第49話
『痛い、痛い。わたし、このまま死んじゃうのかな!』
まなみの目に涙が浮かんだ瞬間
「まさか、ダーク! 魔法の封印を解くのか」
「それをやったら心をなくすぞ」
血相を変えたようなドルダたちの声が、まなみの耳に届いた。
『いったいなんの話をしてるの?』
意識が遠のきながらも、まなみはドルダ達の必死な声に、ただならぬものを感じながらも、自分の死を覚悟した。
「なんのための魔法の泉だ。今使わずにいつ使うっていうんだ」
「そもそもあの泉は見つけちゃいけないものだったんだ、ダーク」
「けっ、おれはやるぜ!」
ダークの声とともに、まなみは気を失った。
それからしばらくたってから、まなみは意識を取り戻した。目の前には、さっきの化け物と戦っている大きな黒色のドラゴンの姿が見えた。そしてその戦いを援護するかのように、魔法を使って、ドラゴンの傷をいやしている二人の人間がいた。一人はすらりと背の高い青年で、もう一人は口ひげをたくわえている中年の男だった。ただどちらも金髪の髪をしており、目の色は青く、日本人でないことは、すぐにわかった。その中の青年が、まなみに気づき、戦いの合間をぬって駆け寄ってきた。
「まなみ様、気づかれたのですね」
その声の調子で、まなみはすぐにわかった。
「ラビネ?! あなたラビネなのね」
「そうです。今はドラゴンの姿ではないですが、紛れもなくわたしはラビネです」
寂しげに笑うラビネに、まなみは説明を求めた。
「あそこで魔法を使っているのはドルダです。そして巨大なドラゴンはダークです。ダークが魔法の湧き出る泉の封印を解いたことによって、わたしたちは魔法が使えるようになったのです」
「泉なんて、ここにはないじゃない」
何をいってるのだろうといった顔をするまなみに、ラビネはわかるように話した。
「わたしたちは泉を、わたしたちの心の中に隠したのです。そうすれば、魔法使いから泉を守れると思って。その代わりその泉を使うことはできない。そういう魔法の契約をしたんです。そしてもし、どうしてもその泉を使う時には、人間の心と引き換えにするという魔法の契約を結んだんです。ダークが、自分の心を引き換えに、魔法の泉を使えるようにしてくれました」
ラビネは、化け物と戦っているダークを見つめた。
「そんなことができるんだったら、なぜ早くそうしてくれなかったの。そうすれば、わたしじゃなくて、ドルダたちが魔法で戦ってくれたんでしょ」
「わたし達が、魔法の泉を使えば、魔法使いに泉のありかがばれてしまいます。それもありますが、人間の心を引き換えにしたダークは、人間であったことも、人間の言葉も忘れてしまったのです。今戦っているのは、人間の心を持つドラゴンではなく、目の前の敵を倒すだけに執念を燃やす本物のドラゴンです。ダークはわたしらのこともわからなくなってしまった……」
無念そうに呟くラビネを前に、まなみはダークにとんでもないことをさせてしまったことに気がついた。
「わたしが勝手に扉を開けてしまったから。わたしどうしたら……」
「けど、まなみ様が悔やむことはありません。ダークは自らの意志で決めたことです。何も責任を感じる必要はありません。そもそもダークよりも先にわたしが、封印を解くべきでした。まなみ様を助けなくてはいけなかったのに。申し訳ない」
ラビネは深々と頭を下げた。まなみは無言でラビネを見つめた。
「しかし今は、あの化け物を倒すことが先決です。でないと、ダークの気持ちがふいになってしまう。まなみ様は戦いに巻きこまれないように、後ろに下がっててください」
それだけいうと、ラビネは再び戦いの中へと戻って行った。まなみはとにかく、ダークたちが戦っている部屋の中の後ろへ、目立たないように身をひそめた。
巨大なドラゴンになったダークは、化け物に向かって、全てを焼き尽くすぐらいの大きな火炎を口から吹いた。化け物は苦しそうにうめいたが、身体についてる長いとげを、ダークめがけて、いっせいに放った。とがったとげは、ダークの身体に深く突き刺さり、血がだらだらと流れ出た。
ウォーッ
ダークが狂ったように痛みの声をあげると、ドルダとラビネはいやしの魔法をかけてダークの出血をとめ、傷口が元の状態の皮膚に戻るようにした。その隙に化け物は次なる攻撃をしかけてきた。鋭いかぎ爪で、ダークの身体を引き裂こうと、ざっと斬りこんできた。それに対して、ダークもかぎ爪で化け物につかみかかろうとする。巨大な二匹の獣がもみあいへしあい、互いの命を奪いとろうと、七転八倒している様をみて、まなみは恐怖を感じた。ダークは自分らの仲間ではあったが、その戦いぶりは、情け容赦のないものだった。化け物の身体をかぎ爪で切り裂き、血まみれになった相手に鋭い牙で、かぶりつき、のたうち回る化け物に、灼熱の炎を、いやっというほど浴びせて丸こげにすると、ドラゴンのその鋭いかぎ爪で、化け物の心臓を一突きした。
ギャアアアアアッ
化け物は断末魔の声をあげると、その場に突っぷし、動かなくなった。周りには血の海ができ、ダークもダークで、身体じゅうにとげが突き刺さり、巨大なかぎ爪で切り裂かれた皮膚からはどくどくと血が流れ、このままいくと、出血多量で死んでしまうのではないかと、思われた。それにもかかわらず、ダークは敵がまだ生きていると思っているのか、化け物に食らいつき、うなり声をあげていた。
『ダークであって、ダークでない!』
変わり果てたダークの様子に、まなみは涙が止まらなかった。




