第24話
それでまなみは、王女のために、一番豪華そうな飾り棚が置いてあった部屋の様子をざっと描きあげた。それを見た王女はいった。
「ううん、いいわね。とても独創的で。この絵もらってもいいかしら」
「うん、別にいいけど。でもそれ、そんなにうまくないよ。わたしの絵よりも城の宮廷画家さんの絵の方が、厳かで素晴らしいと思うけど」
「そんなことないわ。あなたの絵の方がとても斬新よ」
「そうかなあ……」
おずおずというまなみに、王女は最初は笑っていたけれど、城の回廊を歩きながら静かにこういった。
「わたしもう飽きちゃったの。ここでの生活に。ここに飾られている絵だって、いっつも同じで……」
「だったら、新しい絵を宮廷画家さんに描いてもらえばいいんじゃない?」
まなみがそういうと、王女はしばらく黙ったあと、こう続けた。
「それだってずっと同じ宮廷画家が描いているんですもの。皆同じように見えるわ。ねえ、わたしは何歳に見える?」
王女に突然訊かれて、まなみはちょっと戸惑ったが、
「わたしと同じ十歳かなあ」
それを聞いた王女は、ふふっと笑った。
「そう、あなたにはそう見えるのね。でも実際のわたしの年齢は千五百歳」
「せ、千?!」
びっくりしたまなみは、言葉を失った。まさか王女が自分よりもずっと年上で、しかも千年近くも生きてるなんて思えなかったのだ。
「ここの城にいると、年をとらないのよ。若く永久に生きることができる。だからもしだけど、ここの暮らしが楽しそうに見えるなら、あなたもここで暮らさない? あなたがわたしのそばで、好きな絵を描いてくれたきっと毎日が素敵なんじゃないかと思うの」
王女にそんな提案をされ、まなみの胸は高鳴った。
『永久にここで遊んで暮らせる!』
それはとても魅惑的に思えた。かわいいドレスを着て、毎日が舞踏会。見るからに美味しそうな数々のごちそうに、ふかふかのベッドで眠る毎日。それから好きな絵をいくらでも描ける自由な時間。しかもそれが、永久だなんて。夢といえば、夢だ。でもと、まなみはふと考えた。本当にそれが、幸せだろうか。もし、幸せだったのなら、王女はこの城から出ようなんて、思わなかったに違いない。それに王女の言葉、飽きちゃったって言葉がとても気になった。もし飽きても、わたしは城から出ることはできないってことだ。それにたとえ、人間界に戻れたとしても、永く生きてしまったら、おとうさんや、おかあさん、おじいちゃんや、おばあちゃんは、もうこの世にいないかもしれないのだ。そんなこと耐えられない。そう考えたまなみは、王女にこう告げた。
「ごめん。わたしはやっぱり人間界に戻る」
それを聞いた王女は、ふっと寂しそうな顔をした。
「そうね……。それはそうね。あなたの選択は間違いないわ。ごめんなさいね。変なこと言っちゃって」
「ううん。そんなことない」
「そうとなったら、あなた達を元いた世界に戻さないとね。それから時間もちょびっとだけ戻すわね」
「例の逆さまの砂時計で?」
「ええ、そうよ。ちょっと待ってくださるかしら。その砂時計を少しだけ戻してくるから」
「わたしも行っていい?」
「いいえ、駄目よ。逆さまの砂時計は妖精の国に代々伝わっているもので、王族の者しか見ることはできないのよ。だからここで待っててくださらない」
「うん、わかった」
まなみが頷くと、王女は急いでどこかに行ってしまった。それから城の回廊のそばでしばらく待っていると、王女が走ってやってきた。
「今時間を戻しておいたわ。だから早いとこ、まなみのお連れの人達のところに行きましょう」
「うん」
二人は慌てて、元いた大広間へと戻って行った。それからその隣の部屋で、お腹いっぱい食べたとしゆきや、ドルダ達がくつろいでいるのが見えた。
「みんな! 王女が時間を戻してくれたから、王女と出会った小川に戻るよ」
まなみが皆にそういうと、ラビネは王女にお礼をいった。
「おお! 時間を戻してくれたのですね。ありがとうございます」
「逆さまの砂時計ってやつか。ぼくも見たかったな」
としゆきは少し残念そうに呟いた。
「詳しいことはあとで、まなみに聞いて。早く戻らないとまた時間が経っちゃうわ。さあ、こちらへ」
案内された場所は入ってきた城の門の前だった。
「わたしの侍女があなた達を元いた世界まで、誘導するわ。カヤ、頼んだわよ」
カヤと呼ばれた侍女は、一歩前に出てくると、としゆきとまなみにいった。
「さあ、わたしの手を握ってください。飛んで行きますよ」
としゆきとまなみは、王女の手をつかんだ時と同じようにその侍女の手を握りしめた。それからまなみは、王女に向けていった。
「いろいろありがとう。楽しかった。さようなら」
「ええ、わたしも楽しかったわ。さようなら」
そういった王女の顔は笑顔ではあったけれども、とても寂しげだった。
「それでは行きます」
侍女が、空へと舞い上がると、ドルダ達も舞い上がった。後ろを振り返ると、王女が手を振っていた。上へ上へと行くに連れ、来た時と同じようにまた白い霧が出てきた。そうして気がつくと、まなみやとしゆきは、王女と出会った小川のそばに倒れこんでいた。そばにはドルダ達も倒れこんでいて、皆は、ゆっくりと起き上がると、自分の身が怪我ひとつないことを確認した。としゆきとまなみの身体の大きさも元通りに戻っていた。
「どうやら無事に戻れたみたいで」
ラビネがそういうと、
「時間も戻ったようだ」
ドルダが太陽の高さを確認しながら、そういった。
「なんだか不思議な夢を見ていたような感じだなあ」
「ほんとに夢を見ていたような気がするわ……」
まなみは今まであったことが、嘘のような気もしたけれど、王女の寂しげな最後の顔が脳裏に残っていて、それが事実であったことを証明していた。
自由だけど不自由な妖精の王女が、なんだかかわいそうな気がして、まなみの胸は少しちくりと痛いんだ。
「さてと、旅の続きだ。元の道に戻ろう」
としゆきはそういうと、自分の肩に、ドルダとダークを乗せ、歩き出した。まなみもラビネとグリラスを肩に乗せると歩き出した。
「まなみ様。なんだか元気がないように見えますが。大丈夫ですか」
様子が変だと思ったラビネが声をかけてきた。
「ううん。なんでもない。なんでもないの」
まなみは笑顔で答えたけれども、切ない思いは、なかなか消えなかった。




