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「うっ…」

体がめちゃくちゃ痛い。

時々小石か砂?が顔に当たってる。

顔の近くで犬が土掘りでもしてるのだろうか…?


恐る恐る目を開けてみると、薄暗い。

なんだ雨でも降んのかよ。


「ノエル…」


「あ?」


「ノエル」


「…ルイ?」


「どうして」


思い出した!

「いってえ…」


あのクソ男にボコボコにされたんだっけ。

気絶してたか。


「!」


胸元がほんのり温かい事に気がつく。

服の内側に入れていた薬草が反応している。


「…お前魔力あったんだな」


ルイの魔力に反応して薬草が反応したんだ。

ルイに魔力があった事も驚いたが、治癒系って助けたい気持ちがないと反応しないんだ。


「ありがとう」


「ノエルぅ…!えっ、えっ」

「よしよし」


珍しく子供らしい反応を示すルイは可愛かった。

感情を表に出すのは珍しい。

よっぽど怖かったんだな…。

って。


「町、やばくない?」


黒い竜巻が何本も辺りを取り囲み、破壊している。


このままじゃレームの町が壊滅する。


「ルイ、お前が出してんのか?止めろっ」

「…どうすればいいの?」


人々が慌てて避難していく喧騒の中、俺は慌てる。


当のルイは無感情だ。

人が側で吹き飛ばされてるのに、全く表情を動かさない。

さっきまでの可愛いルイはどこいった。


「う〜っ」

頭を抱えてしまう。


逃げ惑う人々の中、見知った顔がいた。


「エリック!?」


「ノエル!?」


ルイのご近所の子供、エリックだった。

エリックは暴風吹き荒れる中、俺たちに向かって叫ぶ。


「ノエル、ルイ、逃げて!ここは危ない!」

「こっちは、大丈夫だ!早く逃げろ!」


エリックは俺の言葉を無視して近付こうとする。

声を出すだけで辛い。

何とか声を絞りだしたのに、伝わってないのか?

辺りは暴風で非常に危険だ。

体重の軽い子供なんて簡単に吹き飛んでしまうだろう。

それ以前にエリックは絶対に死んではならない。

早く二人とも逃さないと。


「…っ!」


俺は立ち上がろうとするが、全身に激痛が走って無理だった。


痛い…!!


眦から涙が伝う。


俺の作った薬草に、大きな回復効果はない。

全然治ってない。

HPが見えてたら赤。絶対瀕死。

一桁。


冗談抜きで本当に死ぬ。


エリックが向かってくる。


どいつもこいつも…!

こうなったらエリックにルイを託すか…!?


「ルイ…!」


「…?」


振り向くとルイの様子がおかしい。

いつのまにか、手を頭上にかざしたまま動かない。

呼吸音が全力疾走した後のように深くて、早い。


「どうした…?」


「ノエル、エリックと、逃げて」


「………」


俺は腐っても貴族の端くれだった。

魔力を感知できる力は、平民になっても未だ備わっているらしい。 


「なんだ…あれ」


頭上を見ると帯重なった幾つもの黒い竜巻が電気を帯び、ルイに覆い被さろうとしていた。


一瞬言葉を失った。


ーーー魔力の暴走。


魔力を持つ者は通常、家族や教師から制御する術を学ぶ。

暴走するリスクがあるからだ。

しかし、例え暴発したとして小さな怪我で終わるのが普通なのだが…。


頭上の、周囲を取り囲む黒く禍々しいものは。

あの大量の魔力はなんだ?


ぶわっと全身から冷や汗が出る。


ものすごい魔力だ。

貴族社会でも見た事がない。

こんなの…人間に出せる量なのか?


