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袖擦りあうも他傷の縁  作者: 未来叶慧
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第5話 遺された傷跡

 起きてすぐに目に映ったのは玄関の扉だった。俺は昨日のことを覚えていたので今自分がどんな服装でどんな状態かも分かっている。とりあえず携帯をズボンの後ろのポケットに入れてから、寝起きの勢いで外に出う。重りの中から急いでカギを探しだして錠を閉める。念のため、ドアノブを回して手前に2回引く。ドンドンっという音と共に扉が開いてないことを確認して走り出す。携帯をポケットから取り出して電話をかける。

 プルルルという音が2回耳に響く。たった2回でも遅いと感じる。

 「もしもし、井上です。」

 「井上俺だ!笈川だ!もう向かってるか!?」

 「はい。今向かってます。」

 「よし。俺も直でそっちに向かう。」

 「わかりました!お気をつけて。」

 俺は電話を切ってメールを開き、そこに記載された今日の集合場所を確認する。

 (よかった。俺の方の駅からはそれほど遠くない。)

 そのまま乗換案内アプリを開き、最短で到着する時間を確認する。しかし、アプリの性質上、動きながらの操作はややしにくいところがあり、操作に手間取る。なんとか確認し終えて携帯をそのまま内ポケットに入れる。火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか、いや、遅刻の馬鹿力か。頭の回転はいつもよりも早く、眠気も感じない。足もいつも以上に動く。この調子なら間に合う。

 一時的ではあるが、本当にいつもより身体能力が向上していたおかげで予定より早めに最寄り駅に到着する。電車もちょうどよく到着する。通勤ラッシュはとうに過ぎているおかげで、電車内はいくつか空席ができている。俺はできるだけ隣通しにならない場所を探して座り込む。膝に腕を置いて下に向かって勢いよく息を吐く。頬や額に汗が走る。それもそのはず、なにせ昨日スーツのまま、玄関に寝てしまったせいだ。なんだかとても長い夢を見ていた気がする。が、それももう思い出すことができない。

 とりあえず、携帯を取り出して、鮮やかな緑色のメッセージアプリで井上に連絡を送る。

 ”今電車乗った

 この調子だと時間には余裕で間に合う”

 それに対して井上は安堵の気持ちを返信してくる。一旦落ち着いたところで上半身を起こし、背もたれに寄りかかる。汗をかいた上で冷房の風が当たることで身体が冷えていき、身震いが起きる。

 (やけに寒いなあ。冷房効きすぎじゃないか?それになんだかぼーっとしてきた。)

 さっきまで冴えていたはずの頭は途端に働きにくくなり、視界も焦点が定まらない。自分の体に異変が起きていることが分かっていながらも、それはまだ眠いせいだと一蹴し、目的駅に到着する。

 もたつく足で階段を上って会社の位置を思い出す。幸いにも、今日も計画を固めるための会議であり、何度も訪れたことのある、いわゆる御得意様の会社であったから、道には迷うことなく井上との合流地点に到着する。

 「井上~。着いたぞ~。」

 手を上に伸ばして横に振りながら井上に近づく。井上は俺を見るや否や駆け足で俺に近づく。その第一声は―。

 「うわっ!センパイ汗だくじゃないですか!」

 「そんなに汗かいてるか?」

 「かいてますって。そんな汗だくじゃ会議にならないですよ。」

 井上はすぐさまポケットからハンカチを取り出して俺の前に差し出す。

 「まだ、このハンカチは使ってないので、これ使ってその汗拭いてください。」

 「井上は本当に気が利くな~。」

 俺はそのハンカチを受け取り、言われたとおりに首や額の汗を拭く。拭き終わるとじんわりと湿っているのが分かり、予想以上に汗をかいていたことに少し驚く。

 「これ、明日返すよ。」

 「センパイ。明日、休みですよ。」

 「あれ?そうだっけ?」

 「そうですよ。休日には敏感なセンパイなのに、今日はどうしちゃったんですか?」

 「う~ん。寝起きだから、まだ寝ぼけてるのかもな~。」

 「しっかりしてくださいよ~。」

 「すまん、すまん。」

 後頭部に手を当てて笑った後に、井上のハンカチをしっかり畳む。4等分にしたところで、ハンカチに描かれたキャラクターのデザインに目が移り手が止まる。

 「センパイ?どうしました?」

 「いや、なんでもないよ。」

 俺はハンカチをそそくさとポケットの中に突っ込む。

 (井上のハンカチに描かれたキャラになんか見覚えがあるような気がする。) 

