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第二話『起承転結の承』 試用

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第二話『起承転結の承』 試用


「これ! いいよな!!」

「じゃろう」


 魔力を纏った鶴嘴(ピック)の先端が、深々と兜の側面を穿ち、中身をまき散らしながら引き裂くように振り切られる。独楽のように二回転三回転した人の亡骸が崩れ落ちるように地面へと沈む。


 街道に出た連合王国の兵士か傭兵ズレか、鉄帽子をベク・ド・コルバンで魔力を纏わせ引っぱたくように穿つ打撃に、ジャンは今までとは違う感覚を味わっていた。


 魔物相手であれば、長い刃を持つグレイブはそれなりに有効であった。柄の分、剣より遠間で斬れることが有利であったからだ。ところが、鎖帷子や鉄帽子(ケルトハット)を被った兵士にはグレイブの斬撃は効果が低かった。キルト地の布鎧でも簡単に切断するというのは難しくなる。血脂で斬れなくなるからだ。


「戦槌や戦鶴嘴は斬味が落ちても、なんとかなるでな」

「ホント。魔力まで纏えるなら、何でもヤレそうだな」


 ニ三人に囲まれれば、苦戦必至の兵士相手に、一撃で粉砕する魔力を纏った戦槌の攻撃で、あっという間に十数人の兵士どもを倒し、後は蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまった。


 土夫用の戦槌は、ジャンにとってはかなり使い勝手がよろしくない。短いので、片手用としては長く、両手用としてはかなり足らない。


「柄が短すぎる」

「我慢せい! 直さぬとは言うておらんじゃろ」


 自分の作った魔戦槌に感激する姿は魔鍛冶師冥利につきるというものの、ジャンは鍛冶師故にそれなりに武具に対して注文が細かいのだ。


「この(ガード)は最高だがな」

「そうじゃろ」

「柄が短い」

「だから!!」


 鍛冶師の先達に対して、ジャンは言いたい放題である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 農民の叛乱は既に鎮圧されつつあった。不意を突いた勢い任せの暴徒は、体勢を立て直した王太子側の騎士を中心とする部隊に次々と撃破されていった。王都においても、王太子を傀儡とするために行動した市長らが叛徒と手を組もうとして同調した結果、同じように討伐されようとしていると聞く。


「そんな最中に、王都へ行かねぇと駄目なのかよ」

「まあの。儂と、ほれ、このギルド証があれば問題ない」


 土夫が見せたのは『魔鍛冶師』の紋章の入ったギルド証。様々な武具鍛冶師の称号があるものの、中でも『魔鍛冶』は別格の扱いとなる。魔力を有する者の多くは貴族であり、その貴族を貴族たらしめるのは魔力を纏う事ができる『魔銀』の装備だ。


 魔銀や魔鉛の扱いは非常に難しく、剣や鎧の形にすることは相応の魔力を有した鍛冶師にしかできない。ギルドに所属する多くの鍛冶師は魔力を持たないか非常に少ない量を有するに過ぎない。


魔鍛冶師(マギ・シュミット)』と称される帝国を中心とする武具鍛冶師の多くは魔力を多く有する『土夫』であり、その領域から出ることはかなり珍しい。武具の先進地域である法国に向かうならともかく、王国北部へと足を運ぶことは滅多にない。


「つまり、賓客ってわけね」

「戦争中だからな。大負けした王国軍を立て直すために、騎士も馬も武具も大いに足らない。王都で仕事をしてほしいって、王家からの依頼だ」

「なるほど。で、あんなところで捕まっていたわけだな」

「間抜けだよね」

「やかましい、小娘」


 強面の髭達磨に、最初こそ距離を置いていたジャンヌだが、今では気安い雰囲気となっている。一つは、ジャンヌの『羊飼いの斧』をオルクがひと手間加えて、より効果的な装備にしたこと、それに加え『斧術』を教えてくれたことで、師弟的関係になったことに起因する。


 とはいえ、ジャンヌより頭一つ背の低い土夫の両手用戦斧の操法と、ジャンヌのそれではかなり違うのだが。


 勿論、ジャンにベク・ド・(Bec De)コルバン( Corbin)の操法を教えてはいる。だが、剣の延長線上で魔物相手に叩き切ってきたジャンと、板金鎧や鎖帷子を貫く刺突や打突を旨とする土夫の操法では噛み合わない事もしばしばだ。


「あのな、一対多数の時は、一撃で止めを刺すような打撃より、受け流して態勢を整える往なしの方が重要なんだよ」

「魔力を纏った打突なら並の相手をするなら一撃必殺!! 受け流す必要など全く必要無いわい」


 と平行線なのだ。魔物に囲まれないように速度と往なしを重視しするジャン。魔物は余程でなければ一度戦い始めれば逃げ出す事はない。相手が多数ならば多少の手傷くらいでは却って勢いづくことになる。


