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四匹のドラゴン  作者: はやぶさ
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第53話

 まなみは、びっくりして駆け寄った。さっきの魔法攻撃で、傷が痛むのだろうかと思ったのだ。


「まなみ様、わたしは今悔しくて泣いているのだ。人の争いが嫌で、兄弟で考えた末にドラゴンになることを考えた。しかしどうだ、この結果は。としゆき様を救うため、ロザリオ姫を救うため、グリラスを救うため、また戦いの心を取り戻さないといけない。そして戦えば戦うほど、魔法使いを強くしてしまう。もう我らには、為すすべもない。我らは戦えず、死ぬしかないのかもしれない」


ドルダのあきらめ切った表情に、まなみの心はチクチク痛んだ。そうして盛大に泣きたかったけれど、泣いている場合じゃないと思った。ドルダとラビネはすべてを投げ打って、この結果なのだ。わたしは、わたしはまだすべてを投げ打ってない。だってわたしには、まだこの魔法がある。


まなみはスケッチブックと色鉛筆を握りしめると、ざっと一挙に描き始めた。それはさっき姿を見せた魔法使いの姿だった。まなみは思い出しながら、魔法使いを描いた。ところどころ想像を駆使しながら、それでいて一番大事な魔法の気持ちをこめた。


『まがまがしい気持ちを持った人が、魔法を使えばまがまがしいものになるし、やさしい気持ちを持った人なら、やさしい魔法になるんだよ』


 ヴィルアルのいっていた言葉が、心の中に響いてくる。


『やさしい魔法。それがわたしの魔法だ』


 丁寧に丁寧に気持ちをこめながら、まなみは最後の線を描きあげた。そうしてすぐさまスケッチブックから、もう一人の魔法使いが現れた。


「はっはっはっ。絵のわしなんぞ怖くはないわ」


声とともに、本物の魔法使いがまた姿を現した。


「どれどれすぐ消してやるからな」


 魔法使いは、杖を一振りしたが、絵の魔法使いは消えなかった。絵の魔法使いは、にこやかに笑うと、杖を一振りした。一瞬塔の中の空気が軽くなった。気がつくと、塔の中は頭上に満点の星空が、床には、美しい草原が広がっていた。そして草原には大きなたき火がたかれ、その周りには、いろんな種族の人々が集っていた。人間もいれば、ゴブリンもいる、エルフもいれば、ドラゴンまでいた。しかしみんな楽しそうに笑っていた。


「ふん、こんな光景をわしに見せてどうするというんだ」


魔法使いが悪態をつくと、絵の魔法使いがやってきて、本物の魔法使いに向かって、まるで友好の印のように、抱きしめ、肩を叩いた。


突然のできごとに、魔法使いはびっくりした。


「わわっ、何をするんだ」


すると周りにいたゴブリンや、エルフたちもやってきて魔法使いに微笑みかけた。とたんに、魔法使いは胸をかきむしり出した。


「やめろ、やめろ。わしにやさしくするな」


 絵の魔法使いや、他の種族の者がやさしくすればするほど、魔法使いは苦しみ始めた。頭をおさえ、胸をかきむしり、のたうち回り、みなが心配すればするほど、魔法使いの姿は、だんだん小さくなっていった。そして気がついた時には、魔法使いは影も形もなく消えていた。


 魔法使いが姿を消すのと同時に、その光景もあっという間に消えさり、そこはさっきの塔の中だった。松明が皆の顔を照らし出し、突然のできごとに、誰もがびっくりして黙りこんだ。


魔法をかけたまなみですら、この結末には驚き、ほんとに魔法使いはいなくなったのかしらと、辺りをきょろきょろと見回した。それからもう大丈夫だと安心すると、としゆきと、ロザリオ姫とグリラスの縄をほどき、皆は、ほっとした面持ちで、話し始めた。


「まなみ様。最後の魔法はいったいどんな魔法をかけたのですか」


剣士から受けた傷を魔法で治しながら、ラビネはまなみにきいた。


「いたわりの気持ちをこめて、絵を描いたの。憎しみの心が魔法使いを強くするなら、その逆の気持ちをこめればいいのかなあと思って」


まなみは、慎重に言葉を選びながらそう答えた。


「なるほど。わたしたちに足りなかったのはその気持ちだったのですね」


ラビネは寂しそうに、呟いた。


「我らは間違っていたのかもしれない。ドラゴンとなって人間の国から逃げ出したのは、恥ずべきことだったのかもしれない」


ドルダが頭を振りながらそういうと、それをロザリオ姫は制した。


「いえ、ドルダたちが悪いわけではありません。国政をあずかるわたしたち王族が学ばなければいけなかったことなのです。皆が平和に暮らせる世を作るべきなのです。ラビネ、すまなかった」


 ラビネは、慌てて、首を振った。


「そんな。姫が悪いわけではありません。心の弱かったわたし達がいけないのです」


「ならば、また我が国で騎士の務めを果たしてはくれぬか」


 ロザリオ姫は、懇願して頼みこんだ。


「姫の頼みとならば。しかしその前にダークを元の姿に戻さなくてはなりませぬ」


「申し訳ございませんが、ロザリオ姫。ダークの一件が、片づいてからでもよろしいですかな」


「もちろんですとも。ダークには、申し訳ないことをさせてしまいました」


 悲しそうな瞳で、ロザリオ姫はうつむいた。まなみも、一緒になってうつむいた。


『ダーク、ごめん』


 下の部屋にいるダークに向かってまなみは心の中で謝った。


「まなみ、大丈夫。ダークは元にもどるよ。ぼくらがなんとかする」


 グリラスが、まなみの気持ちを察して、声をかけた。

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