第48話
廊下という廊下をいくつも渡り、石造りの階段をいくつもいくつも駆けのぼり、まなみとドルダ達は、ようやく城の最上階まで上りつめた。たどり着いた一番最上階の廊下は、しーんと静まりかえっていた。
「この廊下の突き当たりの大きな部屋に、塔に続く階段がある。さあ、急ぐのだ、まなみ様」
急いであがってきたせいか、まなみは、ぜいぜいと荒い息をついていた。早く行かなければと思ったが、手を膝にあてて、身体を折ると、息が整うのを待った。ようやく息がおさまると、まなみは顔をあげて前方を見つめた。さっきまで通ってきた廊下と対して特にかわりはないように見えたが、この階の廊下の方が、なぜか暗闇が濃くなったような気がした。
『気のせい、気のせい』
まなみは自分の気を紛らわせようと、そんなことを思った。きっと何かがあるとか思うから、そんな気がしちゃうんだ。自分に言い聞かせながら、一歩一歩歩くうちに遠くの方から変な音が聞こえ始めた。
「ケケケケケッ、ケケケケケッ」
人を小馬鹿にするようなそんな声が辺りにとどろいた。
『この暗闇の向こうに何かがいる!』
まなみは怖くなって、歩いている足を止めた。
「まなみ様、行きましょう」
肩に乗ってるラビネがいった。
「でも」
「ここを通らねば塔の上に行けない」
ドルダにいわれ、まなみは迷った。そして今まで黙っていたダークがしゃべった。
「けっ、ちびちゃんの冒険もここまでってことか。いいんだぜ、とっとと逃げ出しても。まあ、もともと泣いてばかりのガキがよくやったもんだがな」
ダークが乾いた笑いで笑うと、まなみは、むっとした。
『わたしはちびちゃんなんかじゃない! それに最近は泣いてないもん』
まなみが、ダークに抗議しようと思った瞬間、前方から、どしんどしんと、大きな音がした。よく目をこらすと暗闇の向こうに、大きな扉が見えた。その扉の中には巨大な力を持った何者かがいて、扉を打ち破ろうとしていることがわかった。扉は鉄の扉で、まなみ達のいる方から開けられるようになっていたが、中からは鍵がないと開けられないようになっているようだった。
「おにいちゃん達かな?!」
「あの非力のおにいちゃんが、鉄の扉を打ち破ろうとする力なんてないぜ」
ダークが意地悪そうにそういうと、
「じゃあ、今扉の向こう側にいるのは何?」
またどしん、どしんと扉を打ち破ろうとする音が聞こえ、その後には
「ケケケケケッ、ケケケケケッ」
というあの不気味な声が聞こえた。
「扉の向こうにいるのは、この鳴いてる声の正体、間違いなく化け物さ。きっとおまえのおにいちゃんは、その化け物に殺されちまったのさ。悪いことはいわない、引き返した方がいいぞ」
まなみは、ダークの言葉にかっとなると、じわりと涙がこみあげてきた。
「そんなことないもん! おにいちゃんは、生きてる!」
そういうと、まなみはいきなり走り出し、肩に乗ってたドルダとラビネとダークは振り落とされた。そして石の廊下に転がり落ちたドルダは慌てて叫んだ。
「落ち着いてくだされ、まなみ様!」
ドルダの声を聞く前に、まなみは鉄の扉を一人で押し開けようとした。反対側は、鍵がないと開かないようになっていたが、まなみ側からの扉は、まなみがちょっと手をかけただけで、あっというまに開いてしまった。そしてまなみの前にいたものは、紛れもないあの怪物だった。エルフの泉の中で見た、としゆきを丸飲みにした、身の丈は三メートルはあろうかというと怪物だった。この部屋は怪物を閉じこめておくための部屋だったのだ。
怪物は背丈だけではなく、横幅も広く、五メートルはありそうだった。身体は固い皮ふにおおわれ、そこからたくさんのとげが、出ており、赤茶けた色をしていた。口は横に大きく広がり、その間からは鋭い牙が見え、その奥にはとしゆきを丸飲みにした巨大な舌がだらりとたれさがっていた。手足には巨大なかぎ爪があり、ひっかかられたら、ひとたまりもなさそうだった。そして頭には、やぎのような曲がった角が生えていた。
「ケケケケケッ、ケケケケケッ」
あの不気味な声は、間違いなくこの化け物から発せられていた。
まなみは、恐怖のあまり、目を丸くしてその場に立ち尽くした。何かをしなくてはと思った次の瞬間には、まなみはものすごい勢いではり倒された。化け物が、巨大な拳でまなみを殴りつけたのだ。石の廊下に叩きつけられたまなみは、痛さのあまりどうにかなりそうだった。
「まなみ様! 逃げるのです」
ラビネの必死な声に、まなみはなんとか身体を起こし、化け物の手の届かないところに逃げようとした。が、化け物は、まなみの身体を足で踏みつけ、動けないように全体重をかけてきた。
ミシッ、ミシッ、ミシッ。
まなみの身体のあちこちが、圧迫され、身体の骨や肉が鳴り出した。




