第41話
「この絵には、まなみの気持ちがこもってるね。魔法に必要なのは気持ちだ。絵だったら、どんな時でも描けるかい」
「どんな時も?」
「たとえば敵に攻撃されている時でも」
一瞬、頭にオオカミに襲われた時のことが、まざまざと蘇った。あんな状態でも描けるだろうか。足で踏みつけにされたら描けないけど、その前の状態だったら描けたかも。確かにオオカミは怖かったけれど、あの銀色の毛並みはきれいだった。描きたいと思えば描きたかった。
「たぶん、描ける」
まなみは確かな自信はなかったけれども、ヴィルアルに認められると、うれしくなってそう答えた。
「よろしい。ならば一つの魔法をまなみに授けよう」
「魔法を授ける?」
「そうだ。まず、まなみが絵を描く時に使う道具を見せてくれないかい」
ヴィルアルにそういわれ、まなみは荷物の中から色鉛筆のセットを取り出した。
「これで、絵を描くのかい」
ヴィルアルに訊かれ、まなみは、こくりと頷いた。彼は色鉛筆のセットの蓋を開けると、色とりどりの色鉛筆に向かって、大きく息を吹いた。その息は、星のようにまたたき、きらきらと輝いた。
まなみには、ヴィルアルが何をしているのか、さっぱり意味がわからなかったけど、その息はとてもきれいで、神秘的に感じられた。
「今のは何をしたの」
好奇心に押されて、まなみはヴィルアルに尋ねると、彼は一言いった。
「今、この絵の道具に魔法をかけたんだよ」
「魔法を?」
目をぱちくりさせてるまなみに、ヴィルアルは説明した。
「その道具で、絵を描くと、絵が本物となって出てくるんだよ」
「それってどういうこと」
「わかりやすくいうと、まなみが倒せなかったオオカミを、まなみが瞬時に描くと、そのオオカミと全くおなじオオカミが一匹現れるってことだよ。しかもそのオオカミはまなみに味方してくれて、敵のオオカミと戦ってくれるんだ。敵のオオカミも味方のオオカミもどちらも同じオオカミだから、力も同じ攻撃力も同じなわけだ」
「すごい!」
まなみが、感嘆して叫ぶと、ヴィルアルは笑っていった。
「でもこの魔法には、いろんな力が試される。まずは、絵が描けること。それから、どんな時でも冷静に相手の様子を捕らえる洞察力と、敵が出てきても、描き切る勇気。それからその人の持つやさしさ」
最後のやさしさという言葉に、まなみが不思議そうな顔をすると、彼は更に説明した。
「魔法を発動させるエネルギーは、その人の気持ちだ。こうしたいああしたいといったその気持ちが魔法になる。それからその人の持つ性質も関係してくる。さっきもいったが、まがまがしい気持ちを持った人が、魔法を使えばまがまがしいものになるし、やさしい気持ちを持った人なら、やさしい魔法になるんだよ」
気持ちによって、そんなに変わるものなのかと思うと、まなみは目を丸くした。それからまなみは、ヴィルアルから、全部で十二色ある色鉛筆を受け取った。
「さあさあ、これからが本番だ。どんな恐ろしいものがでてきても、それを描き切る力が必要だよ」
「じゃあ、魔法の訓練って、絵を描くことなの?」
それなら、なんとかなりそうと思ったまなみにヴィルアルはこう告げた。
「まなみの魔法の場合は、そういうことだね。では、始めようか」
「何を描けばいいの?」
まなみは描く気満々で、色鉛筆を手にするとヴィルアルに尋ねた。
「まずは撃退できなかったオオカミから描いたらどうだい」
それを聞いた時、まなみの心は、ざわついた。オオカミにおさえつけれた首の辺りがまだ痛いような気がして、思わず首に手を当てた。
「怖いかい」
「怖いっていうか、あの時、怖くてオオカミをよく観察できなかった。今描けといっても、ちゃんとしたオオカミを描けない気がする」
「それじゃあ、駄目だよ。どんな時でも描けないと」
「それはそうだけども……」
まなみが困ったように首を振っていると、ヴィルアルがまた一つの提案をしてきた。
「ここにあるエルフの泉はいろんなものを映し出すんだ」
彼は、まなみがさっき手を出そうとした泉を指さしながら、こう説明した。
「まなみが撃退できなかったオオカミも映し出すことができる。君はそれを見ながら描くことができるはずだ。しかしそれだと、実践の君の魔法とはちょっと違うはずだ。実際の魔法は敵と出くわした時に描けるかどうかだ。それでこれは荒療治ではあるけど、泉の映し出したものを実際にこの場に呼びよせる魔法をわたしがこの泉にかけようと思う」
それを聞いたまなみは、体をぶるっと震わせた。
「それって本物のあの時のオオカミが出てくるってこと」
「そういうことだね。どうするやってみるかい」




