第2話
何事かと思ったおばあちゃんが家の中から出てきて、まなみのそばに駆けよった。
「いったい何があったの」
心配そうなおばあちゃんは、まなみの震える手を握った。するとまなみは泣きながらいも虫を指さした。
「なんだ、いも虫じゃないかい。あんなのが怖いのかい」
「だって気持ち悪い」
くすんくすんと鼻を鳴らしながら、まなみは不気味そうに、いも虫を見た。
「いも虫だって、わたしらと同じ生き物なんだから、怖いことなんかあるものか」
そういって、おばあちゃんは笑った。
「同じ生き物?」
「そう、同じ生き物だよ。」
「でもでも、なんか気持ち悪い」
「ちょっと見た目が違うだけだよ。いも虫からすれば、人間のほうが数倍怖いだろうに」
「えっ、なんで」
まなみは不思議そうな顔をした。
「だっていも虫よりも人間のほうが体が大きいだろう。ずいぶんと大きな生き物だな、怖いなあって思ってるんじゃないかね」
「ううん、そうかあ」
まなみは小首をかしげながら、いも虫をじっと見つめた。いも虫は野菜の葉っぱの上をにょろにょろとうごめいている。いも虫だって生きている。心だってあるかもしれない。でも、でも。まなみは心の中で呟いた。やっぱり気持ち悪い。まなみがまた泣きそうな表情をすると、おばあちゃんがいった。
「さあさあ、気分を変えて家の中へお入り。ずいぶんと日差しが強くなってきたからね」
そういわれれば、今日の太陽はかんかん照りである。テレビのニュースでも熱中症に気をつけるようにいっていた。まなみは素直に頷くと、スケッチブックを手に持ち、家の中へと入った。
中に入ると、おじいちゃんと、としゆきが、ちょっとしたことでいい争いをしていた。
「そんなにゲームばっかりしてたら、目が悪くなるだろうが」
「ぼく、目は悪くないから大丈夫だよ。ちょっと悪くなった方がいいぐらいだよ、おじいちゃん」
「なにをいってるんだ。悪くなってからじゃあ、遅いんだぞ」
おじいちゃんは、屁理屈をいうなといわんばかりに怒鳴った。
「大丈夫だよ、おじいちゃん、自分のことは自分が一番わかってるんだから」
としゆきは、なんともないといった顔をすると、そのままゲームを続けようとした。
「宿題はどうした。もうやったのか」
「一応家でやって来たよ。だからもうずっとゲームやっててもいいでしょ?」
こびるような目つきでとしゆきはおじいちゃんの方を見た。
「いかん、いかん。いい子供が遊んでばかりじゃいかん。お手伝いぐらいしなさい」
おじいちゃんは、としゆきの言葉をぴしゃりと突き放すと、腕組みをした。
「二階に納戸がある。あそこにおいてある物を整理しなさい。物と物をきっちり区別するんだぞ」
「納戸?」
としゆきが、聞きなれない言葉に戸惑うと、
「まあ、物置部屋といったところだ」
と、おじいちゃんは説明してくれた。
「それが終わったらゲームしてもいい?」
「一時間だけだぞ」
時間制限のかかったゲームプレイに、としゆきは、また文句をいいかけたが、いってもしょうがないかと思ったのか
「わかったよ。おじいちゃん。じゃあ納戸を片づけたら、ゲーム一時間ね。約束だよ」
と、あきらめ顔でいった。
「ああ。約束だ」
「まなみ、おまえも手伝えよ」
としゆきは、まなみの首根っこをつかみながらそういった。
「えっ、だっていわれたのはお兄ちゃんでしょ」
「いいから、いいから手伝え。二人でやったほうが早いだろ」
としゆきは、まなみを強引に二階へと連れて行った。
納戸は二階の部屋の一番奥にあった。上の方に小さな天窓がついてるだけで、部屋の中は、薄暗かった。ここ最近人が入ったこともないらしく、埃がつもっていた。としゆきと、まなみは、恐る恐る入ると、辺りを見回した。大昔に使われたお茶わんとお皿がごっそり置いてあるかと思えば、使い古された座布団や、布団がごちゃまぜに積まれていた。かと思えば、昔おかあさんが子供の頃遊んだと思われるままごとセットやマンガ雑誌が、あちこちに散らばっていた。
「いやや、これはひどいなあ」
としゆきは、埃が口に入らないように口を押さえながらいった。
「これ、おかあさんのかな」




