第7話
ドラゴンとまなみたちはお社を出ると、前方に広がっている洞窟の中を歩いて行った。としゆきはリュックの中から、懐中電灯を取り出し、灯りをつけた。
「としゆき様は、魔法が使えるのか」
としゆきの肩にのっているドルダが感心したようにいうと、としゆきは、慌てて首を振った。
「これは魔法じゃない。ぼくらの住む世界では、魔法は存在しない。魔法の代わりにいろんな道具があるんだ。これは灯りをつける道具だ」
「ずいぶんと進歩した世界なんだね、君達の住む世界は」
今度はまなみの肩にのっているラビネが、理解のある声でいった。まなみはそういわれて、ちょっと得意になった。
としゆきはドルダとダークを。まなみはラビネとグリラスを肩にのっけて歩いていたが、最初まなみは、躊躇した。いくらドラゴンだといわれても、どうみても虫のように首筋をちょろちょろと動かれると、虫じゃないと思っていても虫のように感じてしまうのだ。それが嫌で、まなみは、困った顔をしていたが、ラビネはすぐに、まなみの気持ちがわかったらしく、まなみに告げた。
「だいじょうぶ。ぼくらは石のようにぴくりとも動かないで肩にのってるから、怖がらないで」
ラビネが熱心にそういうので、まなみは恐る恐る、ラビネとグリラスをのっけた。すると本当に二匹は石になったように、動こうとしなかった。それなので、まなみは安心して、二匹を肩にのせることができた。
「しかしこの異世界では、魔法や剣がすべてだ。自分の身は自分で守らねばならない」
ドルダは、諭すように二人にいうと、
「ドルダだって、こんなに小さいんだから、自分の身を自分で守ることなんてできないんじゃん」
としゆきはもっともらしく呟いた。
「まあ確かに小ささでは不利だが、我らは炎を吹くことができる。空を飛ぶこともできる。そして身軽だ。それから、今は魔法力をすべて使い切ってしまったが、もともとは魔法が使えるのだ。君たちよりかは、危険に対して、太刀打ちできるぞ」
としゆきは、ドルダにそんな風にいわれると、ドルダ達が小さなドラゴンではなく、巨大なドラゴンのように思えてきた。その一方で自分たちは吹けば飛ぶような小さな存在に思えてならなかった。これから先、大丈夫なのだろうか。暗闇の底のような洞窟の中を歩いているとまなみでなくても怖くて泣きたくなる。心細い。家に帰れるだろうか。としゆきが、不安そうな表情を浮かべると、ドルダはいった。
「そんなに怖がることはない。魔法か剣かどちらかを習えばいいのだ。それで身を守るのだ」
『魔法や剣!』
それを聞いたとしゆきは、おじいちゃんの家に置いてきたゲームのことを思い出していた。そのゲームも魔法や剣の出てくるアドベンチャーものだった。しかしそれはゲームの中でのことだ。それなのに、今現実のものとして、取り扱わないといけない。
「そんな簡単に、覚えられるの? そもそも誰に教えてもらうんだよ」
訝しげに、としゆきが眉をひそめると、ドルダは当たり前のようにいった。
「我らに習えばいい」
「習うって竜は剣を使えないだろ」
そういわれたドルダは、はっとした様子だった。
「うむ、そういえば我らは竜だった……」
「じゃあ、無理じゃん!」
としゆきはむっとした調子で言い切った。この竜、賢そうに見えて、実は馬鹿なのかなあ。としゆきは一瞬小馬鹿にした態度をとった。しかしドルダは知らぬ振りをして、こう続けた。
「それでも剣の使い方の良し悪しぐらいはわかるぞ。アドバイスぐらいはできる」
「わたしも習うの?」
二人のやりとりを聞きながら、まなみもおずおずと口を出した。
「泣き虫まなみになんかに、できるわけないだろ」
それをきいたまなみは、悔し涙を目にためた。
「大丈夫だよ。まなみ様。まなみ様は力的に剣は使えないかもしれないけど、魔法なら使えるはずだよ」
肩にのっているラビネが、すかさずアドバイスすると、まなみの目にたまった涙は、みるみるうちに消えていった。
「わたしでも魔法が使えるの?」
ちょっとわくわくした気持ちが、まなみの中で、湧きあがり、闇の中の洞窟内にも関わらず、その暗闇が、一瞬明るくなったような気がした。
「その通り。まなみ様でも使えるはずだ。もともと魔法というものは小さき者でも力のない者でも使えるものなのだ。魔法なら我らが教えよう」
ドルダがそう解説すると、まなみの気持ちは、更に高ぶった。
『なんか、夢みたい。わたし、魔法を習えるんだわ』
ファンタジーの本の中では、魔法使いは呪文を唱えて敵をやっつけたり、ほうきにのって、空を飛んだり大活躍をする。わたしにもそんなことができるのかしら。夢見心地なまなみに対してとしゆきはいった。
「まなみが魔法を習うなら、ぼくは剣を習う。まなみなんかに負けないからな。ぼくの方が先に剣を使えるようになってやる」
自信満々にいう、としゆきは、まだ見ぬ自分の剣を抜いて見せる振りをした。
「ふん、わたしだってすぐ覚えるもん」
まなみも、まなみで、まだ見ぬ自分の魔法の杖を振るまねをした。




