いと言ったくせに、人と関わって幸福を得ている。


それは、おかしくないのか。


おかしい。


いや、おかしくない。


私の幸せは、社会の、営みの、苦しみの、誰かと関わることにしかない。


そう、私は幸せだ!


友がいるのだから!一人ではないのだから!











戦争は終わった。何ヶ月もかかったが、終わった。


「血の匂いが、当たり前だと思えるぐらいには、嫌な経験になった」


アイナナはそういい、必死に汚れを落とすために、体を洗っていた。


「戦争なんて初めてだったから、本当に、二度とごめんだね」


アイナナの、女の裸を見ていても、男であるらしい私には、欲情も嫉妬も湧いてこない。

それは記憶喪失になって、世の常識を失って、性差などを気にしなくなったからだろう。


男も女も私からすれば同じなのだ。


「残った場所なんてここぐらいで、私には他の場所を治す責務がある」


それは、そうだろう。


「そして復興の為の情報は現場、人伝でなく自己の目で見るしかないものなのだから、私は被災地へ赴かなくてはならない、領主として」


「はい」


「ついてきてもらえる?」


「いいですよ」






世界を救えるから、人を救うなんて傲慢な行為ができるのか、それともその逆も、なんて考えたがどうでも良かった。

そもそも、人間には、人を救う力も世界も救う力もないからだ。


救う、助ける、救われる。


そう言った話を聞くたびに、私は疑問を持ってしまう。


なんで救われたと、幸せだと思えるのか。


金の何がいい、命の何がいいのか、人を殺してならぬわけ、人の幸せとはなんなのか。


記憶喪失の、子供より酷い目に頭の状態で考えた問いは、答えを出したけど、普遍性はなかった。


親に話したことがある。私の幸せと、その考えを。


私は永遠に、親である貴様が私を子として扱うなら、永遠に、幸せになれないと。


過去に縛られ続ける、今の私を無視して、過去の来栖クルスを追い求めるのなら、私は家から出るしかないと。


人は幸せになれない。


思い込みでしか、幸せになれない。


しかし思い込んで仕舞えば、現状に満足して仕舞えば、意思たるエネルギは衰え、その場に留まる廃棄物へ。


時間は必ず未来へ行く。


誰にも決められていないが、時は前に進む。


なのならばこそ、人も前に進まなければならない。


時間は必ず次の秒数へ。


私も次へ、行かなくては。


私の幸せは、前にはあるのかも、しれない。








「いてっ」


視界が、頭が赤く染まる。


これは、まあ、慣れた痛みであった。


「黒髪は、出ていけ!」








「ごめんなさい、私のせいで」


何に対し、なぜ謝っているのかは私にはわからない。


「そう、ですか」


だから、否定する。


「誰のせいでもないと思います。ただ、起きてしまった結果を飲み込むのは、難しいから、私にレンガを投げつけた」


視界に白色が、黒色が入れば、それは包帯が巻かれた証であった。







「死ね!」


石が、私の目の前に飛んでくる。


けれどアイナナが防いでくれるから、私はなんともないのであった。


「死ね!死ね!死ねよ!」


コール、コール、アンコール。


人は黒髪に死を願う。


人に死を誘うぐらいなら、貴様が死ねと、私は言われているのだ。


何回も聞いた、私を殺そうとする声。


日本でも聞いた、私への殺意。










ようやく理解した、私は、人間なのだと。

当たり前に人は殺せるし、当然のように人を傷つける、生き物なのだと。

そう、記憶があろうがなかろうが、私は社会の中に居てしまって、そこで大小問わず偏見を孕んでいるから、誰とも変わらない愚かしさも抱えている。

私は自分を、可哀想な奴だと思い込んでいたのだ。

この世に生まれた限り、みんな可哀想だというのに。










