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第四話『起承転結の結』 魔刃

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第四話『起承転結の結』 魔刃


 スラリと並べられた片手剣。『鉈のような』というジャンのリクエストに応じた曲剣が多くみられる。


「これは何だ」

「サクスだな」


 アルマン人の中には、斧ではなく、この剣を持つことが成人の証とされる部族があったという。聖征の時代のころまでは、剣と鉈を兼ね備えた武器として兵士に使われていた伝統的な剣。


 しかし、切っ先が直線であり、切裂くには不向きな形をしている。恐らく、製鉄技術が低いか、青銅の剣の時代のデザインなのだろう、切っ先が直角三角の形をしており、刺突には向いている。


「これでは、魔力で『斬る』のに不向きだ」


 剣の反りというのは、切裂く際に点ではなく面でとらえられることで斬撃性能が増す事に加え、折れにくくなること、馬上での扱いが直剣に勝ることなどが利点としてあげられる。


 数を揃えるには直剣を鋳型で作り、その後鍛造して強くするという方法もないではないが、曲剣は板を叩いて伸ばしながら形を整えるので手間が掛かる。


「そうすると、この辺りか」

「サラセンの剣?」


 ジャンヌが思うのも無理はない。騎兵の剣は曲剣が多く、物語の挿絵に出てくる悪いサラセン人は曲剣、正義の聖騎士は直剣を持っているものなのだ。


「こいつはファルシオン。サクスを元に、サラセンの曲剣を真似て作った剣だが、王国製だ。騎士は持たんが、歩兵は肉切り包丁兼用で装備していたりする。これに長柄を加えたものがグレイブだな」

「なるほどな」


 サクスよりは悪くない。が、この剣を持ち歩けば確実に『騎士』やその上の貴族、『傭兵隊長』らに舐められる。それは先々面白いことにはならない。


「オルク、騎士や貴族が見ても舐められない片刃の剣にしようと思う」

「……商売道具だから当然か。兵士扱いされたら、冒険者は幾つ命が

あってもたらんからな」


 傭兵が平時に冒険者の真似事をする事はある。しかしその逆はない。冒険者は一件ごとの依頼だが、傭兵は期間を定めて雇用されるのが一般だ。傭兵は傭兵隊長に雇われ、傭兵隊長が貴族や国王に雇用される。故に、傭兵隊長は貴族の子弟か貴族がほとんどだ。貴族が平民の傭兵隊長の相手をするはずもなく、また、雇われる方もどういう結末になるのか分からない不安がある。小さな部隊なら、その上に貴族出身の傭兵隊長を頂き傘下に加わるということもあるのだが。


 片刃の曲剣。とはいっても、サラセン人の『三日月刀』のように極端に反ったものではない。剣の長さは1mほどで、半ばから切っ先に掛けて緩く反りがあり、三分の一ほどが両刃になっている。


「アンゴルモアって知ってるか」

「聞いたことはある。大原国や大沼国に現れた東方の平原からやって来た大騎馬軍団だろ」

「そうだ。そこの兵士が使っていたとされる剣。こっちじゃ『サブレ』とか

『サブル』と呼ぶな。沼国や原国の騎士は、敵対する相手の騎兵と対抗上、

似たような装備になる。これはその一つだな」


 粗製な模造品を帝国では『ランゲメッサ』という名称で作っていたりもした。


 帝国での修業時代に手に入れた珍しい片刃曲剣。その姿は、今まで見たどの剣よりもジャンの心に文字通り突き刺さっていた。


「これを基本に、もっと分厚い刃にしてくれ」

「だろうな」


 馬上での擦れ違いざまの一刀ではなく、足を止めての斬り合いになれば、この細身の剣では幾合も打ち合わせる事は出来ない。身を厚くし、ティンスライムがより広く展開できるように『樋』を設けることも必要だ。


「ニ三日待ってくれ」

「何日でも待つ」

「何勝手に決めてんのよ。まあいいけど」


 装備の手配を理由に、依頼の延長をすればいいかとミナは皮算用を始める。ジャンとジャンヌと一緒になってから、ずっと依頼を受けっぱなしで少々疲れたという事もある。それに、弓兵であるミナは閉所が苦手でもある。別に地下墓地が怖いってわけじゃないんだからね!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 

