第一話『起承転結の起』 契約
『スライムライダ―』シリーズの続編。『【短編】スライムライダーな俺~いつか伝説の戦士になる所存』の二年後のお話です。一人前の冒険者となったジャンは、『天職』スライムライダーの加護を持つ戦士。薬師であるジャンヌととともに修行の旅を続けています。
『ビギニング』に続く話なので、先に下のリンクから前作をお読みいただいた方がよろしいかと思います。
シャンパーにあるとある廃城塞の『貝殻砦』の地下。倉庫かと思い捜索していたミナとジャンは、檻の中に土夫がいるのを発見し助け出した。
「すまんな」
「困った時はお互い様だ」
「ただってわけじゃないわよね」
「無論だ」
土夫は誇り高い種族だと聞く。助けられっぱなしという事はないだろうとミナは理解しているが、念のためである。
「儂の名はオルク・ファッブロ、見ての通りの土夫だ。魔鍛冶を生業としておる」
「俺はジャン、こっちのは……」
「ミナよ。で、あなた、何でこんなところに捕らえられていたのよ」
「……つまらぬ話よ」
依頼を受け王都へと向かう旅の途中、街道を歩いていると突然、木人に襲われドルイドの元へと引っ立てられたのだという。
「土夫とドルイドは仲悪いもんね」
「何を言う。儂らは精錬の為に『沢山の木を燃料にして使う』……のは、生業なのだからしかたなかろう」
土夫は木々を伐採し薪や炭にする。森を住みかとし、植物の精霊と介するドルイドにとっては天敵のようなものだ。ドルイドの住む森に土夫は近寄らないのは互いの為。顔を合わせれば争いとなる。
「王国にドルイドはいないはずだから油断していたってところね」
「ああ。王都も近いし街道沿いだと思って油断しておった」
「で身ぐるみ剥されたと」
土夫はニヤリと笑い首を横に振る。
「ほれ、この通り、道具も武器も無事だ」
袖なしの上着の内側から、巨大なハンマーやマントの類が取り出される。
「魔法袋ね」
「そうさな。上着の内ポケットの中に縫い込まれている。おかげで、商売道具一式と自分の作った武器にエールの樽迄全部収まっとる」
そういうと、小さめの樽を取り出し、そこから一杯のエールを汲み出す。
「ふぅ、お前さんたちも一杯どうだ」
ジャンとミナはそれより背後で飛び跳ねるスライムが気になっている。ペーテルも当然のこと。
「オッサン」
「オルクと呼べ」
「オルクのおっさん、後ろのスライムは何だ?」
「おお、そうじゃ!! こいつは帝国の鉱山で捕まえた珍しいメタル・スライムの変種だ」
上下にポンポンと跳ねていたのが、声をかけられたタイミングでV字型に変化した。どうやら、感情豊かな魔物なのかもしれない。
『主』
「なんだテル、気になるのか?」
キュア・スライムはブヨブヨとした緑色のスライムで、薬草の香りである。飛び跳ねるスライムは、金属質の光沢で弾力性の高そうな雰囲気がする。
「オルクのおっさんの従魔か」
「いや、そこの皮袋に入れて持ち歩いていたんだ。ドルイドは普通のスライムならともかく、金属のスライムは好まないようでな。そのまま放置された」
スライム・ライダーとしてこのスライムを従魔に加えることができれば、より能力が向上するかもしれない。
「あのよ、いきなりで悪いがそのスライム俺に譲ってくれねぇか」
「むぅ、希少だからといって、金にはならんぞ」
「いや、俺の天職? 加護が、『スライム・ライダー』って、スライム限定のティーマーみたいな職なんだ。それで、今の相棒がこいつだ」
ジャンの背中から足元にボトリとペーテルが落ちる。メタル・スライムが手のひらサイズであるとするなら、ペーテルは土夫が持ち出した小型の樽ほどもあるだろうか。最初からすれば、随分と大きくなったものだ。
「おっ、それ、本当に大丈夫なんだろうな」
「問題ない。テル、おっさんに挨拶してやれ」
『よろしく』
縦横に交互に広がり、挨拶している風のペーテル。土夫は少々考える素振りを見せる。
「因みに、誰からの依頼だい?」
「王都の魔鍛冶ギルドだが、その依頼の主は王太子宮だと聞いておる」
