第28話
食べてみると、肉はとても軟らかく、塩味と胡椒が絶妙にきいていて、いくらでも、もりもり食べられる気がした。スープはスープで、冷え切っていた身体を見るまに温めてくれて、かぼちゃと栗を合わせたような甘いとろりとした味わいは、緊張していた二人の気持ちをほぐしてくれた。焼きたてのパンは、中はもちもち、外はパリッとこんがりと焼けていて、二人の食欲をどんどん満たしていった。
二人が夢中になって食べている間、ヴィルアルとドルダたちは、難しそうな表情を浮かべながら、こんな話をしていた。
「ロザリオ姫がさらわれたというのは、確かなのですか」
ラビネは、ぴんと張りつめた声できいた。それは本当なのか、にわかには信じられないといった様子のラビネに、ヴィルアルは重々しく頷いた。
「クリスタル国から使いが来たんだ。魔法使いはロザリオ姫をさらい、もし返して欲しければ、君らを差し出せといってきたんだ。ラザス王は魔法の力で君らの居場所をつきとめて欲しいといってきた」
「なんと王が」
「クリスタル国に仕えていた君なら分かるだろう。王がいかにロザリオ姫をかわいがっているかを。王は何がなんでも君らを見つけだし、魔法使いとの人質交換をしようとしているんだ」
「もし我らを差し出さねば、姫をどうすると魔法使いは、いってるんだ」
ドルダが射抜くような目で、ヴィルアルを見ると、彼は静かにこう答えた。
「姫を殺すといっている」
それを聞いたラビネは、わなわなと震え出し怒鳴った。
「なんてことだ。グリラスだけでは、たりずに姫まで捕らえて」
いつもは礼儀正しいラビネが、突如大きな声を出すと、まなみととしゆきは、驚いて食事の手を止めた。
「ラビネとお姫様は仲が良かったの?」
まなみは、訊いてよいものか、戸惑ったが、ラビネの様子にただならぬもの感じ思わず尋ねていた。
「ラビネはロザリオ姫と恋仲だったのさ」
面白そうに見ていたダークは、くくっと笑いながら、さらりといってのけた。
「ダーク!」
ドルダが、鋭くしかると、ダークは、舌打ちしながらしっぽを丸めた。それを聞いていたラビネは、否定もしなければ肯定もせず、ただため息をつくばかりだった。そんな様子にまなみは思った。ロザリオ姫とラビネが恋仲?! ふと脳裏に、美しい姫ときりりとした騎士が二人並んでいる姿が浮かんできた。人知れずに思いあう二人。姫と騎士だなんて、元から身分の違う恋だったんだ。しかもラビネは、もう人間の姿じゃない。でもラビネはこんなにもロザリオ姫のことを思っている……。
まなみはラビネのそばに寄ると、声をかけた
「みんなでロザリオ姫を助けに行こうよ」
そういわれたラビネは一瞬ぽかんとした目でまなみを見つめた。それから首をゆっくり振ると、こう続けた。
「ロザリオ姫はわたしたちがドラゴンになったことを知らない。わたしは騎士という身分を捨て、世話になった王国も捨てたのだ。今更会うことなどできない」
目を伏せて話すラビネにまなみは強い調子でいった。
「でもでも、助けなくちゃ。ロザリオ姫はあなた達のせいで捕らえられたのでしょ」
「そうだ、ラビネ。まなみ様のいう通りだ。我らのせいで姫は捕らえられたのだ。助けに行かないわけにはいかない」
「けっ、面倒なことになってきたな。グリラスがさらわれたと思ったら、今度は姫かよ」
ダークがぶつくさ文句をいっていると、ヴィルアルが、間に入ってきた。
「どういうことなんだ。そういえばグリラスの姿が見えないと思っていたが、さらわれたというのは、本当のことか」
「ああ、その通りだ。ヴィルアル」
ドルダがそういうと、ヴィルアルは、ますます難しそうな顔つきになり、腕を組み、うなった。それでドルダは今までのことをヴィルアルに、説明した。
「なるほど。君らはまたあの魔法使いに捕まっていたのだね」
「すまぬ、ヴィルアル」
面目なさそうに、肩をすくめてドルダはいった。
「またっていうのは、どういうことなんだ」
としゆきは、黙って聞いていたが、不思議に思って口を挟んだ。
「我らは以前は大きなドラゴンの姿をしていた。我らは人間の時に学んだ多くの知恵を魔力へと変え、大きな体をしたドラゴンへと変貌をとげたんだ。その魔力を欲した魔法使いは、我らを攻撃し、その魔力を奪い取った。我らは命をとりとめたが、その代わり、今のような小さな体になってしまったんだ。とりあえず小さくなった我らを見た魔法使いは、もう我らには魔力は何もないと思い、去っていったのだが、しかし我らには、まだ魔法を使う力は残っていた。我らは奪われた魔力を復活するためにいろんな知恵を得るために旅をしていたんだ。そして魔法の湧き出る泉を見つけた。我らはそこで魔力を取り戻し、大きなドラゴンに戻るための準備をしようとしていたんだ。その時、あの魔法使いにそれが知られてしまい、我らが大きなドラゴンに戻る前に魔法使いは我らを捕らえ、その泉を我がものにしようとしたんだ。しかしその泉は我らの魔法でなんとか隠すことができた。あとは君らが知ってる通り、我らはあの宝箱の中に閉じこめられていた」
まなみは、驚いて訊いた。
「じゃあ、魔法使いはその泉のありかをドルダたちに訊こうと思って、グリラスやロザリオ姫をさらったのね」