 数日を王都での観光と休息に充てた三人は、約束通りオルクの元を訪ねた。すると、意外なことにジャンヌにも何かしら用意したのだという。


「嬢ちゃんにはこれだ」

「……私……ですか?」


 ジャンは「俺のじゃねぇな明らかに」などと呟いている。そこには、帝国の片刃短剣が置かれている。


「ジャンに渡すついでに作ったものだ。これは帝国じゃ農民が採取の時に鉈代わりに使う大きな短剣だ」


『ヴァンベル』と呼ばれる短剣は、40cm程の長さに30㎝の曲刃がついたもので、柄にはガードが備わっており、扱いやすくなっている。


「盾の下でこいつを握って防御と反撃を同時にこなす事も出来なくはない。あの斧を取り落としたり、組みつかれそうなときは役に立つだろう。勿論、鉈としても普通に使える。どうだ?」

「あ、ありがとうオルクさん。大事に使わせていただきます」

「いいんだ、それは消耗品。嬢ちゃんの命を守る為のな」

「……はい……」


 何だか話が終わりそうだったので、「忘れんなよ」とばかりにジャンが話を続ける。


「で」

「そうせかすな。これがお前さんのだ」

「お」

「いいね。ジャン君向きのゴツさだね」


 ミナが成程とうなずき、ジャンも満足そうだ。長さは70cmほど、柄が15cmはあるだろうか。サクスに似た外見だが、切っ先は両刃で軽く反りがある。そして、太い『樋』が通っており、エンドラの展開もスムーズにできそうではある。


 ジャンは握り込んで軽く振り回してみる。ジャンが持てばナイフのように見えるが、ミナやジャンヌならショートソード程度に見えるほどの大きさで『鉈剣』といった風情ではある。


「試し切りするか」

「いいのか」

「ああ。裏に用意させてある」


 中庭らしき場所へと案内される。そこにはジャンヌのウエストほどもある太さの丸木に『メイル』が着せてある。


「斬りつけてみろ」

「エン、頼むぞ――― 人魔一体」

『主様、承りましたです―――魔力(Mage)付与(assig) 仮魔刃剣です』


 ジャンの腕を辿り、白銀のながれが『樋』を通り、やがて切っ先へと回りこんでいく。


「おぅ、目の前で見るのは初めてだが、思っていた以上に馴染むな」

「だろ」


 ゆったりと剣を構え、丸木に向かい軽くスパッと斜めに切り降ろす。


ZUS………ZUZUNN


 丸太はメイルと共に斜めに切裂かれ、ゆっくりと地面に落ち音をたてた。


「どうだ」

「……いいな。多少引っ掛かりを感じたが」

「そりゃ、お前とスライムの魔力が十分にマッチしていないからだろ。その剣のせいじゃない」

『主様、今少し慣れが必要です』


 それはそうかとジャンも納得する。


「これは何て剣なんだ」

「帝国じゃこんな感じの大ナイフを『メッサ』なんて呼ぶんだが、メッサ

風サブレといったところだな」

「長い」

「むぅ」


 ジャンは『サブレでいいか』と宣い、揃いの剣帯を腰に結わいて剣を納め、体を軽く動かし問題が無いかどうかを確認する。


「護拳はこんなものか」

「あまり大きいと、本格的な剣みたいになる。それはお前の望むところじゃないだろう」


 ジャンは『紛い物の騎士』や『傭兵』に間違えられたいわけではない。籠手と兜を見習騎士から奪い、一見そのような風体になったのだが、あくまで良い装備だと思い身に着けただけであり、そうなりたいと願っているわけではない。


 それに、貴族以外の帯剣を禁ずる街や都市もある。その点、このサイズは「ナイフだ」「道具だ」と言い返せるとされている。若干無理があるのだが。傭兵隊が街の外に駐屯する理由も、武装して入場できないからでもある。


「騎士の従者くらいには見える。徒歩で騎士の後をついていくから、軽装だが騎士を護る為の長柄など持っている。今時ならウォーハンマーやウォーアックスでもおかしくはない」

「それでも、あの柄の長さは使いづらい。今回の地下墳墓でも、邪魔にしかならないからな」

「屋内で使うもんではないから仕方ないとは思わんか」

「思わない。早く柄を伸ばせ」

「まてまて、魔力を纏わせるための専用の柄を用意する必要がある。今は叛乱の影響でものが集まってこない。まして、魔装の素材はかなり難しい」


 土夫のいいたいことはよくわかる。並の武器でさえ敗戦・叛乱で不足しているのだろう。さらに、魔力持ちの欲しがる武具なら、素材からなにから価格も高騰し手に入りにくくなっているのだろう。


