4.お節介
目が覚めると子どもの姿はなかった。
パンとスープはなくなっていた。
部屋をざっと見ても盗まれたり壊されてるものもない。
まあ、物はほとんどないけどね。
木桶に突っ込んでいたボロ布はなくなっていて、代わりに貸していた服が入っている。
俺は、服の内側に縫い付けてあるポケットから薬草を取り出す。
薬草も無事だ。
良かった。
ひとまず裏切られていない事に心底ホッとする。
俺は軽く背伸びをする。
「仕事行くか〜…」
軽く支度を済ませ、家を出る。
またいつもの毎日が始まる。
◇◇◇
一度目につくと気になるもので…。
俺は何度か殴られては動けなくなったあの子供を手当し、食べ物をわけていた。
俺は悪くない。
何度も同じ目にあってるあいつが悪いと思う。
結局気になって、お節介をかけてしまう。
「お兄ちゃん、またあの子助けるの?」
近所の子供に恐々言われてしまうと、少し考えてしまう。
「…エリック、たまにはルイと遊んでやれよ」
「いやだ!」
エリックは逃げた。
あいつ…ルイは友達がいない。
いつも傷だらけ。服もボロボロで臭い。
教養はないし、字も読めない。
食べ方は汚い。
盗みもするし、人を殴ったりもする。
確かにそんな奴誰だって嫌だ。
「…知らないだけなんだよな」
町の外れ。
薬草を採取するため、籠を背負って目を凝らす。
そんなとき、遠くで暗い表情のルイをみかけた。
「おーい、ルイー」
手を降ると、すぐに気が付いてくれた。
「…なんでここにいるんだよ」
「それはこっちのセリフ」
「…」
感情表現がわかりにくいから、誤解されがちなんだよな。
「魔物がたまに出るから危ないぞ」
ここは町の外れなので魔物がでる。
実際遭遇して、ダッシュで逃げた事がある。
「雑魚だし」
「…あそう」
薄々思ってたけど、町の子ども達にとってここの魔物は害虫位の感覚らしい。
自分の弱さに少し泣けた。
「あ、おい。来てみろ」
俺が手招きすると、ルイはゆっくりと近づいてきた。
「これが薬草。魔力がなくたってこれをこうやって手で揉んで…傷口に擦り付けるだけでも治りが良くなるから覚えとけ」
「…うん」
「ここはたまに薬草が生えてるんだ。おっと…内緒にしとけよ?」
うっかり口が滑ってしまったが、問題ないだろう。
ルイはこう見えて約束したら守ってくれる。
案外真面目な性格をしてる事が、だんだんわかってきた。
「似た毒草はたくさんある。薬草だけの特徴を覚えたい方が早い。色は濃い緑で、葉っぱは根本から…」
唐突に始まった俺の薬草講義に、ルイは注意深く耳を傾けている。
ルイは頭も悪くない。
体が小さかったので、もっと小さい子だと思っていたが、今は8歳位らしい。
教えたことはスポンジのように吸収していくので、今教えた事もすぐに覚えるだろう。
知識欲もなかなかだ。
そんな子だと言うのに、
必要な物があれば盗む。
うるさく言う奴は殴る。
さも当然と聞かされたときは、頭を抱えた。
悪評もここに繋がるようだ。
「…ほら、やってみろ」
俺が薬草を手渡すと、同じようにすり潰し、傷に塗る。
「! 痛みがひいた」
「すごいだろ」
ケガしたときは、こうやって治すんだぞ。
俺だってずっとここにいられるとは思っていない。
この4年間、何度もそうやって生きてきた。
人に裏切られる事もあったけど、人の善意で命を繋いでこれた。
薬草の知識まで教えるなんて。
すっかり同情してるのはわかってる。
でも、できるだけ何かしてやりたかった。
俺がしてあげられることは少ないけど。
めげないで欲しい。