「ごめん、ごめん」


声は泣いていて、哀れだ。


こんなつもりではなかったらしい、私を傷つける意思はなかったらしい。


アイナナが泣いているのを、私は黙って見ていた。


私から見た私は、殴られても構わない、つまり社会のはみ出しもので、石を投げられたとて怒りは湧かない。


虫を叩き潰すのに、感情が必要だろうか。


私が血に塗れて、それで鬱憤を晴らせる人がいるのなら、私はそれを受け入れよう。


寛容に、なってあげよう。


だけれどアイナナは違って、私を一個人のまともな人間と見てくれていたのだから、まさか差別されるとは思っていなかったようで、どうしていいのかもわからずに泣いていた。









生まれてくることを、望めない。


産むことは望める。


産んだものを、認めることはできない。


ずっと、ずっと選択を続ける。


生きることも、死ぬことも、選び取って生きてきた。


だから、私と違う選択を、真逆の過程を経て、私へレンガを投げた人はいる。


人を差別する人は、必ずいる。








心が苦しいのは、アイナナが、私の親友が泣いているからだ。


私たちはなんだか似ていて、でも鏡合わせの姿みたいで、だから性欲の対象にはならない。


人が人を好きになるのは、自分が持たぬ才能を、遺伝子に惹かれて好きになる。


だから前提として、恋愛は男と女で行われるし、それ以外は理に反した、恋愛ではないものとなる。


そう、そうだ、恋愛ではない、絶対に。


ならばこの心苦しさは、泣いている彼女を見た私の痛みではなくて、彼女の痛みなんだ。


初めて見た涙が、私の心へ入り込む。


おお、おお、神よ。


そんなものがいるのなら、これが人なのだと聞いてみよう。


人が、人を思いやる気持ちに、私は初めて心打たれた。


「アイナナ」


泣かないでくれ、笑ってほしい。


「私は、貴方に笑ってほしい」


抱きしめて、視界と口を塞ぐ。


私の言葉だけを、聞いてもらう。


「私は、キミがいてくれるだけでいい。辛かった、今までの人生よりも、私を見てくれるキミが、大切だから」


だから気にしないでくれ、私を見てくれ。


「私は笑っている、笑えているはずだから、キミが泣く理由はないはずだから」







人は差別をする。そこに思考はない。


虫を叩き潰すのに感情が必要だろうか。


それと同じように、集団から浮いてる人を排除するのは、日常と行為の一つだ。


だから人は誰しも差別をする、されたものも、したものも、等しく排除されている時がある。


それに気づかないのは、目を逸らしてあるか、見てないか。


完璧な人間はいる。完璧という言葉はある。


けれど、私が思い描く完璧な人間は、きっと辞書と同じ形をしていない。


苦しんで、悩んで、逃げて、死んで。


人と変わらない、ただ人。


そう、けれど、私にとっての理想を体現してくれていて、ひとりぼっちの私に、笑いかけてくれて。


「……ありがとう。私を見て、泣いてくれて。心配されたのは初めてだからわからないけど、たぶん、こうだよね」


口が開いて、言葉が紡ぐ。


「ありがとう」








眠れば朝が来る、らしい。


生まれたばかりの私にはそれが理解できなくて、親が見かねて私を寝かしつけた。


何かの話を、母がしていた。


今それを思い出せば、それこそが、親の願いだったのだ。


音として鳴る、嗚咽。


私を求める、涙声。


私は私だ。


魂があるからとか、そんなくだらない理由とかではなくて。


でも、今ならわかるんだ。


私は私でも、私は、私だけのものではないと。


親が産んで、親が育てて、自分で見つけて。


意識と無作為の連続が、今を作る。


母は何を思っていたのだろう。


大事に育てられた息子が、別人に、しかし同じ人間になったとき、あの人はどんな目で私を見ていたのだろうか?