 人間の場合はそうではない。軽い手傷でも戦意喪失することもあるし、その手前で装備が整った相手なら全く傷を負わせることができない場合もある。なので、ジャンの魔物相手の戦い方と、オルクの話す戦場での戦いでは武器の違い以上に噛み合わないこともある。


「端的に言って、今のご時世、冒険者ギルドに純粋な冒険者の依頼は恐らく少ない。『傭兵』に近い依頼ばかりじゃろ。グレイブじゃ、その時に足元を見られる」

「それはわかる」


 グレイブは連合王国の『ビル』と同様、農作業用の鎌が元になっている歩兵用の長柄装備だ。徴兵された兵士の持ち物と言ってもいい。家にある鉈や鎌の柄を長くして一見槍のように見える武器に替えたものだ。故に、戦力としての評価も低い。


 ヴォージェのような断ち割る能力のある矛槍ならともかく、グレイブでは板金鎧の騎士を倒す事はかなり困難だ。


「そのグレイブも魔力を纏えるように儂が王都で弄ってやっても良い」

「本当か」

「その代わり、儂の武具の試用をするんだ。まずは、この槌矛の使い勝手を良く教えるんじゃ」

「そうか。人間相手だと土夫仕様じゃ文句も出るだろうしな」

「その通り。魔力を纏える貴族以外の戦士というのは、大概傭兵の上の方にいる奴か騎士の従者になっている。頼める相手じゃない」


 ジャンが思う以上に『魔鍛冶師』の土夫親方にとって、価値のある出会いであったのだろう。


「それで、これが私の分……ね」


 ミナが手にするのは『ホーズマンズ・ピック』と呼ばれる馬上用の戦鶴嘴。鎧の上から力任せに叩きつけ、メイルでもプレートでも貫通する振り回す弓銃の矢と言ったところだ。


「これなら、腰に下げておいてもショートソードと変わらん。それにだ、魔銀の剣でなければ倒せないアンデッドどもも、その魔鉛合金製のウォーピックなら、魔力を纏わせてれば実体の不確かな者も倒せ、そうでなくとも骨を砕けるから、スケルトンなら倒すのも容易だな」


 弓銃に片手剣を扱うミナには片手戦鶴嘴の試用をオルクは依頼したのだ。


「弓銃のメンテナンス、間違いなくやれるんでしょうね」

「勿論じゃ。道具を据え付ければ、その……」

「解った。皆迄言わなくていい」


 土夫の言葉を遮るようにミナは言いきる。ジャンもジャンヌも特別な仕様の弓銃であるから、腕利きの武具師である目の前の土夫に頼むのは当然だと理解している。


「それと、嬢ちゃんには『盾』も扱えるようになってもらいたいな」


 嬢ちゃんと言われるのはミナではなくジャンヌ。


「杖持って盾も持つなんて無理」

「持たないで良いのもある。あー これじゃな」


 魔法袋から取り出したのは、『タージェ』と呼ばれる弓兵や軽装の歩兵が持つ簡素なラウンド・シールドだ。革紐が何本か結いつけられていて、肩に掛けたり、背中に廻したり、腕を通したりすることができる。


「こんなの腕を通したら、盾ごと腕を圧し折られそう」

「使い方を学ばねばな。盾は身を守るだけでなく、相手の視線を遮る効果もある。この盾は、受けるより躱す為の盾だと言えるな」


 金属で補強はされているものの、木と革で作られている軽い盾だ。矢を防ぐくらいは出来そうだが、何度も剣や斧を叩きつけられればあっという間に腕ごと砕かれてしまうに違いない。


「逃げる手段が増えるのは良い事だね」


 ミナが口を挟んで来る。そもそも、薬師が戦闘に積極的に参加するなんてのはあまり考えたくないとジャンヌ自身も考えている。不意打ちに対する自衛ができれば十分だ。


「お守り代わりに持っておけばいい」

「……使い方はジャンが教えてよね」


 これも『試用』といったところだろうか。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『試用』、ようはお試しなわけだが、ジャンヌはこのタージェが気に入り始めていた。日差しが強ければ日よけに、雨が降れば傘替わり、裏側の収納には一寸した干果実や採取用のナイフを入れておけば、日頃の活動にはこれ1つで十分。座るときに下に敷けば寒さ暑さ除けにもなるクッション替わりになる。


