表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

6.お節介③


走ってきたのか、どこからか息をきらしたルイが目の前に現れた。

両手を広げ、ベルドの行く手を阻む。


「はぁ、はぁ」

ルイも威嚇の効果があったようだ。それに抗うようガタガタ震えているが、一歩も引かない。


久しぶりに見たルイは相変わらず小さな体で、口角には殴られたような目新しい傷ができていた。


ルイはベルドに体当たりし、がむしゃらに殴りかかる。


「このクソガキ!邪魔すんじゃねえ!」


ベルドの取り巻きから蹴られるが、すぐに起き上がり、突進する。


その度に殴られ、蹴られるのだが、ルイは諦めなかった。


俺を肩に担いだベルドは、ルイに近づいたかと思うと。

真顔のまま重たい蹴りをルイに叩き込んだ。

蹴りはルイの小さな体にめり込む。


「かはっ、」


胃液を吐きながら、ルイは倒れ込む。


「…ルイ…っ!」


駆けつけてやりたいが、体が動かない。

顔を少し上げ、声を絞り出すのがやっとだ。


「うぐえっ、っは、げえっ」


ルイは酷く苦しそうだ。


「行くぞ」


ベルドは取り巻きに向かってそう言った。


「……うわああぁ!」


えづいていたルイが、隙をついてベルドの足に噛みついた。


「…このガキ!」


振り下ろした素早い拳が頬にめり込み、傍に歯が数本転がった。


「……!」

俺は思わず顔を背けた。


「仕事の邪魔までするとはね………ぶっ殺す」


怒りを露わにした男から殺意のようなものを感じ、ビリビリと鳥肌が立つ。

ベルドの言葉は本気だろう。

 

「や…や…やめろー!!」


なんとか気合いで声を張り上げた。


「はぁはぁ」


声を上げただけなのに、酷く息切れがする。


威嚇の効果が切れたのか、体に力が戻ってくる。

肩から滑りおち、ドサっと床に尻餅をついた。


すかさず声を張り上げた。


「…わかった!言うことは聞く」


「だからアイツに手を出すな…頼む」


俺はベルドに懇願する。


「どっちが親かわかんなえな」

仲間の一人に言われ「けっ」と地面に唾をはく。


「おい!そのツラもう見せんじゃねえぞ!」

床にうつ伏せているルイに怒気を荒げた。

「おっかねえ〜」

「どうせ俺の子じゃねえ。馴染みの売女が寄越してきやがっただけだ!汚ねえし気味悪いし、見てやっただけ感謝して欲しいくらいさ!」


縛り付けられたルイは頭から血を流して動かない。


「おい、さっさと立て」


俺は威圧が残る身体で少しふらつきながら、黙ってベルド達についていく。


「…」

力が出ない。


ガタガタ体が震える。


…さ、最悪だ。

勢いで助けちまった。


俺は魔力も腕力もない。

王に侍り、他人の前で恥ずかしげもなく醜態を晒し、主人公とヒーローの愛を深める噛ませ犬。


国の崩壊に加担し、破滅の道を歩ませる人物。


その道は短く暗い、一本道。


本来ならその役割をまっとうしなくちゃならないのだろう。

でも。

俺は自分の命が可愛くて、役割を拒絶して、ここまで生きてきた。


マリア…。


ふっと彼女の顔が浮かんだ。


流れるような銀髪が、春風にそっと揺れる。

肩までかかる紫がかった銀髪。透き通るような肌。美しい顔。華奢な身体。

優しい眼差しの紫。


記憶の中のマリアは常に微笑んでいる。

16歳で永遠に時が止まってしまった眩い少女。

家族で唯一俺に優しい、自慢の姉だった。


同じ色が好きだった。

辛い時も、生きる力を与えてくれた、俺を生かしてくれた、大事なもの。


『マリアは死んでなかった!!』


アーノルドと初めて会った時。

奴の様子は既に異常だった。


あの男は将来、間違いなく魔族の手をとり、世界を滅ぼすため動く。


結局、俺はマリアの代わりになれない。

俺ではアーノルド王を止められなかった。


アラン王子は父アーノルドを幽閉し、俺は王を唆した罪で処刑される。

燃える炎の中、処刑される直前まで充血した目と、傷だらけの体で、狂ったように笑い続けた女。


「……ああ」


咄嗟にこうなっちまった…。

バカだ。俺。

せっかく違う人生を生きるチャンスだったのに。

所詮俺は傾国の悪女、妾のマリア。

俺は再び彼女の名を汚してしまうのか。


「くそっ…!」


何で涙が出るんだろう。


両手を握りしめるが、震えは治らない。

どうしよう。

怖い。

怖い…。


俺は馬車に押し込まれる。

俺は俯き、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