第20話
「あら、一時間なの。それくらいなら、待ってやってもいいわ。じゃあ、そののりとかいうので、つけてくださらない」
「分かりました。今薬草とのりを持って参ります」
すると、ノアは急いで小屋の中へと入って行った。
「ちっ、あと一時間も待つのかよ」
としゆきの肩に乗っているダークが呟くと、としゆきがいった。
「けど、妖精の国にある砂時計とかいうので、時間が戻るっていうんだから、なんか得じゃないか」
「何いってんだ。結局、一時間は一時間だろ。その間何してりゃあいいんだ」
「ふむ。ともかく、小人も王女の羽も見つかって、とりあえずはよかった」
ドルダがそういうと、ラビネも頷いた。
「そうですね」
ドルダ達のやりとりを聞いていた王女が、口を挟んできた。
「一時間あるなら、すてきな午後のお茶ができそうだわ。ノアに言ってお茶を用意させるのよ」
「けっ。また眠らされたら、どうする気だ」
意地悪く言うダークにまなみがいった。
「もう羽は計ったんだし、わたし達が眠らされる理由はないんじゃないかなあ」
「それもそうですね」
ラビネがそういった矢先、ノアが小屋から出てきた。まなみ達のやりとりをどうやら聞いていたらしく、苦笑いを浮かべていた。
「大丈夫です。今度は信用してください。あなた達を眠らしたりはしませんよ。妖精さんの背中に羽をつけ終わったら、午後のお茶にしましょう」
そう言うと、ノアは木製のすり鉢と薬草を何枚か持ってくると、すりこ木で、ごりごりと薬草をつぶし、そこにねばねばしたのりようなものを混ぜ合わせた。
「これで大丈夫でしょう。妖精さん。ちょっと背中をお貸しください」
王女はいわれるままにノアに背中を向けた。ノアは慎重に、元々羽のあった場所を確認すると、羽を一枚ずつ、薬草と混ぜたのりで、くっつけていった。
「ねえ、なんで薬草を混ぜたの」
不思議に思ったまなみが訊くと、ノアはこう答えた。
「羽を身体からはがしてしまったので、多少傷があると思うんです。その傷が痛まないように、のりに薬草を混ぜたのです」
「そっかあ、そうなのかあ」
まなみは目を丸くして頷いた。それからまなみは
「ノアは薬草について詳しいの?」
まなみがすかさず訊くと
「わたしが詳しいのは薬草だけじゃない。木にも詳しいし、星のことだって詳しい。紅茶にだって詳しいんだ」
と、胸をそらして答えた。
「それなら、わたし達に特別な紅茶をごちそうして!」
まなみがそういうと、ノアは満面の笑みを浮かべてこう続けた。
「ええ、ええ。そのつもりですよ。妖精さんが羽を貸してくださったおかげで、わたしは空を飛べそうですからね。そのお礼は是非ともしないとね」
「それでわたしは、一時間ぐらい羽を動かさなければいいのかしら」
まなみとノアの会話に王女が割って入った。
「そうです。それぐらいで大丈夫かと。申し訳ないですが、しばらくは動かさないでくださいね。その間午後のお茶にしましょう」
「今度眠り薬を入れたら、ただではおかないわよ!」
王女がきっというと、ノアは深々と頭を下げて、謝った。
「ほんとうに申し訳なかったです。その代わり特別な紅茶をいれましょう」
ノアは小屋の中へと入ると、小さな長テーブルを運んできた。そこに白いテーブルクロスをかけると、小さな花瓶を持ってきて、青い青い小さな花を飾った。そうしてそれが終わると今度は人数分の小さなティーカップを銀のお盆にのせてやってきた。
「このティーカップは我が家に代々伝わるお客様用のカップなんです」
まなみは、とても小さなそのカップを指でそうっとつまんで、自分の目に近づけた。カップは青色の陶磁器でできていて、たくさんのまばゆくばかりの星が描かれていた。
「すてき! 星のティーカップなのね」
「そうなんです」
まなみがうれしそうに叫ぶと、ノアは満足そうに頷いた。
「実はわたしの先祖は海を渡ってきた小人なんだそうです」
「小人なのに海を渡ってきたのか。それはなんだかすごいな」
今までずっと黙って聞いていたとしゆきが、驚いて声をあげた。
「なぜ渡ってきたかはわかりませんが、そう聞いてます」
「でもここらへんに海なんてあるのかな?」
まなみが不思議そうに訊いた。
「それを確かめるために空を飛びたいと思ったのです」
「それが空を飛びたい理由なの?」
まじまじと見つめてくるまなみに、ノアはこう語った。
「そうなんです。わたしは、先祖が渡ってきたという海を、この目で見たいのです。もちろんそれだけじゃありません。空が飛べたらいろんなところに行けるでしょう。そしていろんなことを知ることができるでしょう」
目を輝かせるノアに、王女が悲しげに嘆いた。