「いいよこれ」

「……そういう使い方をするもん……もんだな。土夫と嬢ちゃんじゃ、違って当然かもしれん」


 おっさん鍛冶師と薬師娘では育って来た環境が全然異なる。


「躱す練習もするんだぞ」

「するする。ゴブリンや狼に襲い掛かられても、これで弾き飛ばして斧で叩けばいいんだもん。噛みつかれたりひっ掻かれないだけでも安心して落ち着いて対処できるから」


 貫頭衣やマントにしがみつかれたりすれば、一気に押し倒されかねない。盾を突き出し、飛び掛かるタイミングを牽制するだけで時間稼ぎにもなる。


「長柄も、突かれたりするなら、こんな感じで弾くんだ」

「解ってるよジャン。練習、つき合ってよね」


 盾を斜め横に構え、盾の湾曲を使って弾くのがセオリーだ。タージェの中心に金属で凸面が形成されているのはそういう意味もある。


「全部金属の方が加工はしやすいが、重くなるしな」

「いいよこれで。十分。それに」


 ジャンヌは「鉄だと冷たいから冷える」と回答が完全に敷物扱いなのであった。




 足の短い土夫に合わせて移動すると、王都に到着するのがいつになるか分からないという事で、見習騎士から奪った馬に土夫を無理やり乗せ、三人は漸く王都へと到着した。


「なんか、雰囲気違うんじゃない?」

「落ち着いているな。あれか、叛乱が終結したとかか」


 所詮は武装農民、完全装備の騎士が数十人でも集まれば、容易に取り囲んで袋叩きとはいかない。油断と分断により不意を突かれた領主とその配下の騎士達が殺傷されたわけだが、五千ばかりの農兵をどこに向かわせるかすら決めることができなかったのだろう。蜂起して目の前の領主たちを殺し、あとは無為に時間を過ごした結果だろう。


「ほれ、あそこから王都に入れる」


 城壁の高さは凡そ10mほどだが、数十メートル間隔で巨大な円塔が配置され、それが延々と伸びているように見て取れる。王都が攻撃されたという話は聞いたことが無いのだが、この巨大な都市を包囲するのにどれほどの戦力が必要となるか、ジャンには想像でき兼ねていた。


「これだけ大きいと、攻めようという気すら失せそうね」

「案外それが目的なのかもね」


 ジャンヌとミナが感嘆を浮かべながら告げる。攻める気すら失せるというのは、案外的を射ているのかもしれない。


 衛兵に訪問理由とギルド証を提示するオルク。どうやら、魔鍛冶師はそれなりに敬意を払われる存在のようで、急ぎ、依頼主である鍛冶師ギルドに遣いが走る。


「これって私たちの依頼じゃないから、ここでお別れでもいいわよね」


 ミナは馬の轡を取ると、オルクに話しかけた。


「そうだな。世話になった」

「おっさん、約束忘れんなよ」

「忘れはせん。嬢ちゃんも、武具で困りごとが有ったら訪ねてくれると嬉しい」

「ありがとうオルクさん。お元気で」


 ジャンに手を借りオルクが馬からよっこらせとばかりに地面へと降り立つ。どこにでもいる馬なら問題ないのだが、この馬はドルイドを護衛していた身分ある見習騎士のもの。討伐には失敗したが、排除に成功し情報も得ることができた。証拠の『乗馬』とともに説明するならば、ギルドでもそれなりの報酬を提示してくれるだろう。


「王太子殿下の御戻りも間近だってよ」


 叛徒を駆逐し、その地域の慰撫を行いながら王太子は様子を伺っている最中であるとも衛兵や街の住人は噂している。どうやら、王都の市長はナバロン『邪悪』王と手を組んでいたとか。


 王家の枝葉ではあるが、小国とはいえ異国の王と手を組むとは、とんだ裏切者であると言えるだろう。つまり、力さえあればどうとでもなると判断したようだが、その力を持ちえなかったと証明されつつあるわけだ。


「王太子殿下の依頼って、どう判断するんだよ。本人いないのに」

「馬鹿ね。代理人がいるに決まっているでしょう。それに、逃げ隠れしてはいないのだから、連絡だってそれほど時間はかからないと思うわ」


 三人は一先ず冒険者ギルドへと足を向けた。




「……また試用かよ」

「なんだそれは」

「こっちの話。けど、ちょっと時間をもらってもいいかしら」


 一先ず冒険者ギルドに到着したミナは、受理した依頼の達成に関して受付で報告をした。調査の報酬金貨一枚と、討伐は部分的な達成として金貨二枚、さらに情報提供という事で金貨一枚の追加報酬を得ることができた。金貨一枚で、庶民なら一年暮らせるほどの収入に相当する。

なので、悪くはない。


 ところが、話の雲行きは少々おかしくなる。ギルド長が直接説明するということで奥へと通された時点でジャンとミナは嫌な予感がしていた。ジャンヌは完全にお上りさん状態で何とも思わなかったようだが。


 王太子殿下からの更なる依頼。一つは、ロマンデで有名な『悪騎士』の調査依頼、これは将来仕官させるための予備調査であるという。そして、今一つは、王都近郊にあるとある施設のアンデッド討伐の依頼であった。


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[一言] お使いからのお使い、解ります。 次のお話がどんなものになるのか、楽しみです。
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