過ぎたこと、終わったこと。


そう言えば、そうなのだが。


過去は、変わらないのだ。












「おはようございます」


「おお、おはよう。旅の疲れは取れたかな」


「勿論」


戦争が終われば、日常は続く。


今は過渡期、世の中はいつだって過渡期。


戦争が終わって、戦争の常識が壊されて。


これからは魔法ではなくて、兵器の時代になるのかもしれない。


魔法という不規則なものより、奴隷に火縄銃でも持たせた方が良い時代は、来るのかもしれない。


(帰りたい)


私の家へ、帰りたい。


来栖クルスの家へ、帰りたい。


近代だ、近代化だ。


せっかく逃げてきた牧歌世界の異世界も、いずれは化学産業と理屈の世界になってしまう。


それは、それこそが私を排除したものであるのだから、否定したいのだ。


自然を壊すから、産業化はやめろと言ったところで、理解はされない。


画一化的な教育を行なって、人の幅を狭めるなと言いたい。


魔法は、ファンタジーは、ドラゴンは、人を変えてくれない。


むしろ傲慢さに拍車をかけて、己が愚行を促進するのだから、僕からすればカスなのだ。


魔法があれば、力の増長があれば、それは見なければならないものを無視する結果になる。


だから王政が、上と下をつくるそれに説得力を持たせてしまう。


私の主人、アイナナのお父様は、別に馬鹿ではない。


むしろ頭はいい。


けれど産業の発展に対するまともな目を持てと言うのは、難しかった。


誰だって知らぬ物、未知なるものには恐怖心を抱く。


だから無視して、自然の破壊がようやく人の喉に突き刺さるまで放置するか、それとも否定して偏屈するか。


社会が行えるのはその二つしかない。


そして社会に対してある程度俯瞰が行えるようになると、結果的に男女差別や生まれの格差、教育格差などがようやく目につく。


それが我々の、地球の社会であって、別にこの異世界が同様の道をゆくとは言えないのだけど。


(しかし人は人なのだ。障害者だろうが病人だろうが赤ん坊だろうが記憶喪失だろうが!)


