第25話
妖精の国から戻ってきたとしゆきとまなみ達は、エルフの村を目指した。森の中を歩きに歩いて数時間が経過したが、それなのに、エルフの村らしきものはまだ見えなかった。昼の光がいつのまにか、夕方へと変わっていったが、まなみは歩くことに意識を集中していたので、辺りの変化に気づかなかった。気づいた頃には、森の中は夕闇に包まれ、暗い影が忍びよっていた。夜になって聞こえてきたのはかわいい小鳥の声ではなく、ねぐらに戻るカラスの声や、これからが本番のふくろうの声が、飛び交っていた。草や木々の間からは、小さな光る目がときどき見え、森の中の獣たちが、まなみ達の様子をうかがっているように感じた。まなみは背すじに冷たいものを感じながらも、懸命にとしゆきの後について行った。としゆきも、としゆきで、ドルダにいわれるままに歩いて行ったが、だんだんと暗くなっていく森の様子に心細くなっていた。
「エルフの住む村はまだなのかよ」
怖い反面、ちょっといらつきながらも、としゆきは、肩にのっているドルダに問いただした。
「あともう少しだ。あと少し行ったところに、エルフの村がある」
ドルダにそういわれ、としゆきとまなみは内心ほっとした。よかった。この暗い森の中を歩くのは怖いものと、まなみが思ったその時、近くの草むらが、ガサガサッと大きな音を立てた。
ガルルルルルッ
茂った草むらの向こうから、突如銀色の毛波のオオカミたちがうなり声をあげながら、現れた。十何匹ものオオカミ達は、まなみ達を取り囲むと、ウーウーッうなりながら二人との距離を縮めていった。そしてリーダーらしきオオカミが口を開いた。
「そこの人間、おまえらには用はない。用があるのは、その四匹のドラゴンだ。おとなしくそのドラゴンを渡せば、おまらには何もしない」
「もし、渡さないといったら」
としゆきは、腰に差してある剣を手に取ると、震える手で剣を構えた。肩に乗っているドルダとダークも口から炎を吹きながら、オオカミの攻撃に備えた。
「まなみ、魔法を使え。戦うぞ」
「えっ、でも……」
まなみは怯えて、としゆきの言葉に反論しようとしたが、その瞬間にはオオカミ達が踊りかかってきた。鋭い牙が、としゆきの腕に食らいつこうとしたが、としゆきはすばやく動き、剣ではじき返した。
次々と襲いかかってくるオオカミたちに、ドルダとダークも炎を吹き出し、応戦した。
まなみはまなみで、恐ろしさに首を縮めて、座りこんでしまっていた。ラビネは、炎でオオカミ達に立ち向かいながらも、まなみに必死に声をかけた。
「まなみ様。このままではわたしたちは殺られてしまいます。カラスを撃退したように、もう一度魔法を使っていただけませんか」
「でもっ、でもっ」
涙目になりながら、まなみは首を横に振った。カラスの時ならまだしも、今度はオオカミなのだ。かまれたら痛いどころのさわぎではない。ひょっとしたら死んでしまうかもしれないのだ。そんな怖い相手と戦わなくちゃいけないなんて、絶対嫌だとまなみは思った。
その時だった。一匹の大きなオオカミがまなみめがけて、突進してきた。ぎらぎらと光った黄色の目で、まなみを睨みつけながら、目にもとまらぬ速さで走ってくると、まなみに飛びかかり、体をどんっと押し倒した。まなみはオオカミの大きな足に踏みつけられ、体の自由を奪われた。思わず目をつぶると
『もうだめだ。このオオカミに食い殺される』
そう思ったとたん、オオカミは、まなみの予想しなかった行動に出た。まなみの肩から転がり落ちたグリラスを、口にくわえたのだ。突然の出来事で、無防備だったグリラスは炎で反撃することもできず、オオカミに捕らえられてしまった。
「あっ」
まなみが声をあげるのと同時に、突然空から不思議な声が降ってきた。
「おまえたち、一匹捕らえたら、城へ戻ってこい」
オオカミたちは皆顔をあげ、空を見上げた。その瞬間ものすごい風がまき起こり、としゆきとまなみも風で飛ばされかけたが、そこはふんばって、耐えた。
ゴオオオッ
地鳴りのような風の音がしたかと思うと、辺りは急に静かになった。空を見上げると、風に乗って、夜空を走っていくオオカミたちの群が見えた。
あまりの突然の出来事に、まなみととしゆきは、へなへなと地面に座りこんだ。さっきオオカミに押さえつけられた首の辺りが、まだじんじんと痛い。なのに、周りはさっきあったことが嘘のように、静まり返り、規則正しいふくろうの声が流れている。これが本当のことでなければいいのに、まなみが切実にそう思った時、ドルダが口を開いた。
「グリラスがさらわれた」
無念そうに呟くドルダにラビネがいった。
「助けに行きましょう」
ラビネが固い意志をもってそういうと、ダークが面倒くさそうに呟いた。
「まったくかったるいなあ。こんなガキのせいでグリラスがさらわれるなんてな」
「なんだと!」
ダークの言葉に、さっきのオオカミの攻撃で傷だらけになったとしゆきが、拳を握りしめて、ダークを殴ろうとした。
「やめてよ、お兄ちゃん」




