第47話
『弱点、弱点っていうか、ともかく追ってこないようにしなくちゃ! そうだ、足だわ』
まなみはすぐさま、魔法を唱えはじめた。怖さで、声がひきつっていたけれど、何度も練習していたおかげで、一語一句間違いなく詠唱することできた。そして、すぐそばまで来ていたゴブリンに向かって、見えない空気のたまをぶつけることを思い描き、最後の言葉を言い終えた。すると追ってきていたゴブリンたちは、いっせいに足をとられ、すってんころりんと、ぶざまに廊下に転がった。まなみはその隙に他の空いている部屋に滑りこむと、ドアが開かないように、部屋の中にあった小さなテーブルをたてかけた。そのほか、椅子やら、樽やら、ドアの前に置き、ゴブリンがすぐには入ってこられないようにした。少しほっとしたが、すぐさまドアをぶち破ろうと、ゴブリン達がドアをドンドン叩く音が聞こえてきた。
「どうしよう!」
まなみが怯えて叫ぶと、ラビネが落ち着き払った声でいった。
「大丈夫です。まなみ様には、魔法があるじゃないですか。今も魔法を使われて、時間を稼いだ。それにヴィルアル様から魔法の訓練を受けたのでしょ?」
魔法といわれて、まなみは急いで荷物の中からスケッチブックと色鉛筆を取り出した。
「それがまなみ様の魔法の杖ですかね?」
ドルダに色鉛筆を魔法の杖といわれて、まなみはちょっと得意になった。
「そう、これがわたしの魔法の杖なの!」
まなみはすぐさま、スケッチブックに何人ものゴブリンを描き始めた。茶色の色鉛筆は、ざっくりとゴブリンたちの異様な姿を描き出し、ごつごつとした腕は、なんでもへし折ってしまいそうなほど強そうに描いた。それから、怖そうではなく、やさしさや礼儀正しさも持ち合わせていそうな紳士的なゴブリンたちを描き出した。
まなみがスケッチブックに描き終えると、数人のゴブリン達が、まなみ達の前に現れた。
一人のゴブリンが口をきいた。
「ご主人様。わたしたちは敵を倒せばいいのですか」
まなみは、自分が想像した通りのゴブリンの口のききように、ちょっとびっくりした。
「そうなの。敵のゴブリンを倒して欲しいの。このドアの向こう側にいるわ」
「わかりました。わたし達に任せてください。必ず倒します。わたしたちが、戦っているうちにご主人様達は逃げてください」
腕っぷしの強そうなゴブリン達は、まなみ達を守るようにまなみの周りをとり囲んだ。
と、その時、本物のゴブリン達が、ついに目の前のドアを蹴破り、まなみ達のいる部屋の中に一気になだれこんできた。
「わあああ!」
本物のゴブリンたちとスケッチブックのゴブリンたちが、奇声をあげながら、それぞれもっている剣や斧で相手のゴブリンめがけて攻撃しだした。
ガンガン、カンカン!
剣や斧のうち鳴らす音が周囲にとどろき、その中をまなみ達は、一人のゴブリンに守られながら、部屋の外へと移動した。部屋の中は大乱闘になっていて、どちらが勝っているのかわからない状況だった。
「さあ、行ってください」
まなみ達を守っていたゴブリンが、上に上がる階段を指し示してくれた。その階段は廊下を真っ直ぐ行った、突き当りの右側にあった。
「ありがとう。でも、本当に大丈夫?」
ゴブリン達の戦いを見届けないうちに、自分達だけ逃げるのは、なんとなく心苦しかった。
「大丈夫です。わたしたちは勝ちます。信じてください」
「行きましょう、まなみ様。あとのことはゴブリン達に任せましょう。何しろ、まなみ様が作り上げたゴブリンなのですから、そこは信じなくては」
ラビネに説き伏せられ、まなみは自分の描き出したゴブリン達を改めて見た。すばやく描いたとはいえ、腕の立つゴブリンたちをイメージして描いたのだ。それが今や本物になりつつある。
『信じよう! ゴブリン達を。思いをこめて描いた絵の力を信じよう!』
まなみは、ゴブリンの手をとると
「お願い、がんばって! わたし達もがんばるから」
それだけいうと、ドルダ達とともに、上の階をめざして、急いで階段を駈けのぼって行った。




