第29話
「その通り。しかし我らは魔法使いに教えるつもりはない。そしてグリラスとロザリオ姫を助けに行かねばならない」
「それは大変困難なことだ」
ヴィルアルは眉根をよせ、こう続けた。
「見たところ、君らからは魔法の力がいっさい感じられない。どうやら君らの魔法の力はまったく回復してないようだ。むしろこちらにおられる女の子の方が、魔法の力をお持ちのようだ」
ヴィルアルにそういわれ、まなみはびっくりした。
「わたしは、ついさっき魔法を習ったばかりで、魔法の力なんてない」
「魔法はわたしたちエルフの得意分野だ。魔法の力があるかないか、すぐにわかるものだよ」
「でも、でも……」
「君は現に魔法を使ってカラスを撃退したって話だ。それが動かぬ証拠だ。今はそれについて議論をしている場合じゃない」
「その通りだ、まなみ様」
ドルダも鋭くそういうと、まなみは黙った。そんなこといったって、オオカミの前では魔法を使えなかった。正確には勇気がなくて使えなかったんだけど……。
「とにかく君たちは魔法が今現在使えない。使えるのは女の子だけだ」
「まなみだけでなく、あなたも魔法が使えるんだろ」
としゆきは、怪訝そうにヴィルアルを見やった。
「もちろん、そうだが、一緒に行って戦うことはできない」
その言葉にまなみは絶句した。てっきりヴィルアルも共に戦ってくれるものだと思っていたのだ。
「なぜ戦えないんだ」
としゆきも、疑問に思って、ヴィルアルを問いただした。
「古くからの掟があって、違う種族、たとえば人間の争いごとにわたし達エルフが首をつっこんではいけないことになっているんだ」
「じゃあ、わたしに魔法を教えることもできないの」
まなみは、不安そうな目でヴィルアルを見つめた。
「この世の中に生きてる生き物の手助けをすることは禁止されてはいない。魔法を教えるということは、知恵をさずけるということだ。それ自体はいいとされている。だが、エルフ自ら、魔法を使い人間の歴史を変えることはできない」
「人間の歴史だなんて、そんな大げさな。グリラスやお姫様を助けることがそんな大きなことにつながるとは思えないな」
あきれた声でとしゆきがそういうと、ヴィルアルは、ゆっくりと首を横に振った。
「ちょっとしたことが、歴史を変えてしまうことは多々あるのだよ。もし、わたしらがその魔法使いと対決して、エルフ対魔法使いの全面戦争になってしまったら、君はどう責任をとるんだい。わたしがグリラスやロザリオ姫を助けたいといったばかりに、そんなことになったとしたら、エルフの歴史はそこで変わってしまうだろう」
ヴィルアルの言葉に、としゆきは黙りこみ、そうだろうかと考えた。ちょっと助けることぐらいどうってことないと思うけどな。それに掟だなんて、古くさい。そんなもの破ってしまえばいいのになあ。納得いかなそうなとしゆきとは、裏腹にヴィルアルはこう結論づけた。
「わたしはこの女の子に必要な魔法を教えるが、君らと共に戦うことはできない。としゆきといったかな、君は剣が使えるそうだが、剣の鍛錬もここで行える。力をつけ、魔法使いからグリラスとロザリオ姫を救出するんだ」
人からの命令が嫌いなとしゆきは、少しむっとしたが、それでも自分がゲームの主人公のような気がしてきて、悪い気はしなかった。
「わかった。じゃあぼくとまなみがグリラスと姫を救う」
「でもわたし自信ないよ」
心細げなまなみに対して、ラビネはいった。
「さっきわたしにみんなでロザリオ姫を助けに行こうよといったのは嘘だったのですか」
ラビネの熱い視線にさらされながら、まなみは、はっとした。
『そうだよ、わたしはさっきそういったんだった。ラビネにそういっておきながら、そうしないというのは、間違っている。ただ勇気がないばっかりにできないっていうのはおかしい。オオカミの前では勇気がなくて戦えなかったけれど、今度はちゃんとしなくちゃ!』
まなみは自分を奮い立たせると、大きく頷いた。
「わかった。わたしも一緒に行ってグリラスとお姫様を助け出す」
「どうやら意見は一致したようだね。しかし今晩はゆっくり休んで、明日魔法と剣の訓練を行おう。疲れていては助ける前に倒されてしまうからね」
ヴィルアルは、厳しい表情を少しゆるめて、やさしい口調でそういった。二人は、ほっとしながらも、明日からの訓練はどんなものだろかと不安に思うのだった。




