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プロローグ


「ひ、ひっこし……?」


中学二年の体育祭も終わり、家に帰ってきて早々親から告げられたのは、今まで考えたこともない一言だった。


「ちょ、ちょっとまって。いくらなんでも急すぎない? 体育祭から帰ってきてこれって、そんな頭が追い付かないんだけど」


「混乱するのもわかるけど、この家が老朽化で取り壊すことになったらしい。それで、その取り壊しが十二月頃だから、それまでに引っ越ししろとのことだ」


「じゃ、じゃああと半年くらいしかないってこと?」


今日は五月十日。十二月までに引っ越しということは、その一月前の十一月くらいには引っ越しをしておかなければならない。いくらなんでも急すぎにもほどがある。


「そうなるな。とりあえず、学校には俺から話しておくから、友達には自分から話しとけよ」


「あ、ああ、わかった……って、ちょっとまって」


「ん?」


「なんかその口振りから察するに、まるで転校が確定しているみたいな言い方だったんだけど?」


学校には俺から言っておく、友達には自分から伝えろ。それはまるで、この川崎じゃないところへ引っ越すと言っているように聞こえた。


俺が問うと、父は驚いたような顔をした。


「今の話でよくわかったな。感心したぞ」


「いや褒められたいわけじゃなくて、なんでそうなったか聞きたいんだけど」


「それはな、これが理由だ」


言うと、父は自分のスマホの画面をこちらに向けてくる。見てみると、そこに映し出されていたのは、父が少し前から始めたマッチングアプリの画面だった。

我が家の家庭は、父、俺、弟二人といわゆる父子家庭というやつだ。

たしか小学四年か五年生くらいのころに親が離婚して、約四年間くらいこの生活をしてきた。

しかし、父も男だ。もちろん相手は欲しいだろう。そういうことで始めたのがこのマッチングアプリだ。


「少し前から会ってた四川さんっているだろ?

彼女が住んでいるのが湘南の辺りだからそこら辺に引っ越そうかと思ってな」


「相談もなしに勝手に決めたの!? しかも、言っちゃ悪いけど続くかわからない相手のところに引っ越すって、さすがにあり得ないんだけど」


父の色恋を否定するつもりは毛頭ない。しかし、子供である俺や弟たちのこれまで築いてきた関係性とか、友達関係を捨てさせてまで湘南に行かせるとは、さすがに理解ができない。


「それにお前らはいいのかよ。こっちの友達と遊べなくなるんだぞ」


リビングにいる弟二人ーー虎と空に聞く。

この二人は現在小六と小三。それなりに友達付き合いもあるはずだ。ならなおさら否定的な意見を持っていると思う。


「俺はまあ連絡とれるし」

「ぼくも平気だよ」


しかし返ってきたのはそんな言葉だった。

いくらなんでもクレバーすぎませんかね。ちょっとさばさばしているというか、あんまり深く考えてないのかな、と思ってしまうほどだ。


「それに、湘南は海がある。いつでも好きなだけ行けるんだぞ? 夏だってほら、友達と遊んだり、ビーチで水着の人だってたくさんいるんだからさ。どうだ?」


「…………」


ぶっちゃけると、湘南に行くこと事態はそこまで反対ではない。何が嫌だったのかというと、それを相談せず無断で決めたことだ。

こんな大事なこと、先にこっちに言ってくるものなんじゃないのか。そう怒りが積もる。

とはいえ、父も真剣に考えたのだろう。そのお相手の四川さんとも長続きするという自信があっての行動のはずだ。……自信あるんだよな。そう信じたいところではある。

長く思考した結果、俺は口を開いた。


「……わかったよ」


「……え?」


「湘南に引っ越すのでいいよ。虎みたいに、別に連絡とればいいだけだし、とりあえず了承した」


「ありがとう、天馬。悪かったな、勝手に決めて」


「もういいよ、済んだことだし。でもこれからはそういう大事なことはちゃんと先に言ってね、マジで」


「あ、ああ。肝に銘じておく」



ーーーー


衝撃の一言を受けてから、土日と体育祭の祝日を挟んで迎えた火曜日。俺は仲の良い友人たちに事の顛末を伝えた。


「ええー! マジかよ天馬! お前引っ越すの!?」


誰よりも大きな声で驚いたのは、特に仲のいい友人、安部孝太だ。みんなに呼ばれてるあだ名は安部ちゃん。天パが特徴のいいやつ。

こいつとは小学校から仲がよくて、よくカードゲームで競いあっていた。しかし、ほとんどが俺の勝ち星ではあったが。


「いつくらいに?」


今聞いてきたのは同じく小学校から仲がいい、身長がやけに高いノッポの緒川海だ。安部ちゃんと同じく、カードゲームで競いあっていて、安部ちゃんよりも強く、デッキにもよるが俺と同じかそれ以上の強さを持っていて、よく接戦を繰り広げていたのを思い出す。


「だいたい半年後」


「おい天馬~。そういうのは俺に一番に教えてくれよ~」


俺の両肩を掴みながらそう嘆くのは、幼稚園からの腐れ縁の小西春だ。こいつもカードゲームで……というか、小学校からの友人のほとんどはカードゲームで仲良くなったりしていたな。

放課後にはすぐに遊び場にいって、カードゲームやったり、ゲームしたり漫画読んだり、最後にはドッヂボールや鬼ごっこをしてその日を終えていた。俺の輝かしい少年時代をこのメンバー含めたくさんの人と過ごせていたのは、幸せだったなと思う。


「わるいわるい、どうせならみんなに一斉に言ったほうが早いかと思ってさ」


「へえ、ならあの黒歴史ともおさらば出きるじゃん」


「うっせえよ海。もういいだろあれは」


「天馬は黒歴史多いもんなあ」


「そうだなあ。でも海が言ってるのってあれでしょ? あの最近焼けたことで有名な……」


「おい、安部ちゃん、春。お前らまで乗るんじゃない」


これ以上話が脱線しては面倒だし、何よりあんまりしたくない話なので、ツッコミを入れて路線変更をする。


「そうだ、今度他のやつらも連れてどっか遊び行こうぜ。いつぞやのよみおくりランドとかさ」


「おお~! いいね!」


「天馬にしては名案だな」


「どうせならカラオケとかも行ってパーティーやろうぜ」


最初はみんな驚いてはいたが、結局のところお祭り騒ぎで送ってくれるらしい。なんだかんだ騒がしくなってしまったが、やはり、持つべきものは友だな。彼女とか作らねえ。


そう決意していると、ガラガラガラとドアの開く音が聞こえ、


「はーいみんな席についてー」


と、ドアを開けた先生は開口一番それを言い、同じ教室だというのに、「それじゃ」と言い合って俺たちは各々の席に座った。




はい。どうもです。

あらすじの通り、わたくしの実話をもとに描かせていただきます。

よろしくどうぞ。

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