第34話
ラビネはロザリオ姫のお付きの騎士になったおかげで、かつては城内の窓から眺めていた美しい庭園を、実際に見て歩くこともできるようになった。刈りこまれた緑の生け垣は背の丈ほどあり、アーチ型や、円筒、三角錐など様々な形があり、一度足を踏み入れれば、日常とは違う不思議な迷路に迷いこんだような気分になる。そして至る所に、色とりどりの花々が咲いていた。淡いピンクの花や、人目を引く鮮やかな黄色の花、真っ白な小さな花の房がいくつも連なり、咲きほこっている様は、この世の楽園のように思えた。穏やかな春の日、日差しの強い夏の日、美しい紅葉の秋の日、人寂しい冬の日、二人は思う存分この庭を散策し、ロザリオ姫はラビネにいろんなことを話した。勉学を教える先生方が、とても厳しいことや、本だけの知識だけではなく、本当の実際の知識を身につけたいこと、実際に庶民の生活を体験してみたいこと、刺繍は苦手なこと。王様がロザリオ姫は亡くなった妃にそっくりになってきたといって笑ったことなど、日常的なことを友人のように語ってくれた。それをラビネは、そうですか、そうですかといって静かに笑って聞いていた。
しかし最近のロザリオ姫の顔からは笑顔が消えていた。今日もまたラビネを伴って、庭を散策していたが、憂鬱そうな表情が消えなかった。そこでラビネは、自作の詩を作って詠みあげた。それは世の中がめまぐるしく変わっても、自然の花たちだけは、毎年咲き続ける不思議さと美しさがあることを歌ったものだった。それを聞いたロザリオ姫は、悲しげな目でありながらも、明るく笑った。
「ああ、ラビネ。本当にそうね。自然たちは本当に何もかも知っているのだわ。知らないのは人間だけかもしれないわね」
「いったいどうしたのです、ロザリオ姫」
ラビネの口からは、そんな言葉が出ていた。ロザリオ姫は目をしばたたきながら、少しの間うつむいた。それからとても小さな声で呟いた。
「ここだけの話よ。戦争になるかもしれないの」
その言葉にラビネの身体は固まった。今は亡き自分の父親の言葉が、頭上から降ってくるような気がした。
「どこの国とですか」
「ガトレア国とイーダー国とウォルター国との陸路の覇権争いよ」
ラビネの顔が、一瞬にして青ざめていく。
「ガトレア国には、ドルダがいるし、イーダー国にはグリラスが。それからウォルター国にはダークがいる。わたしたち兄弟は敵になるかもしれないということですね」
「もし、本当にそうなったら、そうなると思うわ。それもあるけど、あなたも戦場に送り出さなくちゃいけないことがこたえるわ」
ロザリオ姫の顔には寂しげな表情が宿り、みるみるうちに目から涙がこぼれ落ちた。
「大丈夫ですよ。わたしはそう簡単には死にません。それに姫を守るという使命がわたしにはありますからね。死んでしまったら、姫を守れませんからね」
ラビネは強い口調でいい切った。
「わたしのために命を捨てるようなことをしたら、許しませんよ」