ある程度画一化を促す教育を受ける人間なら、結果的に行き着く先は、進める道は限られてしまうのだった。


「おはよう」


「……おはよう」


アイナナの、遅れた返事に私は何かを手放したような寂しさを覚えてしまう。


それは、私が私だから、逃してしまったのだろうか。


本当に寂しさを感じているのは彼女なのに、私はその気持ちを汲むことはしてあげられない。










考え事をする時間が増えた。


それは脳が慣れてきたのもあるだろうが、使う必要性が出てきたことにある。


介護ばかりの生活から飛び出したから、脳に役割が持たれたのだ。


性懲りも無くグルグルと頭を回し、出した結論にまた頭を使う。


そう、その方向性を、私という人間は今まさに、アイナナのために使っている。


今まで他人に興味がない、否定したい、嫌悪している、つまり少なくとも是とはならぬ構え方で他人を見つめていたのだから、私は他人の気持ちを汲むことはなかった。


が、けれどアイナナは、私を私としてみてくれる、初めての人間であるのだから、親愛なる感情が湧いてくる。


つまり興味がある。


だから珍しく名前だって覚えることができたわけだし、どういう人間かも記憶している。


アイナナは、レンガを投げる人、当たった私、その一連の流れを見て涙を、悲しみを露わにした。


前提条件として、あそこは被害を1番に負った所で、だから人は生活できそうになかった。


そこに当主としての負い目を感じたのだろうか、だから感情が溢れ出して泣いたのだろうか。


それともレンガを投げたことに、だろうか。


民が人に殺意を、激情を向ける。


それは統治ができていない証拠なのだから、そういう人としての義務感に押しつぶされたのか。


そして私がレンガに当たり、頭から血が出た。


痛覚というのがわからないから、頭が熱いぐらいにしか感じていなかったのだけれどね。


そう、多分、自惚れではなくて、これこそがアイナナが泣いた理由なのだろう。


なぜ、なぜ、何故なのか。


何ゆえ、何故、なぜなのか。


私に価値を、彼女は見出したのだろうか。


どこに、何処へ。


私は、彼女の瞳が私を映してくれたから、親愛なる隣人として扱ってある。


彼女は、私に何をみたのだろう。


それは思考だけではわからないし、第一分かろうが、それは失礼にあたるのだった。









「私が、あなたに抱く感情?」


「はい」


だから本人に聞く。


恐れあろうがなかろうが、これが私の行動で、それをしたいと願ったのだから、私には正解以外の何者でもないのだ。


「……わからない。すくなくとも、恋ではないことだけは、わかるけど」


「私を拾ってくれて、何ヶ月か経って、それはもう直ぐ一年という言葉で表される」


だから、変化はあるのだ、ならねばならぬのだ。


「私は、貴方が好きだ。恋ではなく、親愛として。人として、隣人として、友達として、親友として」


だから、私は貴方のそばにいたい、たまに離れて、たまに会って、そう、貴方の頭の中にずっと。


「私は、記憶喪失で、ずっと孤独感が私を包んで、逃げて、逃げて、貴方が元についた」


「そう」


「私を作ったのは、貴方だ」


人は他者によって作られる。


人は言語を持たずに産まれ、言葉を教えられてしまう。


名前を、性別を、なにもかも。


他者に影響されずして、人は生まれはしない。


だから自分の人生は自分のものだけではないと、だから感謝して親孝行を、だから憎んで殺し合いを、だから否定したくて閉じこもりを。


表があれば裏を、裏があれば表を存在させる。


そう、私たちは言語で表される、前置式でなく、後置系で。


つまり後付けだ。


そこに確実性はなく、人の存在は常にふわふわと、泡のようにつかみどころのない、無常な存在なのだ。


だから人は救えないし、救われない。


「でもそれだけじゃ、だめなんだ。他者の影響を受けた自己を理解した所で、自己の影響を受けた他者を知らねば、できるのは押し付けだけだから」


「……そう」


彼女は手に持った茶を飲み、空を仰ぐ。


今日は快晴、空の先には青のみが広がり、雑音たるものは一つもない。


無言の中には風の音と、草木が揺れる安らぎだけ。


ここは、人が落ち着くにはいい場所だ。


「私は、貴方のことが好きよ」


風が突き抜ける。


わかっていたのかもしれない。


けれどそれが、疑問から確信に変われば、綺麗な形で捉えられれば、私はそれを自身の中に綺麗にはめるのだ。


「女だがら、というわけでもないけれど、やはり自己を見つめる人は欲しかった。確実に、領主ではなく、私という、ちっぽけな個人を見つめる人を」


しかしそんなものは存在しない。


領主である、それは前提として存在するのだから、来栖クルスだって自己の飼い主として彼女を見つめている。


「でもね、そんなことどうでもいいの」


理屈はある、けれどそれは普遍性を伴わなくて、結局自分にできるのはよくだけを追い求めることだった。


「結局、私は、貴方に幸せでいてほしいだけなのよ。輝かしくなり、我が目の前に存在せしめてくれれば、いいだけ」


互いに眩しいばかりの貴方を見ている。


でも、光っているわけではない。


