第51話
急いで塔へと続く階段をのぼって行くと、まなみが目にしたのは、縄でがんじがらめに縛られている三人の姿だった。一人はとしゆきで、もう一人は金髪の髪に青い目をした女性。最後の一人はラビネによく似た金髪の青年だった。塔の部屋の中には松明が、掲げられ、三人はうずくまった状態だったが、ドルダたちが塔の中へと入ってくると、としゆきが叫んだ。
「まなみ、気をつけろ」
よく見ると、としゆきの身体は傷だらけだった。
「おにいちゃん!」
まなみが、慌ててとしゆきに近づこうとすると、とたんにまなみの頬に鋭い痛みが走った。
「いたっ」
気がつくと、頬から血がにじみ始めた。
「はっはっはっ。むやみに近づくと怪我をするぞ」
どこからともなく声が降ってきた。野太い男の声だった。しかし姿はどこにも見えなかった。
「魔法使いめ、姿を見せろ」
ラビネが怒って叫ぶと
「見せたら、おまえらが使っている魔法の泉を引き渡すのか」
と、笑いを含んだ声で魔法使いは、いった。
「おまえには渡さない!」
ラビネが三人に近づこうとすると、見えない刃のようなものが、 ラビネの腕や足を傷つけた
「ラビネ! 来てはなりませぬ」
「しかしロザリオ姫。わたしはあなたを助けに来たのです」
ロザリオ姫は、涙ぐんでいった。
「わたしはラビネの無事な姿を見れただけで、十分です」
「姫!」
ラビネが、また近づこうとしたが、見えない何者かに殴られ、床に叩きつけられた。
「ラビネ、大丈夫か」
ドルダがラビネに駆けより、引っ張り起こすと、いやしの魔法をかけ、ラビネの傷を治してやった。
「ふん、どうやら魔法力は戻っているようだな。やはり湧き出る泉のおかげというわけか。おまえらが心に隠した泉を返してもらおうか。そうすれば、三人を無傷で返してやる」
「おまえには死んでも泉は渡さぬ」
ドルダはそういうと、とにかく三人の縄を魔法でほどこうと、呪文を唱えた。しかし三人に近づくことができないせいか、魔法はきかないようだった。
「やはり対象物に手をかざさないと駄目か」
ドルダは、がっくりしたが、すぐさま三人を助けようと、近づこうとした。が、今度は魔法で攻撃され、ドルダは、足を負傷した。
「くそっ、どうすればいいんだ」
ラビネが、悔しそうに叫ぶと、魔法使いは、満足そうに笑った。
「はっはっはっ。どうだ。何もできぬだろう。泉をおとなしく渡せば皆、解放してやるぞ」
まなみは、魔法使いのいやらしい声に、腹を立てながらも、なんとかして皆を助けたいと思った。
『そうだ! ヴィルアルのくれた魔法の粉がある。これで魔法使いを倒してといえばいいんだ』
まなみは小瓶を取り出し、粉をふりまくと、大きな声で叫んだ。
「お願い、魔法使いを倒して!」
一瞬、辺りは静まりかえったが、しかし何も起きない。
「まなみ様。エルフの粉は、自分の力に合った願いごとしか叶えてくれないんです」
ラビネが、無念そうに頭を振ると、まなみは、愕然とした。そんな。ヴィルアルはどんな願いも叶えることができるっていったのに。それなのに、自分のレベルにあった願いごとしか叶わないなんて。それって、わたしには魔法使いを倒すことはできないってことなの。みんなを助けられないってことなの?!
まなみは、悔しくてしかたなかったが、自分にできる範囲のことなら、逆に願いは叶うということだった。今のわたしができること、空気のたまをぶつける魔法と、絵を描く魔法だけだ。どうみてもこの二つの魔法しかないけど、見えない敵じゃ、どうもできない。どうしよう、どうしよう……。まなみはとっさにスケッチブックを、ぱらぱらとめくった。その時、ヴィルアルと魔法の練習で描いたオオカミや、ドワーフ、ゴブリン、いろんな生き物たちが目に飛びこんできた。そうだ! この子たちはわたしの力で描いたものだ。この子たちが、もう一度だけ絵の中からでてきて、わたしを助けてくれたら。ひょっとしたら何かできるかもしれない!
するとまなみは、小瓶の中にまだ残っていた粉を振りまきながら、こう叫んだ。
「わたしの描いた絵よ、もう一度だけ本物になって出てきてちょうだい!」
エルフの金の粉が空中を漂うと、手に持っていたスケッチブックが、急に金色に光だし、ページを開けてもいないのに勝手にパラパラと開き、ボンっと大きな音がしたかと思うと辺りは白い煙に包まれた。
しばらく周りは真っ白だったが、それが薄れてくると、目の前には、まなみが描いたたくさんの生き物たちがいた。




