第4章 「弾丸雨飛!8ミリモーゼル弾の洗礼」
軍用サイボーグの次なる一体が倒されたのは、我が親愛なるサイドテールコンビが通信で勝鬨をあげてから、おおよそ十五分後の事だったの。
痩せ型の中年女性を素体にしたスピードタイプのサイボーグは、ナイフ戦闘術を得意とする西来天乃中尉によって討ち取られたんだ。
敵の素速い機銃攻撃をオートバイのドリフト走行で巧みに回避し、僅かな隙を見逃さずに得物のソニックダガーを一閃。
小型爆弾の信管をソニックブームで的確に破壊した後は、ウイリーさせた前輪で敵の五体をメチャクチャに轢き潰したとの事だから、新米特命遊撃士とは思えないアグレッシブさだよ。
中学二年生の若さであの勇猛さとは、全く恐れ入るね。
京花ちゃんなんか、「ウカウカしていたら、天乃ちゃんに階級を追い抜かされちゃうんじゃないの、千里ちゃん!」なんて言うんだもの。
京花ちゃんの軽口に焦りを感じた訳じゃないけど、「中尉の子が頑張っているのだから、准佐の私も負けていられない!」って具合に気合いが入った事は確かだよ。
そんな闘志満々な私の思いが天に通じたのか、はたまた偶然か。
残る軍用サイボーグの最後の二体が、私の武装サイドカーの索敵範囲に入ったんだ。
「一番近いのは私達か…大立ち回りの心積もりを頼むよ、英里奈ちゃん!」
「心得ました、千里さん!」
打てば響く良い返事だね、英里奈ちゃん。
それでこそ、戦国武将の生駒家宗公の血を受け継ぐ華族の跡取り娘だよ。
「吹田千里准佐より、全車両へ!堺区櫛屋町西付近にて軍用サイボーグ二体を確認!直ちに現場へ急行します!」
ハンズフリーマイクで行う無線報告にも、自ずと熱と力が入っちゃうね。
その流れで、付近を警邏していた特命機動隊の子達には包囲網の展開を、県警の皆様方には近隣住民の安全確保をお願いして貰い、私達は決戦の地へ赴いたの。
堺市堺区櫛屋町西一丁目一番、戎公園。
イエズス会宣教師であるフランシスコ・ザビエルを歓待した豪商の屋敷跡に整備された事から付けられた「ザビエル公園」という呼び方の方が、堺っ子達には馴染み深いかな。
そんな地域住民の憩いの場であるザビエル公園を凄惨な殺し合いの場にしてしまった事は、同じ堺っ子である私としては何とも心苦しかったね。
とはいえ、近隣の店舗や民家への影響を最小限にするなら、ここでケリを付けるのがベターな選択だよ。
仮に私達二人がしくじったとしても、機動隊の子達と県警の皆様方の包囲網が十重二十重と張り巡らされているし、マリナちゃんや京花ちゃんみたいに軍用サイボーグを仕留めて手の空いた特命遊撃士の子達が続々と駆け付けているから、討ち漏らす心配は万に一つも無いだろうね。
しかしながら、油断は禁物。
千丈の堤が蟻の一穴で崩壊する事もあるんだから、過信は良くないよ。
味方を信じるのはチームワークの基本だけど、信頼と甘えの二つはキチンと分けて考えなくっちゃね。
そうして細心の注意をはらいながら武装サイドカーを走らせていた時、過去からの刺客はやって来たんだ。
「むっ!」
僅かに呻きを漏らした英里奈ちゃんが側車から腰を浮かした刹那、植樹されたカナリーヤシの影から殺気が放たれたの。
だけど、特命遊撃士である私達を討ち取るには、そんな攻撃じゃ力不足だよ。
「ええいっ!」
上品なソプラノボイスが放った裂帛の叫びに合わせて、煌々と輝く真紅の光が稲妻のように迸ったの。
鋭利に尖った四本の赤い刃こそ、槍型個人兵装であるレーザーランスの穂先に当たるエネルギーエッジだよ。
「!?」
その真紅の穂先を胸板に叩き込まれて困惑するのは、クラシックな三つ揃いの背広を纏った禿頭の中年男性だったの。
彫りの深い目鼻立ちは西洋人だと一目で判別出来たけど、無表情で生気の無い顔が何とも不気味だったね。
「現れましたね、ファシスト勢力の改造人間!」
「Heil、Fuhrer…」
可憐で上品なソプラノに応じたのは、抑揚のまるで感じられない無機質なドイツ語だったの。
ファシスト勢力が施した脳改造手術による洗脳処置は、今も尚健在なのか。
第三帝国建国の野望と共に散った総統閣下への賛辞を譫言みたいに呟いている姿は、胸が締め付けられるような悲哀に満ちていたよ。
「ひどい事、するなぁ…こんな真似、許せないよ!」
人間性の冒涜の極地を目の当たりにした私の胸が、沸々と熱くたぎってくる。
だけど、怒りと闘志に燃えているのは私だけじゃないみたいだよ。
「はああっ!」
普段の物静かな立ち振る舞いとは裏腹な、気合い充分の猛々しい叫び。
側車のシートをダッと力強く蹴り上げた次の瞬間、華族令嬢の肩書きを持つ特命遊撃士は、愛槍と共に宙を舞っていたんだ。
「ハッ…Heil…?!」
穂先を胸板に突き刺された、禿頭の西洋人男性の肉体と一緒にね。
「この場は私に御任せ下さい!千里さんは、もう一体のサイボーグを!」
カナリーヤシの幹へ叩き付けた敵から引き抜いたレーザーランスをサッと構え直し、早くも体勢を整えた英里奈ちゃんが、私に力強く呼び掛けてくる。
身体の動きと少し遅れて宙に揺れるライトブラウンの長髪が、夜目にも鮮やかだったよ。
「うんっ!任せて、英里奈ちゃん!さあ、掛かっておいで!ファシスト残党のサイボーグ!」
私の挑発への返答は、夜の公園で鳴り響く機銃掃射の轟音だったの。
「おっ!やってくれるね!」
地面にめり込んだ流れ弾や跳弾を注視すると、それは大戦時のドイツ軍で標準小銃弾として採用されていた8ミリモーゼル弾だったんだ。
このモーゼル弾なら今でもハンティング用に使われているから、仮に弾切れしても補充出来そうだね。
まあ、ここで仕留める予定だから余計なお世話かも知れないけど。
「銃声と発射速度から判断するに、敵の得物はグロスフスMG42の改造銃か…上等だよ!人類防衛機構の吹田千里准佐が、存分に相手をしてあげる!」
激しい銃声と硝煙臭に直面すると、自ずと心が昂ってくるよ。
これこそ戦場の音と芳香、ゾクゾクするね!
そんな戦いへの期待に心を弾ませながら、私は武装サイドカーを一気に加速させたんだ。




