第33話
次の場面では、ラビネが騎士の訓練を受けているところだった。
「いやーっ!」
気合いを込めて、先輩騎士に向かって剣を突き出すが、たちどころに剣をたたき落とされてしまう。
「もう一度」
「はい!」
何度も何度も剣が、はじき返されてしまうのを、ラビネは唇をかみしめながらも堪えていた。
わたしだったら、すぐに根をあげちゃうのになあ。そんなことを考えながら、まなみは、ラビネの剣の訓練を見つめていた。力まかせ的なラビネの剣さばきに対して、先輩騎士の剣の技は冴え渡っていた。少し引いて、相手の力を利用して、さらりと流れるようにかわす様は、見事としかいいようがなかった。その事実に気づいているのか、いないのかわからないが、ラビネは何度でも立ち上がった。
「お願いします」
ラビネが最後の力を振りしぼった声で、そういうと、先輩騎士が手を上げた。
「今日はもう休憩に入っていいぞ」
「はい。ありがとうございました」
ラビネは一礼すると、稽古場の部屋を出て行き、自分の荷物の置いてある小部屋に行くと、いそいそと本を取り出した。それはどこかの外国の本だったけれども、まなみにはタイトルを読むことができなかった。ラビネはその本を手に取ると、大事そうに抱えこみ、小部屋を後にした。
どこに行くのだろうと、まなみもついて行くと、ラビネは城内の一角の窓に着くと、下を見下ろした。見ると、そこにはいろんな形に刈りこまれた緑色の生け垣と、色とりどりの赤や、黄色の花々が咲き乱れた庭園が広がっていた。ラビネはその庭園を見ると、にっこりと微笑み、その窓のそばによっかかると、本を広げ、しばらく読みふけっていた。
「何を読んでいるの」
気がつくと、ロザリオ姫が、ラビネのそばに寄ってきた。
「姫様!」
ロザリオ姫の後に従っていた侍女が慌てて叫んだ。姫という地位にいながら、身分の低い者に気安く声をかけてはいけないと侍女はいいたそうな目をしていた。
「ソフィー、いいのよ。わたしは今この人とお話ししたいの。ねえ、あなたラビネといったわね。何の本を読んでるの」
全く気にしてない様子で、ロザリオ姫は、そのままラビネにたずねると、ラビネはあわてて一礼し恐縮した面もちで答えた。
「詩の本でございます」
「まあ、あなた詩が好きなのね。騎士の方は、詩なんかより、剣の方が好きなんだと思ってたわ」
「わたしはまだ騎士ではないです。騎士見習いです」
「でもいずれ、騎士になるんでしょ」
ロザリオ姫に、顔をのぞきこまれるように、まじまじと見つめられると、ラビネは黙りこんだ。
「わたしも詩は好きなの。宴があると吟遊詩人が詩をのせて歌を歌うでしょう。わたしはまだ小さいから宴には出してもらえないの。でも寝室の窓から時折聞こえてくるの。詩を聞いていると、いろんなことがわかるわ。詩っていいわよね」
大人びた口調で語るこの小さな姫をラビネは、じっと見つめ、静かにいった。
「わたしもそう思います。姫様」
「わたしも短い詩を作ったりするの。そうだわ。わたしの部屋で詩を作りましょう」
ロザリオ姫が、とてもいいことを思いついたばかりに叫ぶと、侍女がすかさず口を出した。
「姫様、それはなりません」
「なぜ?」
「殿方を姫様のお部屋にお連れするなどは、あってはならないことです」
「そうかしら」
「そうですとも」
侍女はぷんぷん怒りながらたしなめた。ロザリオ姫はしばらくむくれていたが、急に元気を取りもどしてこう告げた。
「なら、わたしはラビネをわたしのお付きの騎士にするわ」
「しかし姫様。わたしはまだ騎士見習いです」
今度はラビネが驚いて口を挟んだ。
「その通りです、姫様」
侍女も驚いて、声が裏返った。
「大丈夫。わたしが王様に頼むから」
ロザリオ姫は、微笑んでそういった。それから小さな姫はラビネの耳元にそっとささやいた。
「でも、詩のことは王様には内緒ね」
ラビネも、こくりと頷き、もう一度一礼した。ラビネは、ある程度の騎士見習いの行程を経ると、そののち、ロザリオ姫専属の騎士へとなった。
年月が変わり、小さな姫だったロザリオ姫は、きれいな美しい女性へと変わり、ラビネも相変わらず背は高かったが、少し肉づきがよくなり、昔よりかはがっしりとした体つきの青年へと成長した。
「ラビネ。今日は庭園をめぐりながら、詩の朗読をしましょう」
ロザリオ姫は自分の勉学の時間が終わると、ラビネを引き連れ、よく城内を渡り歩いた。