 俺がハンカチの柄に気を取られている間に、井上は腕時計を確認して声をかける。

 「センパイ、そろそろ時間です。」

 「ん?ああ。それじゃあ、行くか。」


 「ああ~、終わった~。」

 両腕と背筋を思い切り天に伸ばす。その瞬間、ぐらつきと寒気を感じる。

 「井上、なんか、寒くね?」

 「何言ってるんですか~。もうすぐ夏なのに寒いわけないじゃないですか。」

 「え?めっちゃ寒いんだけど。」

 「……センパイ。もしかして、風邪ひいてるんじゃないですか?」

 「風邪?高校からずっと風邪を引いてこなかった俺が、風邪なんかにかかるはず―。」

 一歩踏み出した途端、膝から崩れ落ちる。

 (なんだこれ。からだが、おもうようにうごかねぇ。)

 膝が地面に着くと畳みかけるように頭がズキズキと痛み始め、井上の俺を呼ぶ声も遠くに聞こえるようになる。四つん這いになった自分の姿を想像してその情けなさを感じる。

 「ははっ。」

(ざまぁねぇな。)

 井上は俺の背中に手を当てて、俺の顔を覗きこむ。

 「センパイ、笑ってる場合じゃないですよ!早く病院に行かないと。」

 俺は目をつむって、回らない頭を酷使して状況判断と今後の予定の整理を行う。

 「井上は、次の打ち合わせの、準備、を。病院には、俺1人で、行ける。」

 「で、でも……。」

 「俺からの、お願いだ。頼む。俺1人のためだけに、迷惑はかけられない。それに、井上。お前なら1人でも大丈夫だ。自慢の、後輩だから。」

 「センパイ……。」

 所々息を切らしながら思いの丈を伝える。それを聞いて井上は歯を食いしばる。俺の背中で拳が強く握られているのが分かる。

 「分かり、ました。」

 井上は静かに立ち上がる。

 「すぐに終わらせてきます!」

 と大きな声で言い残し、走って次の打ち合わせ場所に向かう。

 正直これ以上は頭が動ない。喉も乾ききって言葉さえ出せない。それでも大丈夫。大丈夫だ。自然と口角が上がる。しばらく地面に落ちる冷たい汗を眺めてから、腕と膝にありったけの力を入れて立ち上がる。

 (まかせたからには、おれも、がんばらないとな。)

 身体をふらふら揺らして一歩ずつ前に進む。照り付ける日差しの中、携帯を取り出して最寄りの病院を探す。すぐに複数件ヒットし、その内の1番上に出てきた病院名をタップする。駅に着いたらバスに乗ってすぐにたどり着けるほどの距離だ。それに評判がいいし、総合病院なだけあってすごく大きさもある。早めに終われそうだ。だが、それよりも先にやることがある。それは人気の少ないコンビニに向かってマスクとスポーツドリンクを買うことだ。まずは被害者を増やさないことと、落ちた体力を少しでも回復させることが先決だ。今は11:34。これからお昼時で人通りが今よりも多くなる。その前に、買い終えなければ。

 時々歩道の街灯に手をついて小休憩を挟む。目の前に見えるコンビニも健康体なら既についていた。あと数十メートルが長い。しかし、あまり長く外にいても本当に倒れてしまう。ここは勢いだ。

