第32話
ラビネのその言葉を聞き、父は大きなため息をついた。
「一人の王に仕えるだけでは、何が起きるかわからんだろう。そこの王が死んでしまえば、そこに仕官した騎士も命はない。幸いにしてうちには四人の息子がいる。四つの国にそれぞれ仕えれば、誰かが生き残るはずだ。そしてうちの家系が途絶えることはない」
「そんなことは考えなくても平気ですよ。今どこの王国も平和がずっと続いているではないですか」
「果たして本当にそうなるかね」
父は鋭い目でラビネを見つめ返した。
「世の中絶対ということはないのだよ、ラビネ」
「仮にそうだったとしても、わたしは、わたしは、吟遊詩人になりたいのです」
ラビネは思いの丈をこめて叫んだ。
「なるほど。おまえはそんなことを考えていたのだな」
「そうです。父上」
「しかしそれは駄目だ」
「なぜです」
「なぜなら、うちの家系は騎士だからだ」
「家系がいったいなんだというんです。人には向き不向きがある。わたしに剣は向いてません」
「なぜ、そんなことがわかる」
「わかりますよ。ドルダと比べたら、全然腕が違います」
「ドルダとは年がずいぶん違うからなあ。それは年の差による力量だ。いずれおまえも強くなる」
「そうかもしれませんが、わたしは吟遊詩人になりたいのです」
「確かに、言葉や歌も大事かもしれん。だが、今求められているのは騎士としての力だ。ラビネ。時代は常に動いておる」
「しかし、父上」
まだまだ食い下がろうとするラビネに、父はいった。
「そんなに吟遊詩人になりたいのなら、まずは城に上がることだ。王に吟遊詩人として認めてもらうにしても、城に上がらないことには目にもとまらぬではないか」
「父上!」
ラビネは驚いて父を見つめた。
「しかしラビネ。人と違ったことをしようとする道は、いばらの道であることを知っておかなくてはいけない。わかったな、ラビネ」
「わかりました、父上。わたしはとりあえず騎士見習いとして仕官します」
「わかったなら、食事を持ってきてくれ」
ラビネは頷くと、父の部屋を後にした。こうしてラビネは、クリスタル国に仕えることになった。
場面は移り変わり、まなみは城の中にいた。たぶんここが、クリスタル国の城なのだろう。ラビネも騎士らしき大人の後について、慎重な面持ちで歩いている。厳かな雰囲気の城の廊下に、二人の靴の足音だけが響き渡っている。と、後ろから、カツカツコツコツと、高いヒールの靴を履いて歩いている靴音が鳴り響いた。かなり急いでいるらしく、駆け足だ。大人の女性の姿を、まなみは想像したが、ラビネのそばを通り過ぎたのは、ひらひらの白いドレスを着た小さな女の子だった。豪華そうな衣服を身にまとっていたが、腰まであるやわらかそうな金髪の髪は今起きたばかりのように、ぐしゃぐしゃのままだった。
「姫様! そのような格好でどこに行くのです」
ラビネを先導していたその男性が、眉をひそめながら、声をかけた。
「王様がお帰りになったの。だから会いに行くの」
呼び止められたロザリオ姫は、息をはあはあしながら、それでもこぼれるような笑顔で、答えた。
「しかし、そんな成りでは、王様に会えませんぞ、姫様」
男性はきつい声でそういうと、ロザリオ姫はすぐさま答えた。
「ドレスちゃんと着てるもん!」
「ドレスだけでなく、髪もきちんとせねば、姫様」
いわれてロザリオ姫は、はっとして髪をおさえた。
「あ、わたし、髪を直してこなかった」
急に泣き出しそうなロザリオ姫に、ラビネは自分の荷物の中から、くしを取り出し、ロザリオ姫の髪を手早くとかしてやった。
「これで大丈夫です」
そういうラビネに対して、男性はかっと怒った。
「おまえは、姫様の侍女でもないのに、なんということをするんだ!」
「だめ、怒っちゃ!」
「しかし、姫様」
「これは命令です。もしこの命令に背くようなら、王様にいいつけます」
いわれた男性は、思わず黙ってしまった。
「あなたのお名前は?」
青い瞳のロザリオ姫は、目をきらきらさせながら、ラビネに訊いてきた。
「ラビネと申します。今度騎士見習いとして入ることになりました」
「まあ、そうなのね。王様にいっておきます」
ロザリオ姫は、にこにこしながら、その場を立ち去った。