「王太子……殿下ねぇ」
ミナは思案し、一つの提案をする。
「ここにいたドルイドの討伐依頼も王太子殿下からのものでね、逃げられてしまったけど、手に入れた情報は報告しなきゃならないのよ。偵察としては成功、討伐は失敗……けど期限を切られたわけじゃないから、また探すことになるのよ。それで、王都まで護衛してあげるわ。ジャン」
「見習騎士の馬を奪ってある。乗るか?」
「足が短くて騎士の乗馬じゃ足が届かん。送っていくついでに、儂を保護した報酬を王太子から貰おうという事か」
「私はね。ジャンはそのスライムが欲しいんでしょ?」
どうすっかなとばかりに、ジャンは腕を組み顎に手を当てている。その間に、ペーテルはメタル・スライムに近寄り、何やらちょっかいを出しているようで、メタル・スライムが仄かに発光している。
「おう、大丈夫なのか? 光ってるけど」
「何、問題ない。魔力で会話しておるのだろう」
ペーテルの心配をするジャンに、オルクは問題ないとばかりに話を変える。
「よし、王都まで送ってもらおうか。それでだな、スライムは本人の意思次第だ。お前さんについていきたいと言えば、それでいい。が、魔鍛冶師としてはそのボロいグレイブが気に入らん」
「……そうか。まあ、拾い物だからな」
ジャンは、その昔手に入れたゴブリンの上位種の持ち物であることを伝え、自身も鍛冶屋見習なのでそれなりに手入れをしているというが、オルクは『駄目だ駄目だ』とばかりに首を振る。
「そいつは、あまり良い出来ではないが魔鉛を含んでいる素材でできた刃を持っている。なので、魔鉛を使って手入れ也補修をしなければ、本来の能力にはならん。それに、柄も魔力を伝える素材ではないものに替えられているようだな」
黒ずんだ刃だとジャンも思っていたが、魔鉛を加えた魔刃の類であった
とは解っていなかった。
「なら、どうすりゃいい?」
「刃を補修し、魔力を纏えるような柄を付けるとなると金もかかるし、時間もかかる。その間、儂の習作を貸しておく」
「習作?」
魔法袋から引っ張り出したのは、両手持ち用の戦槌かピックの類か。
「こいつは、ベク・ド・コルバン、カラスの嘴って名前の戦槌だ。尖った方で叩きのめせば、板金鎧も穴を穿つだろうし、刃もついておる。穂先もあるので槍のようにも使える。斧の刃が付いたのがヴォージェだとすれば、嘴太の刃が付いた鶴嘴がベク・ド・コルバンだな」
渡されたジャンは、魔力を纏わせてみる。
「おっ、いい感じだな」
「……なかなかやりおるな」
身体強化だけでなく、武器に魔力を纏わせることもジャンはペーテル経由で行っている。なので、ペーテル抜きで纏わせるのは初めてだが経験がないわけではない。それを知らぬオルクは驚いたのだ。
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『主!!』
「どしたテル」
どうやら、ペーテルはメタル・スライムを説得したようだ。
『ナカマ、ナル』
「そうか……どうやら、従魔に加わりたいらしいぞ、おっさんのスライム」
「むぅ……ま、仕方ないのぅ。スライムの従魔とはあまり聞かぬが、そういう加護持ちもいるという事か。よろしくしてやってくれ」
ジャンは腰を下ろして、白銀色に輝くスライムにちか寄っていく。
「なあ、一緒に行かないか?」
手袋を外し、右手を差し出す。
「先ずは、触ってくれ」
『……PYU……』
声ではないが、何か音を発してスライムは魔力を感じたジャンの手へと少しだけ触れる。
「ほら、悪いことは何も無いだろ?」
スライムが魔力をジャンから吸い出すように感じる。ペーテルとの出会いを思い出す。
『イク』
スライムの感情、感覚、意思がジャンに伝わって来る。
「俺はジャン。スライムライダーの天職持ちの冒険者だ」
『ジャン……』
どうやら、スライムは人間の記憶や感情を魔力を摂取することで読み取ることができるようだう。
『ジャン理解。冒険者理解』
「どうだ」