 垂れる汗を手首で拭い、のそのそと歩く。ようやくたどり着いて、扉の前に立つと、自動ドアが開き冷気が全身を通り抜ける。寒い体には最悪の組み合わせだ。ズキズキと痛む頭は冷気によってより激しさを増す。頭を抑え、身震いをしてから店内に入る。店内もやはり寒くて、足が自然と速くなる。まずは、マスク。これは入ってすぐに伸びてる日用品コーナーの通路に置いてあるから、分かりやすい。とりあえず値段の低いものを手に取って、ドリンクコーナーに向かう。重い扉を開けて青いラベルのスポーツドリンクを取り出す。それの冷たさにが手に触れた瞬間、この冷えた体に冷たいものを流し入れることを連想して億劫になる。ただ、あまり立ち往生していると悪化しそうなので、足早にレジに向かう。まだ、咳き込んではいないが、一応咳き込まないように呼吸を調整しながらお会計を済ます。お会計後、商品を抱えながらよろける体を棚と人にぶつからないようにしてコンビニを出る。

 出てからすぐに雑誌コーナーの前まで向かい、スポーツドリンクを流し込む。やはり、全身に浸透する冷たいものはこのボロボロの身体に響いた。つま先から悪寒が上ってくる。両手で反対の腕をさすって摩擦を起こしてその場を凌ぐ。その後、マスクを1枚袋から取り出してつける。残りのマスクはスポーツドリンクと一緒に重りの中に放り込む。重りがさらに重くなって余計にふらつくが、さっきまでよりはマシになったように思える。コンビニでの用事は完全に済ませたので、駅へ向かって歩き始める。背中に日光が刺さるのを感じながら、軽くなった足取りで歩道を進んでいく。

 (スポーツドリンク、けっこうきいてるかも。かがくのちからってすげー。)


 結構時間もかかり、ようやく目的のバス停まで辿り着く。前から5番目と割といい位置に無事に辿り着いたことに安心すると、足への負担が疲労となって表れ始める。

 (思えば、朝は走って最初の打ち合わせ場所に辿り着いたんだよな。こんな体でよく走れたな。)

 遅刻による焦りと言うものは一種の麻酔のような増強剤のようなものなのだとひしひしと痛感した。思ったよりも強大な力で、あの勢いがあればどんな仕事もすぐに終わらせることができるだろう。かと言って、毎日あの切羽詰まった感覚があるのはいただけない。いつか絶対身体が壊れる自信がある。そう考えると、やはり馬鹿力的なものはやはり大事な時まで取っておいてもらった方がありがたいという結果に落ち着く。

 もう考えることがなくなりなんとなく見上げると、黒味のかかったバス停の通路シェルター越しにただ漂っているだけの雲と睨みつけるかのように照り付ける太陽が目に入る。見るからに暑いことが分かるのにこの身体はその暑さを感じない。むしろ、その逆で未だに寒さを感じている。そのギャップに頭が本当にショートしそうで視線を下げる。

 こういうなにかを待っている時は本当に時間が過ぎるのが遅い。都会なのにバスは一向に来る気配がない。運休を疑って乗換案内アプリを開くも運休表示は出ていない。あと3分で到着するはずなのだが、そのカップ麺ができそうな時間がこれまた長い。SNSの情報量はこの脳には多大なダメージを負わせるのでやめておいた方がよさそうだし、かといって他にすることもない。時間を確認するとあと2分。本当に長い。バスだから交通状況的に遅れをとることは仕方がないとして、問題はバスが到着するまでに俺の身体がもつのか、ということだ。今から5分以上の待つことは恐らく無理だ。しかし、今から他のバスに変えるために列から出ようものなら最後尾になるのは確実。つまり、ここは絶え凌ぐほかない。

 寒さのせいか我慢しきれないのか身体が震え始める。俺は目をつむって強く祈る。

 (は、はやくきてくれ~。)

 「ご降車、ご乗車の方は、足元にご注意ください。」

 その声で目が開く。涙が出そうになる。少しずつ前に進んで、手すりにつかまりながら足元に気をつけて乗車する。幸いにも、始発の停留所であるため席を確保することができた。徐々に車内が騒がしくなり、つり革につかまる人も増えてくる。改めて席につけたことに安堵していると、俺の横に杖で身体を支えているおばあちゃんが立ち止まる。その瞬間、俺は心の中で頭を抱えた。

 (なんてことだ!このじょうきょうでおばあちゃんがおれのとなりにくるなんて!)

