第5話
まなみは恐る恐る答えつつも、としゆきの腕を握りしめた、そうして、宝箱の中の一匹を指さした。それは紫のドラゴンだった。金色の目をしたそのドラゴンは熱心にこちらを見つめている。
「まさか、おまえか」
「そうだ。わたしの名前はドルダだ」
手の指さきにのってしまいそうなドラゴンなのに、そのドラゴンには威厳のようなものが備わっていた。
「そしてここはどこなのだ」
「ここは日本だ」
としゆきの手は震えていたが、このドラゴンと堂々と渡り合おうと気張った声で答えた。
「日本? そういえば東にそんな国があった」
物知りそうな赤い目をくるくるさせながら水色のドラゴンが呟いた。
「ずいぶんとエキゾチックな場所に俺らは飛ばされたわけだ」
ふんと鼻息荒く、黒いドラゴンはおもしろくなさそうにいった。
「君らはドラゴンだろ」
鋭い目つきでとしゆきは、ドラゴンを一匹ずつ眺めた。
「そうだ、我々はドラゴンだ」
ドルダは長いひげをくゆらせながら、腹に響く声でいった。
「でもどうしてそんなに体が小さいんだ? ドラゴンといったらとても大きいものだろ」
「よくぞ訊いてくれた。我々はもともと大きなドラゴンだったんだ。しかし悪い魔法使いに攻撃されて、このように小さな体になってしまった。魔法使いは我々を、この宝箱に閉じこめ、魔法力をすいあげようとしているのだ」
「しかし君らが開けてくれたおかげで、わたしたちは魔法使いの魔法から解き放たれた。魔法使いはわたしたちの魔法力をすいあげることができなくなった」
水色のドラゴンも、ドルダとともに説明してくれた。
「君らは我々の命の恩人だ。しかしその命の恩人に、迷惑をかけることになったようだ。すまぬが、指にのっけてくれぬか」
としゆきはおっかなびっくりしながらも、ドルダを自分の手にのっけた。紫のドラゴンは、そろりそろりと手にのぼりながら、辺りをぐるりと見渡した。その時、としゆきとまなみは気づいた。お社の外が夜のように真っ暗になっていることに。ついさっきまで、太陽がさんさんと照っていたのに。おかしい。二人がそう思った時、ドルダが鼻で匂いを嗅ぎながらこういった。
「ここはもう日本じゃない。我らの住まう異世界だ」
「なっ、なんだってどういうことだよ!」
びっくりしたとしゆきは、お社の扉をばっと開けた。見ると外には鬱蒼と茂った木々ではなく、岩壁があった。慌てて外に飛び出ると、お社はなぜか、洞窟の中に建てられていた。前後にどこに続いているか分からない洞窟がぽっかりと空いていた。
「どういうことなんだ」
「あの宝箱には魔法使いの魔法がかかっている。その魔法が建物ごとこの異世界に引きずりこんだと思われる」
「わ、わたしたち、家に帰れるの」
今までずっと黙りこんでいたまなみがとっさに叫んだ。
「それは大丈夫。お嬢ちゃん。異世界とお嬢ちゃんたちが住んでいる世界を行き来できる場所があるんだよ。ただし、ここからだとけっこうな距離があるような気がする」
水色のドラゴンは、やさしくそういった。
それをきいたまなみは、ほっとしたが、前後に広がる暗闇を見ると足がすくんだ。
「やれやれ、ラビネ。安請け合いはよくないぞ。ところで君とお嬢ちゃんはなんという名前なんだい」
手の上にのっているドルダはとしゆきに訊いた。
「ぼくはとしゆきで、こっちはまなみ。安請け合いってどういうことなんだ、ドルダ」
「うむ、我々は魔法使いの手から抜け出すために、ありったけの魔法力を使い、異世界ではなく、君らの住む世界に箱ごとワープさせたんだ。それで君らに見つけてもらえたわけだが、やはり魔法使いの力のほうが強くて元の異世界にワープさせられたわけだ。ここから先は魔法使いの力はさらに強くなる。奴の本拠地だからな。奴は我々を見つけだし、また新たなる箱を作り閉じこめようとするだろう。奴はきっと我々を探そうとするにちがいない。それはつまり、一緒にいる君らにも迷惑がかかるということだ」
ドルダは難しそうに額にしわをよせながら、いいよどんだ。
「ぼくらもその魔法使いに狙われるってこと」
としゆきの顔が一瞬青ざめると、まなみの気もちも、ざわざわとあわだってきた。どうしよう、家に帰れなくなったら。おかあさんやおとうさん、おばあちゃんたちの姿がふっと蘇った。すると急にまなみの目に涙がこみあげてきた。ぽたりぽたりと涙がこぼれると、大きな声で泣き出したくなった。
「おまえ、こんな時に泣くなよな」
まなみの様子にいち早く気づいたとしゆきが、怒ったように呟いた。
「だってお兄ちゃん」
こぼれる涙を押さえながら、まなみは口をとがらせた。こんな洞窟の中に閉じこめられたら、怖いに決まっている。お兄ちゃんだって怖がってるくせに。見ると、としゆきの握りしめている拳が、震えている。自分だってそうなのに、悔しいのと、怖いのが、一緒になって、まなみは盛大に泣き出そうとした。その時
「すまないが、まなみ様。泣くのはご遠慮いただきたい」
申し訳なさそうに、ドルダがそういうと、まなみの涙はぴたりと止まった。