そう、色が、まるでエメラルドグリーンの海のような、青だと思っていたものが、宝石の色をしていた実際の世界が、驚くように鮮やかだったように、綺麗だと思ったのだ。


世界に唯一の色が、私の脳を支配する。


同時に、周りのものさえ補助される、究極の補色。


それが貴方。


だから私は貴方といれば、世界が輝いて見える。


「初めて会った時、宝石だと思った。宝石のように、光を透過させる、空虚な石だと思った」


あの炎の中で、光の中で、来栖クルスの光は、何者とも違う。


渇望。それが1番当てはまる。


言語に馴染めない、記憶喪失の人間だから、彼が求めるものは欲で、その欲は根源的な、生存欲で、だから都会に馴染めなかった。


彼の脳は望んでいた。草原を走ることを、空腹を満たすことを、思いっきり叫ぶことを。


でもあの場所は将棋を指すことを、何者かであることを強制して、叫ぶことなんてできなかった。


だから来栖クルスは輝いている。


この異世界に来た時、彼は脳で理解したのだ、ここが自然に見た溢れた場所だと。


その時の彼の目こそが宝石で、アイナナは吸い込まれたのだった。






「なんで貴方は働かないんですか?」


「神様から不老不死を授かり、働く意義がないからだ」


そういった男は、次の日死んだ。


日本で、なんとなく仲良くなった、橋の下に住む人の言葉であった。


普遍の、不変なものがないと思い出したのは、そのときだった。


しかし今の私はどうだろうか、変わったのだろうか。


いつも思う、自分のこと。


空の形がいつの間にか変わっていて、木の色が桃色に染まり、その時に私は、ようやく、変化を見る。


けれど、いつ、変わったのだろうか。


昨日だろうか、一昨日だろうか、もしかしたら、変わっていなくて、昔からそのままだったのか。


わからない。


記憶があって、けれどそれは信頼たり得なくて。


親がいて、でも親とは思えなくて。


はっきりと言えるものなんか一つもなかった。


幸せも、苦しみも、今この虚無さえ、言葉で表せることは、言葉で表せるから飲み込めない。


私が産まれた時には日本語なんて知らなくて、英語なんてわからなくて、この世界の言語さえ理解できやしないのだから、言葉は私には不純なのだ。


なのに、私は言葉でしか話せない、言葉でしか表せない。


そう、そうなのだ。


だから私は幸せにはなれない、生きる意味は見出せない、産まれたわけもありはしない、善の全ては知っていない。


それでも、つまりこの世の無根拠を知ってもなお、生きてしまうのは、何故だろうか。


それはきっと、私が人間だからだ。


脳が、昔の、木に上り果実を取っていた祖先の頃から何一つ変わっていないこの頭があるからだ。


私の幸せは、脳だけが知っている。


それは言語で表せないから、私は、幸せを知らず、それらしいものだけで満足するしかないのだ。


「たぶん、ずっと、死にたかったんだと思います」


嫌なぐらい、ここには危険がない。


私を見る目は、まともだということが、濃くわかる。


「でも、死が、その先が、その方法がわからなかったから、死ねなかった」


「今は、どうなの?」


「変わってないと思います。人間なんて、変わらない生き物なので……」


「じゃあ、その時は一緒に居てあげようか?」


「そうですね、その方が、嬉しいです」


「いつになるのかしらね」


「さあ?来年か、もっと先か、それとも明日か」


「今日だったり?」


「かもね」


「そろそろ寝ましょうか」


「ええ、失礼します」


「また明日」


「ええ、また、明日」














今日も眠る。

明日はどうだろうか。


寝て、起きて、また寝る。


その間に食事をする。


この間に遊ぶ。


遊ぶ間に、歩く。


それを億単位で行うから、世の中は回っている。


その回転は止めようがなくて、その向きに乗っかるしかないようで。


自分だけが周りと違うと思っていた。


生まれたことが息苦しくて。


親の名を持つのが重荷に感じて。


学校に行くのが楽しくない。


でも、みんなも違うのだ。


同じことを言っているように見えても、けど違う。


同じなんてあり得なくて、だから噛み合うことなんてなくて、あり得なくて。


完璧なんてありえないから、だから。



人は、絶対に幸せになれない。



誰だって息を止めている。


そのことに気付いたところで、何も変わるわけでもないのだけど。


ただ、目の前の存在が敵に思えるのなら、逃げればいいのだ。


そう、寛容に!


戦う必要はない!


学校なんて行きたくなければ行かなくていい!


勉強なんてしなくていい!


人とコミュニケーションなんて取れなくていい!


ただ、寛容に。


せめて、自分にだけは優しく、寛容に、許してあげてほしい。


社会のレールに乗らずに、生きたっていいと、認めてあげてほしいのだ。


楽しいことをしたいのだから、すればいいのだ。


死にたければ死ねばいい。


生きたければ生きればいい。


死ぬのは、いつだっていいのだから。

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