第46話
としゆきが開けたドアは、まだ魔法使いの城へと通じていた。まなみが思い切って開けたドアの先には、暗闇に包まれた城の地下の廊下が、ずっと続いていた。廊下はごつごつとした石で造り上げられていて、歩きづらいものだった。
「暗くて何も見えない」
まなみが怯えた声でそういうと、肩に乗ってるドルダたちが、ところどころで、口から炎をふいて、まなみの行き先を照らしてくれた。しばらくの間真っ直ぐだった道は二手に分かれ、まなみは迷ったが、左の道をとった。それからまた歩いて行くと、二手に分かれていて、今度は右の道をとって歩いて行くと、話し声が聞こえてきた。いくつかある部屋の一つに、どうやら数人の人がいるらしく、皿をたたく音や、グラスのぶつかりあう音が聞こえてきた。
「誰かいるみたい」
「きっと番をしているゴブリンたちでしょう」
小声でラビネが答えると、ドルダがいった。
「奴らなら、としゆき様たちが、今どこにいるか知っているかもしれない。まなみ様。なるべく奴らに気づかれぬよう探ってみましょう」
まなみの心臓はどくんどくんと鳴りだした。
『ゴブリンだなんて、どうしよう』
ファンタジーの本の中で、ゴブリンは、小人は小人でも、ずいぶんと悪賢く描かれていることをまなみは知っていた。実際のゴブリンなんて見たことないけど、ものすごいモンスターだったら、どうしよう。怖い、怖い……。
まなみは抜き足差し足忍び足で、震える体を押さえながら、声の主を探るべく、部屋へと近づいた。見ると、ドアが少しだけ開いている。そこから話し声が聞こえてくる。まなみは息を殺しながら、そのドアのすきまから、こっそり盗み見た。見ると、長方形のテーブルを囲んで、数人の不気味な姿の小人が座っていた。薄茶色の肌をしたその小人は、髪がなく、耳はドラキュラのようにとがっており、口はさけたように、横に広がり、鋭い歯が垣間見えた。手はごつごつした岩のようにもりあがり、筋肉りゅうりゅうとした腕は、どんなものでも砕いてしまう力を持っていそうだった。危うく声をあげそうになったまなみだったが、ダークがしっぽでまなみの口をふさいだ。
「魔法使いの奴、塔の上に人間を閉じこめているだろ。あんな弱っちそうな人間を閉じこめて何をする気なんだかね」
「そりゃ、おまえ食うんだろ」
げびた笑いが、辺りにとどろいていく。
「おれらにくれないかなあ」
「はっ、魔法の契約をしているおれたちにくれるもんか」
「そうさ、そうさ」
「人間の子供の肉は、柔らかそうだ。食べたらきっとうまいにちがいない」
ひひひっと笑いながら、ゴブリンは舌なめずりした。周りのゴブリン達も、片手にワイングラスを持ちながら、もう片方の手で肉を頬張り、そうだ、そうだと賛同した。
それを聞いていたまなみは、手にじんわりと汗がにじんできた。人間の子供というのは、としゆきのことに違いない。魔法使いは人間を食べたりはしないみたいだけど、こいつらに捕まったら、どうなるか分かったもんじゃない。
「人間の子供もうまそうだが、あのどこぞの姫様も白い肌をしていて、うまそうじゃないか」
「用が済んだら、死骸だけもらうか」
ゴブリンが、死骸という言葉を口にすると、肩にのってるラビネが、怒りでわなわなと震え出した。一方まなみは、ごくりとつばを呑みこんだ。ゴブリンの言葉を聞いていると恐怖でどうにかなってしまいそうだった。それにとしゆきとお姫様は塔の上に閉じこめられていることは分かった。ここは地下のようだし、とにかく上の階段をのぼっていくのが、先決だろう。
まなみはそう思うと、忍び足で部屋の前を通り過ぎようとした。そうっとそうっと、慎重に足を運び、音を立てないように。つまさきが、ぶるぶると震え、心臓の音が、どきどきと耳のそばで鳴り響いた。無事部屋の前を通り過ぎると、まなみは、ほっとした。と、その矢先、まなみは廊下の石と石の間に足をとられ、思い切り転んでしまった。
「いたっ」
思わず叫ぶと、部屋の中のゴブリンたちが、いっせいに、部屋の中から、飛び出してきた。
「人間だ! 人間の子供だ」
「上の塔の子供とは違うぞ」
数人のゴブリン達が、頭をよせ合い、ひそひそと相談し始めた。その数人のゴブリン達をかきわけ、ゴブリンの頭領らしい、でっぷりと太ったゴブリンが部屋から出てくると、剣をたかだかと掲げ、叫んだ。
「さあ、おまえら、その人間の子供を捕らえろ! そして料理しろ」
恐ろしい提案が出ると、まなみの顔は真っ青になり、すぐさま立ち上がって、追いかけてくるゴブリンから逃げるために一気に駆け出した。
『どうしよう、どうしよう。わたし食べられちゃう』
その時ラビネが叫んだ。
「落ち着いてください、まなみ様!」
「魔法だ、我らの教えた魔法を使えばいい」
ドルダの言葉に、まなみはあの歌のような魔法を思い出した。
「空気のたまをぶつける魔法?!」
「さよう、奴らの弱点を叩くのですぞ」