「ノエル、っ、逃げ、…」


「!」

ルイはめちゃくちゃ辛そうだ。

「…」

こんな、町を包むほどの暴走。

制御できてる方がおかしい。


「………!!」

時間の問題だろう。


ルイの手の平は裂けて、血が流れ、腕に伝っている。


頭上の魔力が暴発すると命に関わるだろう。


言葉がでなかった。



「ノエル!ルイ!」

「わああぁぁ…………」



視線の端で、無理やり父親に担がれて去っていくエリックを捉える。


「…」


周囲の人々も見当たらない。

あらかた避難はできたのだろう。

未だ竜巻と暴風はなおらない。


どころか、酷くなっている。


風の音しか聞こえない。

むしろ静かに感じるから不思議だ。


「…ノエル!早く逃げて!!」


余裕がなく、怒りの混ざった声でルイは叫んだ。


俺はルイと視線を合わせる。


もしかしたら、俺一人で這い出て逃げる事はできるかもしれない。

けど、そしたらルイはどうなるんだ?


ルイはどうやったってこのまま死ぬだろう。


生き残るためには見捨てるしかない…!

胸が傷んだ。


…俺だって訳のわからないままこんな世界に放り出されて、辛い事ばかりだ。

何で俺だけって、理不尽を感じることはある。


でも、人から助けられて、愛されてた記憶があるから俺は何とか生きている。


本当だったら、この世界のために本来の役割をやらなくちゃダメかも知れない。


それでも俺は生きたい。

マリアが助けてくれたんだ。

与えられた人生がクソだったら逃げる。

自分の道を歩む。

マリアが悲しむような人生は送りたくなかった。

だから、ルイも嫌だったら逃げて良かったんだ。


そして、わかった事がある。

俺は誰かを不幸にするんじゃなくて、誰かを幸せにする人生に憧れていたんだ。


俺みたいに、惨めで可哀想な境遇のまま死なせたくない。そんなのって、あんまりだろ。

俺はそんな奴だからこそ、救いたかったんだな。


「ふ…」

思わず笑みが出た。


「俺はここにいる」

「…!?」


驚愕するルイの顔を見つめる。


「ごめんな、動けないんだ」


実際、気を緩めると意識を失いそうだ。

でも例え動けたとしても動かないだろうな。

「……」

頭がうまく働かない。

せめて、一人にさせたくない。


「だから、絶対、お前のせいじゃないから…」


「守れなくて、ごめん…」


俺はルイの体を守るように抱きしめたが、力が入らずそのまま地面に崩れ落ちた。





「ノエル!?ノエル!?」

突然倒れたノエルを見て全身がヒヤッとする。


「…」


顔色は悪いけど、まだ死んでない。

気絶したんだ。さっきみたいに。


だけど安心できなかった。

黒いモヤモヤが言う事を聞いてくれない。


ノエルのバカ…どうしてエリックと逃げなかったんだよ…。


俺なんか一人で死ねば良かったのに。


死ねたのに…!!


「うっ…うっ…」


このままじゃ、ノエルが…。


「助けて、誰か助けて…」


自然と呟いていた。

誰も助けてくれないとわかっていたのに。


「ノエルを、助けて…」


『おやおや…』


「!!」


気付かなかった。


人程の大きさのカエルの魔物がそこにいた。


驚いて、思わず力を止めてしまった。


あーーー!


『おっと』

『ちゃんとコントロールしてください』


体勢を崩した場所に杖を奮い、魔力を注ぐ。

俺と同じ黒いモヤモヤだ。


しかし魔物はすぐに止めてしまう。


慌てて俺はモヤモヤを放出する。

ズンッと重いモヤモヤが再びのしかかってきた。

苦しいけど、ノエルが巻き込まれるのは嫌だった。


「…ぐっ!!」


痛みは慣れてる筈なのに…!


『素敵な魔力に誘われてみれば…こんな子供だったなんてねぇ』


魔物は耳元で妖しく囁いた。

紫の肌。

コウモリのような翼をはためかせ、上半身は蛙、下半身は鳥獣の異形が、浮遊している。


『ふぅん…』


魔物は俺とノエルをジロジロ見ている。


なんで殺さないんだろう…。

殺す気はないのか…?


「はぁ、はぁ、はぁ」


もう抑えられない。

俺は一縷の望みをかけ魔物に懇願する。


「その人を、助けて…」

「俺はどうなってもいいから…」


魔物は欠けた月のような目をして笑った。


『いいですよお、あなたは良い器になりそうだ』




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