『名前を付ける。従魔になる。毎日魔力をくれる?』
「好きなだけいいぞ。お安い御用だ」
ペーテルと出会った頃より、ぐんと魔力の増えたジャンからすれば、大した問題ではない。
『少し……分かった。名前』
「名前かぁ」
「そうじゃな……」
「おっさん、俺が名付けないと意味無いだろ!! ペーテルの兄弟分ということで……あれ、何だっけ」
御神子の『御遣』となった弟子たちの中で、ペーテルは兄、そして、弟の名前は……
「『御遣』なら、『エンドラ』ね」
ミナが思い出せないジャンの代わりに名を告げる。
「……いま思い出した。知ってたし」
「いいから、さっさと契約しちゃいなさい」
「『御遣』らしくと言う意味をを持つ『エンドラ』の御名を頂く。」
『エンドラ。我が名はエンドラ』
白銀色をしたスライムは、強く輝き一回り大きくなった気がする。そして、ジャンにはエンドラの能力が伝わって来る。
「……『ツィン・スライム』だとよ」
「ツイン、双子って意味じゃないわよね」
「ああ、帝国語で『錫』の事だな」
錫を主な組成とする、金属質のスライム。
錫に近い属性を持ち、銅・鉛を取りこむ事で成長するほか、魔銀・魔鉛・魔水晶・魔石(魔物の体内で形成・成長する魔力の塊)を取りこむ事で、魔力を体内に蓄積し、また、器物の形に変形することができるようになる。
「そうか、そういう性質か」
「これは、凄いかもしれないわね」
「……まあ、魔力持ちにはあんま関係ないんじゃないのか」
この場にいる三人には関係が無い。あるとするのなら……
「ジャーン!! ミナさーん!! 大丈夫ですかぁ~!!」
痺れを切らしたジャンヌが地下へ下りる階段の降口から大きな声で安否を確認している。ジャンは大きな声で無事を伝え、すぐに向かう事を告げ安心させるのである。
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『主様、妾頑張るです』
『主、テルも頑張る』
「おう、ふたりともよろしくな」
頭の上に白銀色に輝くターバンのような物体を乗せて階段を登ってきたジャンを見て、ジャンヌは大いに驚いた。
「変な兜拾ったんだね」
「……これ、スライムなんだわ」
「へ」
ジャンヌから思わず変な声が漏れる。そこに、土夫がぬぅと現れ、ジャンヌは驚きガバッと距離を取る。
「儂、心傷ついた」
「いや、毛玉が突然現れたら驚くだろ」
「誰が毛玉じゃ」
毛玉呼ばわりでは傷つかないらしい。言い合う二人を尻目に、地下で起こった出来事をミナがジャンヌに説明する。なるほどと納得するジャンヌ。
「それで、その金属っぽい子がエンドラ……エンちゃんね」
『エンちゃん……素敵な響き……です』
「俺は『エン』って呼ぶな」
『主様、承知したです』
エンドラが魔力を蓄えられる性質のスライムであることを説明すると、ジャンヌは若干興奮する。以前のようにゼロではなくなったものの、魔力量が非常に少ないジャンヌには、薬は作れてもポーションはかなり難易度が高い。魔力量が少なすぎて、一日一本が限界でもあるし質も低めなのだ。それは、魔力量に作業が左右される故でもある。
「エン、俺の親友のジャンヌにも、力かしてやってくれると嬉しい」
『主様嬉しいとエンも嬉しいから……やるです』
「嬉しいわエンちゃん」
『テルも手伝う』
「ありがとう、テルちゃん」
スライム二匹とジャン・ジャンヌの間に絆が生まれる。
「なんか、仲間外れっぽいんですけど」
「そうじゃな、まあ、そんなもんだ年寄りは」
「一緒にしないで」
オルク・ファッブロ百余才、長命種である土夫からすればまだ青年期にさしかかったばかりの見た目ジジイの若者である。
「儂、心傷ついた」
ぶつくさ文句を言いながら、オルクはさっさと斜面を下り降りていく。脚の短い土夫の後を追いかけるのは、三人にとって簡単な事であった。
三連休中の完結を目指しております。四話予定です。
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