 さすがに自分がこんなに深刻な状況で、正直座り続けていたい気持ちでいっぱいだ。なんとか打開策はないかと優先席の方を見ると、すでに立ち乗りの乗客が道を阻んでいて反対側にはいけそうにない。このまま座り続けるのもおばあちゃんの視線とか周りの視線とかで気が引けてくる。ここは仕方ない。

 「あ、あの。どうぞ、座ってください。」

 おばあちゃんにそう声をかけてから、立ち上がろうと手すりを掴むと、おばあちゃんが手すりを掴んだ俺の手の甲に小さな手を乗せる。俺がおばあちゃんの方を向くと、おばあちゃんは首を横に2往復させた。そして、俺に乗車客に配慮した小さい声で話かける。

 「お兄さん、私のことよりもご自身の体調をいたわって。私は元気だから。」

 俺はその言葉に衝撃を受ける。それは断られたからではない、俺の体調はマスクをつけていても分かるほど酷い状況だということが分かったからだ。

 俺は言われた通り、静かに腰を下ろして席に座り続ける。

 「すみません。あ、ありがとう、ございます。」

 (おばあちゃんにまでしんぱいされるなんて、なんだか、なさけないな。)

 それから俺はおばあちゃんに心配されたという申し訳なさで正面ですら顔を向けることができず、ずっと窓の外を向いて目的地まで静かに揺られ続けた。


 目的地の病院前のバス停で降りる。俺の隣に立っていたおばあちゃんも同じところで降りた。おばあちゃんはそそくさと降りていってしまい、結局、席を譲ろうとした時の会話っきり何も言葉を交わさなかった。

 目の前には大きな建物があり、すぐにそれが病院と分かった。気が付くとおばあちゃんはもう見えなくなっていた。仕方なく俺は1人歩きながら入り口を探す。

 (あのおばあちゃん。つえついてたけど、いがいとげんきだな。)

 おばあちゃんの後をついていこうと思っていたのだが、その計画が破綻してしまったので、とりあえずこの病院に用事のありそうな人の後ろを追う。ついていった人がちょうど同じ目的を持っていた人だったので、病院の入り口に辿り着くことができた。入り口のガラス戸を通り抜けると、また冷気が押し寄せる。

 (かんべんしてくれ。)

 震える体で受付を探す。先に待合室が目に入る。総合病院なだけあって、平日とは思えないほどの人がいた。俺はその光景に驚く。平日だから数えられるくらい、人が少ないと思っていた。いや、これに関しては俺がそれほど無知だった。

 俺は前を向いたままふらふらと前へ進む。

 「お客様。お客様~。」

 横から声が聞こえる。俺は前に進もうとすると、目の前に看護師が飛び出してきて、足が止まる。

 「お客様、受付はこっちです。」

 「あっ、す、すみません。」

 俺は引き留めてくれた看護師の後についていく。

 (うわっ、はっずい。)

 恥ずかしさで余計に汗をかく身体をどうにか抑えようと自分を正当化し始める。

 (いやでも、ここくるのはじめてだし、もしかしたらひとりでびょういんくることじたい、はじめてかもしれない。そうだ。はじめてだからしかたないよ。うん、しかたない。)

 そのまま恥ずかしさがおさまるよりも先に受付が終わって、待合室の長椅子に腰掛ける。できる限り窓際によって冷えた体を温める。ここまでの慌ただしさがようやく落ち着き一息つくと、スーツの内ポケットに入っている携帯が振動する。不快感を感じ、大きく溜息を吐く。会社の連絡の可能性もあるため、嫌でも携帯を取り出して確認する。 

 ”センパイ、体調大丈夫ですか!?

  倒れてませんか!?”

