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悪あがき  作者: ぐり
1/1

 子供に振り回されながらも落ち着いた生活をしていると、ひょんな事からマイホームのチャンスが巡って来た。

「前の土地に家を建てて住んだらいいんじゃないか?」


 本心は複雑だ。確かに両親 特に母親 が近くに居てくれれば助かる。でも、父親の本心は溺愛している姉と近くに住みたいと思っていると思っていた。

 トントン拍子に話が進み、あっという間に工事が始まった。


 忙しい工事期間が終わり、生活も落ち着いて来た頃、お茶を飲みながら母がポツンと言った。

「どうしても、茉莉と同じ敷地には住めない」

「なんで?」

 母は暫く考えてから、

「勘みたいなものって言ったら良いのか。どう言ったら良いか分からないけど。近くに住むなら亜紀が良いって思っただけよ」

 答えを聞いてもさっぱり訳が分からない。



「実はね、金・土・日と健と梨香を預かる事になったんだけど」

 突然姉から頼まれたらしい。理由は言わずに兎に角お願いされてしまい。

 毎度の事で父が請け負ってしまったらしい。

 両親にお願いと言っても、結局子供同士で一緒にいるので私の家で寝起きする事になる。

 母が手伝ってくれるし、甥っ子・姪っ子はやっぱり可愛い。四人の子供がきゃいきゃい騒いでいるのを見ているのも楽しいから、別にいいんだけどね。


 子供たちに夕食を食べさせて、片づけをしていると夫が私を呼ぶ。

 夫は兎に角、カメラ・ビデオで子供たちを撮影するのが大好きだ。今も先日の運動会の写真を綺麗に整理している。

「これ。いいだろう。いい表情だよな」

 夫の寄こした写真には、目一杯口を開けて、我が子を応援する私の顔が。

「すごく一生懸命で、必死で生き生きしていて、良い写真だ」

 どうやら、嫌味では無いらしいので良しとしましょう。

「で、これ。この写真」 

 次に差し出したのは、姉の写真。別に何時も通りの姉が写っている。

「これさ、健がリレーのアンカーで走っている時の写真なんだけど」

 そう言いながら、私の写真と並べる。

「必死に走っている子供を応援する親って考えると、こっちの方が自然かなって気がしない?」

 そう言って、今度はアルバムを開き始める。

「でさ、今までの写真も見直してみると、お義姉さんの写っているのってほとんどが同じ表情なんだよ」

 言われて見直すと、その通り。

「唯一、違う表情なのがこの一枚」

「これは…確か」

 その写真は敬老の日か何かで、皆でご飯を食べに行った時の写真。

「確か、健がジュース溢しちゃった時だよね」

 そこには、微かに眉を潜めている姉の顔。

「亜紀だったら、翔がジュースこぼしたらどうする?」

「そりゃぁ…」

 多分ね。テーブルの上を吹きながら、怒るかな。

「私は姉さんじゃないから、怒ると思う。テーブル拭きながら怒る」

「だろう?この時、義兄さんが怒っていて、亜紀が一生懸命テーブル拭いたり、おしぼり貰って来たりしてたんだよ」

「あぁ。茉莉は昔からそう。自分からは絶対に動かないからね」

 ビールとグラスを持って来ながら母が言った。そして、写真を手にとって。

「この表情なんだろうね」

 後は何も言わずに写真を置くと、今度は私の方の写真を手にとって。

「こりゃぁ。傑作だわ。被写体に対する愛情が感じられる」

 などど、笑っていた。

 姉の「ちょっと困った表情」は実に良く効く。そのお陰かどうかは分からないが、姉の怒った表情と言うのを見た事がない。

 姉の表情を見た父にしこたま怒られた記憶はある。普段は怒らない父が一度だけ私に激怒した理由は覚えていない。


 頻繁に行き来をしている状態だったので、

「二世帯にしても良かったかもね」

 と言うと、その計画もあったらしい事が分かった。

 毎度の事ながら、娘の顔見たさに畑の行き帰りに姉の家に寄る父が、二世帯の計画を話したらしい。

 二世帯住宅になったら自分の実家が無くなるようで寂しい。父と母の家は今のままで暮らしていて欲しい。

 姉はそう言ったらしい。

「二世帯になんてなったら、気軽に子供を預けられなくなると思ったんでしょう」


 土曜日、父から提案があり、日曜日の午前中に畑で皆で収穫した後バーベキューをする事になった。

「ねえ亜紀。ピーリングって何?」

 バーベキューの買い物の相談をしていた時に母が唐突に聞いてきた。

「え~。良く分からないけど、たしか皺とかが無くなるやつじゃなかったっけ?」

「実はね、茉莉それをやったらしいのよ」

「………」

「それで、子供を預かって欲しかったんだって」

「この間も、歯のホワイトニングしたばっかりだよね?」

「あ~、あれは亜紀の歯が白くて羨ましいって言ってやったのよ」

 姉に羨ましがられる部分があった事にまず驚いた。


 昔、東京に遊びに行った時にスカウトされた事を思い出した。

「そう言えばさ、昔芸能界にスカウトされたよね」

「ん~~~。ああ、茉莉ね。そう言えばあったわね」

「どうして断ったんだっけ?」

「茉莉がね。芸能界に行ったら私より綺麗な子は沢山いるから嫌だって言ったのよ」

 姉は華やかな世界よりも、片田舎でも自分が一番に居られる場所を選んだって事かな?


そんな私の物思いを余所に母は続ける。

「本当に、結婚して子供までいるのに、何を考えているんだか…」

 それからは、何となく会話が止まってしまい、二人でテレビを見ながら、お茶を飲んでいた。


 日曜日は晴天だった。最低限の悪あがき、日焼け止めだけを塗って子供たちと畑に突入。

 泥だらけになりながら、作物の収穫だか泥遊びだかをしていると、義兄がやってきた。


 姉が一緒に居ないので、どうしたのか尋ねると

「寄る所があるからそれから来るって言っていた」

 答える義兄の表情はちょっと機嫌が悪そうだった。が、それも子供たちと一緒に畑で悪戦苦闘している内に和んでいった。


 そろそろ、帰ろうかという頃になってやってきた姉。そこには…。畑仕事など絶対に出来ないファッション、美容室に行ったのかきちんとセットした髪、しっかりとメイク。

 まるで、ファッション誌の読者モデルのような姿で立っていた。

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