「王国だとどの辺で採取できるんだ」


 ジャンは、依頼として受けて採取してくるのも悪くないのではと思う。


「近くではないが、レンヌかノーブルじゃな」

「「遠い」」

「だな」


 レンヌは公爵家が後嗣なく断絶し、その傍流が王国側連合王国側にそれぞれ別れて二十年近く争っている。どっちか死ぬのが先なのではなどと揶揄されている。


 ノーブルは南都のさらに東、大山脈の西端にあたる山岳地帯だ。距離はさらに遠く、また、政情的にも王都周辺以上に微妙だと聞く。王国よりも帝国の影響力が強いであるとか、未だに異端の信者が多いいなどと耳にする。


「どっちがいいかな」


 ジャンの呟きに、ミナがのっかる。


「どっちもどっちだけど、王都の冒険者ギルドなら、レンヌへの依頼があるかもしれないわね。ついでに採取してくるというのなら、見つけられなくても無駄足にならない」

「流石先輩冒険者」

「あ、確かレンヌは珍しい薬草もみつかるんですよ」


 オルクが、ティンスライムならと言葉を重ねる。


「それと、錫が取れるからな。エンドラだっけか。少し与えた方が良いかもしれんな。全く使いべりしないわけでもなかろう」


 斬ればスライムの体の一部も削れてしまっているはずだという。そのままではエンドラがドンドン小さくなってしまいかねない。


『主様、お心遣い嬉しいです』

『ふん、テルも薬草食べに行く!』


 スライム的にもレンヌは魅力があるようだ。とはいえ、一先ず受けた依頼を多少なりともクリアする必要がある。失敗では査定に響くからだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 結果として、聖母騎士団の『スケルトン退治』の依頼は、地下墳墓よりも簡単に済ませることができた。


「楽勝だったな」

「そうね。慣れかしらね」

「もう、骨を叩き潰すの嫌」


 骨粉舞う狭い納骨堂で三人で討伐するのは難儀であった。地下よりは多少マシとはいえ、埃と黴の臭いは変わらない。そして、骨粉が舞うのが良く見えた分、息苦しく感じもした。


「もう二度としたくないのは同感だ」

「聖職者にきちんと浄化してもらえばいいのにね」


 聖母騎士団は教皇直下の独立した組織であり、王国の教区からも当然独立している。騎士団付きの聖職者は当然いるものの、聖職者としての力には少々疑問がある人間が少なくない。


 王国も南部であればサラセンとの戦いの前線に近く、それなりの人材が当てられるのだが、平和な王都には実家の爵位が高いが能力はそれなりの人物が充てられている。


 本来であれば、冒険者ギルドにスケルトンとはいえ下位の魔物・アンデッド討伐を外注するというのは、外聞が良くない。おかげで、口止め料込みでそれなりの報酬を受け取ることができた。


 そして……


「次の依頼か。どうするリーダー」


 ジャンはしれっとミナを「リーダー」と呼んだ。年齢的にも経験的にもミナが長じているのだが、女二人に男一人なら、ジャンがパーティ-リーダーでもおかしくはない。女が仕切っていると舐められるということもある。


「いや、ジャン隊長」

「……隊長とか、ぜっんぜんにあわないよ!」

「うるさい」


 ミナ曰く、この依頼達成で、ジャンも星三、ジャンヌも星一の冒険者に昇格するのだという。


「聞いてねぇな」

「あくまでも内示だからね。知って張り切って死なれたら困るでしょ?」


 もう直ぐ昇格だと無理をして死ぬ冒険者は少なくないのだという。それに、貴族夫人の避難成功で夫人の父親からの推薦、また、ドルイダスとその監視役を撃破した件も王太子殿下の侍従から評価を受けた故の昇格であるという。


「それとさ、この後、冒険者ギルドに行って、次の依頼の件でギルマスから相談があるんだよね多分」


 すでに、聖母騎士団からはロマンデ西部の修道騎士団領にある修道院に発生しているゴブリン討伐の依頼を受けている。加えて、ギルマスから何かあるという事なのだろう。仕事があるのは良いことだと、ジャンとジャンヌはミナとギルドへ向かうのである。


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