井上からのメッセージだった。井上なら、まあ、許そう。

 俺はアプリを開いてすぐさまメッセージを返す。この身体だと、フリック入力も結構しんどいものがある。さっきから誤字を直してばかりだ。

 ”だいじょぶ

  いまびょういんいるよ”


 ”よかったぁ~

  こっちは無事に終わってますよ

  先方様もセンパイのお体を気遣ってましたよ”


 ”すまん

  ありがとう”


”センパイのことは僕の方から会社に連絡付けておきますね

 また、会社からそちらに連絡が行くかもしれないですけど”


”なにかなにまですまない”


”<クマのキャラクターの隣にOKの文字が書かれたスタンプ>”

 俺は送られたスタンプの内容よりそこに表示されたキャラクターに目移りする。そのキャラクターはハンカチにプリントされていたものと同じクマのキャラクターだった。

(また、クマ。いのうえ、これきにいってんのか?)

 クマが気がかりになりながらも携帯を内ポケットにしまって呼ばれるまで静かに待機する。


 それからしばらくして診察が始まった。先生によるとどうやら普通の風邪らしい。疲労の蓄積が原因だそうだ。最近気にしていた寝不足のせいなのかもしれない。思ったより重い症状じゃなくて助かったが、逆にここまで酷くてただの風邪と言うのもなんだかおかしな話ではある。でも、先生がそう言うなら間違いはないとは思う。

 またしばらく待ってから処方箋を受け取る。薬局は外の入り口の向かい側にあるようなのでわかりやすくて助かる。処方箋をとりあえず重りにつっこんでから外に出る。この冷気ともようやくおさらばだ。ガラス戸を通り抜けると、来る時は気付かなかった光景が広がっていた。そこには大きな芝生の広場に点滴パックを引きながらお話や遊んでいる人がたくさんいた。しかし、すぐに視線が下に移る。寒暖差でとうとう勢いだけでは無理なレベルまで不調が表れる。

 (ほんとにこれ、ただのかぜか!?)

 しんどいながらも前に進むだけの体力は残っていた。1歩進むと携帯が振動する。井上からメッセージが届いている。見える内容は最初の1分だけだが、その先もあるようなので開いて確認する。

 ”センパイ、今日はもう帰って休んでくださいとのことです

  明日お見舞い行くので今日はしっかり休んでください”

 俺は気持ち悪さを抑えるために井上とメッセージのやりとりを続ける。時間帯と井上のメッセージ量を考えて今は昼休憩だろう。当分続けても問題はないだろう。芝生とタイルの部分で道を確認しながらタイルの道の上を歩いていく。

 ”いのうえありがと~”


 ”どういたしまして”


 ” そうだ、ききたいことあるんだけど”


 ”なんでしょうか?”


 ”いのうえのはんかちにかかれているくまってにんきなの?”


 ”人気なんてもんじゃないですよ!!!

  TBPの超人気キャラなのに謎に10年間もグッズ化されなかったキャラなんですよ!!!!!”


 ”はえ~

 それにしてもそのくまなんでにんきあんの?

 なんかいあつてきじゃない?”


 ”センパイ、それ、僕じゃなかったら〇されてましたよ”


 ”え。。。

 こっわ。。。

 てか、わざわざふせじにしてくれるんだ”


 ”これは僕の善意です

  センパイ、それよりも相生さんとはどうなったんですか?”


 ”あいおいさん?だれそれ?”


 ”え、ここ最近ずっとセンパイの夢の中の相生さんの話題で持ち切りでしたよね”


 ”なんかさいきんみてたゆめぼんやりとしかおぼえてないんだよな”


 ”えぇ。。。

 あんなにはっきりと覚えてたじゃないですか。。。”


 ”ゆめのはなししてたのはおぼえてるけど、ゆめのないようはわすれたんだよ

 わかってくれ”


 ”えぇ、こわ。。。

 それ一種のホラーですよ

 センパイの方が怖いですよ

もうほとんど夏の気温だからってそういうガチのやめてくださいよ〜”

 下を向いて返信しようとした瞬間、目の前に足が見えて俺は避けようとする。しかし、抵抗虚しくも肩がぶつかってしまう。

 「ご、ごめんなさい!」

 「わ、私の方こそごめんなさい!」

 俺たちはぶつかった勢いでお互いに向き合う。一目見て大丈夫なことが確認できてほっとする。それにしても点滴にぶつからなかったのは幸いだった。もしぶつかって落としていたら大変なことになっていたことは想像に難くない。しかし、ぶつかった衝撃でアクセサリーが取れて地面に落ちていた。俺はそれを手に取り、埃を払った後に差し出す。

