第43話
「さあ、それじゃあ、次は何が出てくるかな」
ヴィルアルの声とともにまなみの魔法の訓練が、また始まった。
それから数時間、まなみはいろんなものを描いた。だいたいが、まなみが読んだファンタジーの本の中にでてきた悪者だった。小賢しいドワーフだったり、不気味な姿をしたオークだったり、ゴブリンだったり、巨大な大蛇も現れた。まなみは、あまりの怖さに震えあがったが、それでも色鉛筆を握りしめて、描きあげた。描きあげたドワーフやオークたちは、力そのものは本物と変わらなかったが、まなみを守る使命感に燃える者達ばかりだった。まなみもそんな彼らに怖さではなく、親しみを覚えた。姿形は凶暴に見えるかもしれないけど、心は違うかもしれない。そんなことを考えるようになっていたまなみだったが、一番最後に出てきた生き物を見て、びっくりした。
それはおあばちゃんの家で見たいも虫だった。
まなみは、とたんにひるんだ。
『気持ち悪い……』
思わず手にとっていた色鉛筆を落としかけた。その時、おばあちゃんの言葉が蘇った。
『わたしらと同じ生き物』
にょろにょろと動くその生き物と、ラビネやグリラスたちが折り重なって見えた。最初は彼らを虫かと思ったけれど、でも実際は違っていた。黄緑のこのいも虫も、本当のところは違うのかもしれない。よく見るといも虫は懸命に草の上をはっていた。そうして生きるために葉っぱをむしゃむしゃと食べ出した。穴のあいた葉っぱは、鍵のような形をしていた。
『まあ! いも虫は食べることによっていろんな形を残してるのかもしれない。芸術家みたいに?』
そう思ったまなみは、少しだけ親近感を持つことができた。まなみは、葉っぱを食べるいも虫を写生し出すと、そのそばには、穴のあいた葉っぱをびっしりと描いた。いろんな形の葉っぱができあがり、それはちょっとしたアートだった。そうして、全てを描きあげた時、スケッチブックから現れたのは、見たこともないきれいなチョウチョだった。薄い水色のハネを広げ、光の中を美しくひらひらと飛び回った。
『あのいも虫が、こんなチョウチョになるなんて!』
まなみがすてきだと思った瞬間、チョウチョといも虫は消えていた。
「さあ、魔法の訓練はこれで終わりだ。準備はいいかな?」
ヴィルアルに訊かれ、まなみは大きく一つ頷いた。




