第27話
オオカミたちに襲われた後、まなみたちは、暗い森の中を用心しながら、歩いて行くと、ほのかに明るい光に包まれた小さな林に行き着いた。ドルダのいうところによると、この林がエルフとの世界をつないでいる入り口という話だった。
「へえ、電気があるわけでもないのに、明るいって、変だな」
としゆきが、ものめずらしそうに、辺りを見回すと、まなみもまなみでラビネに訊いた。
「ひょっとしてこれもエルフの魔法なの?」
「その通りです。エルフたちは来るものは拒まずという信念を持っているのです。たとえそれが夜であっても、いろんな人が来れるようにと入り口は常に、明るい日差しを魔法でつくっているのです」
林の中に入ると、周りは白い光に包まれていた。まなみととしゆきは、まぶしさのあまり目をしばたたき、一瞬目をつぶった。それからゆっくりと目を開けると、暗闇に沈んだ草原があった。そしてその中央には大きなたき火があり、その火は青白く輝き、天までのぼるぐらいの高さまで燃え上がっていた。その周りには何人ものエルフらしき人々が、手に手をとって、踊っている姿が見えた。ハープやバイオリンを、奏でながら、彼らはリズムをとって陽気に踊っていた。美しい銀色の髪をなびかせながら、つんととんがった耳は、高貴そうに見えた。すらりとした長身の彼らは、やわらかな白い衣を身にまとい、軽やかに踊っていた。その中の一人が、としゆきとまなみに気づいたらしく、にこやかな笑みを浮かべながら、二人を手招いた。
「かれはエルフの長です。怖がることはありません」
ラビネにそういわれ、としゆきとまなみは、おっかなびっくりながらも、エルフたちのいるたき火の前へと歩いて行った。青白い炎に照らされながら、長と呼ばれたそのエルフは、目を細めて、二人の肩に乗っているドラゴン三匹を見つめた。
「これはこれは、騎士四人兄弟のうちの三人と、それから……」
としゆきとまなみを交互に見やりながら、
「二人の人間の子供達。よくぞこのエルフの村へやって来られた」
長は満面の笑みを浮かべながら、皆を迎え入れてくれた。
「ドルダ達のことを知ってるの?!」
まなみは、びっくりして思わず長のエルフに訊いていた。長というには、しわ一つない顔立ちのそのエルフは思慮深げな深緑の瞳をくるりと光らせながら、笑っていった。
「我らは友人なのです」
「お友だちなの?」
「友人というより、我らの恩人だ」
ドルダがそういうと、ラビネがつけ加えた。
「わたし達に魔法を教えてくださったのが、エルフの長であるヴィルアル様です」
「えっ! そうなの?」
まなみは、ますます驚いて声が裏返った。エルフなんていったら、ファンタジーの世界では、ほんとに神秘的で尊い存在なのに、そんな種族から魔法を直接教えてもらったなんて、すごい! まなみの心がそんな風に浮き足立っているそばで、ヴィルアルが、ドルダに話し始めた。
「今またよくないことが起こり始めている。君らが来たということはまさにちょうどよかったかもしれない」
「それはいったいどういうことなのだ。ヴィルアル」
ドルダが尋ねると、穏やかな表情を浮かべていたヴィルアルの顔は、たちまちのうちにくもり、くぐもった声で告げた。
「クリスタル国のロザリオ姫が、魔法使いに連れさらわれたという知らせが入った」
それを聞いて、顔色を変えたのが、ラビネだった。
「姫が、姫がさらわれたというのは、本当のことですか」
驚きとともに苦痛の表情を浮かべたラビネを見て、まなみは急に心配になり出した。
「どういうことなの?」
いつもはやさしく説明してくれるラビネだったが、この時ばかりは、沈痛な面もちのまま、黙りこくってしまった。としゆきも、ドルダの方へと視線を投げると、ドルダはドルダで困ったように大きなため息をついた。
「とにかく君らには休養が必要のようだ」
ヴィルアルは、まなみたちを引き連れて、暗やみの草原をつっきって行った。そしてその先には、ほっそりとした白い三角錐の岩山が現れた。その岩山は白い光を自ら放っており、周りは昼間のように明るかった。岩山にはたくさんのドアがついており、いろんな部屋へと通じているようだった。
「さあ、ここが我らの住まいだ。ゆっくり休んでくれ」
ヴィルアルは、微笑むと、一つのドアを開け、まなみととしゆきを部屋へと通してくれた。
部屋の中は、草や木が編まれた自然の匂いのする壁にかこまれていた。真ん中には、羊毛で編まれたふかふかのソファがあり、二人はそこに座るように促された。そうして、ヴィルアルが、ぱちんと指をならすと、二人の目の前のテーブルには、香ばしい香りのする肉のかたまりと、甘い香りのするスープと、いろんな形の焼きたてのパンが、こんもりと現れた。まなみととしゆきは、驚きとともにこう叫んだ。
「今のは魔法?!」
それを聞くとヴィルアルは、にこにこ笑いながら、頷いた。
「そうだ、魔法だ。遠慮なく食べるといい」
二人は目を丸くして、湯気の立つ料理を見ていたが、自分たちのお腹がぐうっと鳴ると、少し顔を赤らめながらも、目の前の料理に手を出した。