 「これ、落としましたよ。」

 「あっ……。ありがとう、ございます。」

 ぶつかってしまった相手は女性だった。しかも、容姿、声共になんだか今日が初対面ではないような、そんな気がした。気がしただけだ。

 女性は俺の顔を見ると一瞬硬直しすぐに目を逸らす。その後に小さい声でお礼を言ってぬいぐるみのアクセサリーを受け取る。その後、肩から下げているバッグにつける。そのアクセサリーの正体は朝から見覚えのあるクマだった。ハッと我に返って状況を振り返る。ぶつかったけどお互いに無事。とりあえず、それだけが分かると、俺は再度謝ってから薬局へと足を向かわせる。

 「あ、あのっ!」

 俺は大きな声に引き留められ、振り返る。女性は疑うような目つきでしばらく俺を見つめる。俺は見つめ続けられることに嫌気がさして言葉を投げかける。

 「そんなにじろじろ見てなんですか?どこかで会ったことありましたっけ?」

 女性は急にきょとんとした表情で答える。

 「いえ、一度もないですよ。」

 本当に一度も会ったことがない様子だ。もちろん俺もこの女性には一度も会ったことはない。

 「それでは、お大事に。」

 「あ、ありがとう、ございます。」

 女性はなに食わぬ表情で病院の方に振り返って去っていく。俺は少しだけ女性の背中を目で追ってから、薬局に向けて歩き出す。

 (きゅうにひきとめていったいなんだったんだ。)

 俺は後頭部を掻きながらため息をつく。体調が悪いのに厄介に巻き込まれてしまった。俺の不注意でぶつかったのは悪いが、何も用がないなら引き留める必要はないだろう。イライラを吐き出すためにもう一度ため息をつく。俺はぶつかった肩を押さえながら歩く。


 衝突、ストレス、落とし物、見覚えのあるキャラクター。漫画の表現を借りるなら、記憶がないのに身体は覚えている感じ。

 違和感が身に染みついたように離れない。

 皆さんここまで読んでいただきありがとうございます。

 はじめまして、未来叶慧みらいかなえと言います。10万文字以上の作品は今回が初めてなので、拙い部分が多数あると思います。温かい目で読んでいただけたら幸いです。また、今回コンテストに参加するにあたって、異質な作品だとは思いますが私は私の書きたいものをこれからも描いていきます。

 ここからは作品の内容とそれに伴う私の考えを述べていきます。私はこの作品を書くにあたって、現実味を表現すること意識しました。大抵の人は他の人に興味がなかったり、好きな人というのが必ずしもいるわけではなかったり。特に最近はヒロインが主人公に出会ってすぐに好きになる描写が多いと感じたので今回はこのような形にしました。といっても、主人公の後輩にあたる人物が主人公を好きだという描写がありますね。矛盾ですね。ただ、言い訳しますと、どの登場人物もつかず離れずな関係を表せていたら幸いです。主要登場人物のそれぞれの観点に関してはまた機会があれば触れていけたらと思います。

 続いて時間のお話です。今回は主人公の人生のたった5日間を書きました。おかしな夢という特典付きですが、たった5日間をここまで広げられることを知ることができました。そして、ここまで私たちが生きているこの毎日を書き表すには実は何万、何十万という膨大な文字が必要だということも実感しました。私も必要のない時間を飛ばす書き方をよく行いますが、本当はその人を構成する時間がちゃんと流れていることを意識して書くべきだと、そう思いました。

 最後に今回のテーマは第1話前書きにもあるように”傷つき傷つけあい、それでも今日を生きていく”です。何気ない会話も何気ない行動も他人を傷けるには十分な力があります。それでは思いやりとは一体何でしょう。仲がいいとは何でしょう。なにが正しいのでしょう。この作品を通してあんなことやそんなことを考えていただけたら幸いです。

 改めて、最後まで読んでいただきましてありがとうございます。あなたの行く道がより豊かになることをお祈りし、筆を置かせていただきます。

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